ダンベルフライとダンベルプレスの違いは、肘を曲げ伸ばしするかどうかの1点に集約されます。プレスは肩と肘の2つの関節を動かす多関節種目で、大胸筋に加えて上腕三頭筋も働きます。フライは肘の角度を固定したまま、肩関節だけで腕を閉じる単関節種目です。ExRx.netの分類でも、プレスは主要種目(Basic)、フライは補助種目(Auxiliary)に置かれています。ただし「だからプレスを先にやるべき」と言い切れるかは、筋力を伸ばしたいのか胸を大きくしたいのかで変わります。

違いは肘を使うかどうか|狙う筋そのものは同じ

ExRx.netは種目ごとに、狙う筋(Target)・協働する筋(Synergists)・姿勢を保つ筋(Stabilizers)を分けて記載しています。この2種目を並べると、違いがどこにあるのかがはっきりします。

ダンベルプレスとダンベルフライ(ExRx.netの分類)
項目ダンベルプレスダンベルフライ
役割の分類Basic(主要種目)Auxiliary(補助種目)
動作の仕組みCompound(多関節)Isolated(単関節)
狙う筋大胸筋の胸肋部大胸筋の胸肋部
上腕三頭筋の役割協働筋安定筋
上腕二頭筋の役割動的安定筋(短頭)協働筋(短頭)
曲げ伸ばしする角度を固定する

出典: Dumbbell Bench Press / Dumbbell Fly2026-08-08 確認)

Utility / Mechanics / Target / Synergists / Stabilizers の各項目を両ページから転記したもの(2026-08-08 取得)

注目したいのは、狙う筋がどちらも大胸筋の胸肋部で同じだという点です。違うのは筋そのものではなく、そこへ負荷を届ける経路になります。

ExRx.netの用語集では、Basicを「補助種目より大きな重量を扱え、より多くの筋量を使う主要な種目」、Auxiliaryを「主要種目を補うことのできる任意の種目。主要種目ほどの重量も筋量も使えないのが普通だが、特定の筋や筋の一部により強い相対的な負荷をかけられる」と定義しています。多関節(Compound)は「2つ以上の関節運動が同時に起こる種目」、単関節(Isolated)は「はっきり区別できる関節運動が1つだけの種目」です。

大胸筋の胸肋部が担当する動きは、StatPearlsの記述では水平内転・垂直内転・伸展・内旋の4つです。フライはこのうち水平内転だけを取り出し、肘の角度を固定して他の動きが混ざらないようにした形にあたります。

筋活動の実測|プレスで三頭筋、フライで二頭筋

分類上の役割の違いは、筋電図の測定にもそのまま出ています。Solstadらが2020年に発表した研究では、トレーニング経験のある男性17名が、バーベルベンチプレスとダンベルフライをそれぞれの6RM負荷で行いました。

動作全体の筋活動は、大胸筋がプレス側で16%高く、三角筋前部で25%、上腕三頭筋では75%高いという結果でした。逆に上腕二頭筋だけはフライ側が76%高くなっています。

上腕三頭筋はプレスでは協働筋、フライでは安定筋です。上腕二頭筋の短頭はその反対で、フライでは協働筋に入ります。ExRx.netの分類と測定値の向きが一致しているので、肘を使うかどうかという1点の違いが、実際に働く筋の顔ぶれを入れ替えていると読めます。

差が消える区間がある|押し始めでは並ぶ

もう一歩細かく見ると、この研究のおもしろいところが出てきます。研究チームは動作を、下ろす局面と押し上げる局面それぞれ3区間、合計6区間に分けて比べました。

  • 下ろす局面は3区間ともプレスが高い(上42%・中21%・下23%)
  • 押し上げる局面は、上の区間だけプレスが高い(34%)
  • 押し上げる局面の中間と下の区間では、差が出なかった

差が消える下の区間は、腕を広げきった位置から押し返し始めるところです。研究チームはその理由を、この局面ではフライ側の外部モーメントアーム、つまり肩からダンベルまでの距離がプレスよりはるかに長いためだと説明しています。ダンベルが体から遠いほど、同じ重さでも肩関節にかかる負担は大きくなります。

重量の差を思い出すと、この結果の意味がはっきりします。同じ研究で被験者が扱った6RMの重量は、バーベルベンチプレスが合計88.5kg、ダンベルフライが合計40.5kg。計算すると片手あたり約20kgで、フライの重さはプレスの半分以下です。それでも押し始めの区間では大胸筋の活動が並んだということになります。

なお、この2種目を直接比べた研究はもう1本あります。Welschらが2005年に、男女12名を対象にバーベルベンチプレス・ダンベルベンチプレス・ダンベルフライの3種目を6RMで比較したものです。こちらでは大胸筋と三角筋前部の活動量に3種目で有意差は出ませんでしたが、フライだけは筋が活動している時間の割合が有意に短いという結果でした。結論は「ダンベルフライは補助種目に向いており、バーベルとダンベルのベンチプレスは互換的に使える」というものです。2本の結論は完全には一致していませんが、フライを補助として位置づける点では同じ方向を向いています。

扱える重量が違う理由

関節が1つ減れば、動員できる筋も減ります。加えてフライは、一番下で腕が体からもっとも遠くなる姿勢を通ります。この2つが重なるため、扱える重量はプレスより大きく下がります。

公開されている記録データでは、ダンベルフライの重量はダンベルプレスのおよそ6割です。レベル別でも体重別でも同じ比率に収まることはダンベルフライの平均重量で表にしているので、具体的な数字はそちらを見てください。ここで押さえておきたいのは、軽いことが弱いことを意味しないという点です。同じ6RMという相対的なきつさで比べているのに、絶対の重量は倍以上違います。

1RM計算機(%1RM換算表つき)重量と回数から最大挙上重量を推定できます。プレスとフライそれぞれの推定1RMを出せば、同じものさしで比べられます(登録不要)

ダンベル特有の事情もあります。ダンベルにかかる力の向きは常に真下なので、腕を閉じて垂直に近づくほど胸にかかる負荷が抜けていきます。閉じ切った位置まで抵抗を残したい場合は、ケーブルクロスオーバーのように張力の向きが変わらない器具のほうが向いています。

使い分けの基準|メニューへの並べ方

順番は筋力に効いて、筋肥大には効かない

米国スポーツ医学会(ACSM)は2026年、17年ぶりにレジスタンストレーニングのポジションスタンドを更新しました。137本のシステマティックレビュー、のべ3万人以上のデータを統合したもので、種目の順番についてはこう整理されています。

種目の順番が結果に与える影響(ACSM 2026)
指標順番の影響根拠
筋力影響する4つのレビュー・のべ941人
筋肥大影響しない4つのレビュー・のべ759人
単関節か多関節か(筋肥大)判断できないデータ不足

出典: ACSM Position Stand. Resistance Training Prescription for Muscle Function, Hypertrophy, and Physical Performance in Healthy Adults2026-08-08 確認)

表4の Exercise order と Type: Single-joint vs multi-joint の行を要約したもの。筋力の推奨条件には「セッションの最初に行うこと」が挙がっている

筋力についての推奨条件には、重い負荷・全可動域・2〜3セット・週2回以上と並んでセッションの最初に行うことが入っています。一方で筋肥大は、順番の影響を受けないという判定でした。

2009年版にあった「大きい筋群を小さい筋群より先に、多関節種目を単関節種目より先に」という有名な推奨は、いまも有効ですが、証拠の強さがもっとも弱い区分(Evidence category C)で示されたものです。同じ文書のなかで、単関節種目と多関節種目の両方を含めることのほうは、もっとも強い区分(Evidence category A)で推奨されています。

順番の理屈自体は単純です。Simãoらが2012年にまとめたレビューによれば、種目をセッションの最初に置くと、その種目で完了できる総レップ数、つまりボリュームが増えます。しかもこれは関わる筋量の大小とは関係なく起きます。同レビューは、種目はプログラムの目的における優先順位で並べるべきで、筋群が大きいか小さいかは判断材料にならないと結論しています。

どちらか1つに絞るなら

まず、ACSMの推奨は単関節と多関節の両方を入れることなので、1つに絞るのは器具や時間に制約があるときの妥協案です。そのうえで選ぶならプレスになります。理由は3つあります。

1つ目は、扱える重量が大きく、記録の更新がそのまま負荷の増加につながることです。厚生労働省のe-ヘルスネットは、負荷について「慣れてきたら少しずつ負荷を高めていく(=漸進性過負荷の原則)」ことが重要だとしています。刻みの大きいフライより、プレスのほうがこの原則を回しやすくなります。

2つ目は、Welschらの2005年の研究が、フライを補助種目、プレスを主要種目として位置づけていることです。3つ目は、動作全体の大胸筋の活動がプレス側で高かったというSolstadらの測定結果です。

逆に、フライを主役に置いたほうがいい場面もあります。手持ちのダンベルが軽いものしかない場合です。プレスで10回が余裕になってしまう重量でも、フライなら同じ重さで負荷が足りることがあります。ExRx.netの用語集も、主要種目と補助種目の区別はプログラムの文脈しだいで、同じ種目が別のプログラムでは反対の役割になりうると書いています。

実際の並べ方

  1. 伸ばしたい種目を先に置く― プレスの重量を伸ばしたいならプレスから。フライの重量を伸ばしたいならフライからです。先に置いた種目のほうが総レップ数を稼げます

  2. 決めかねるならプレスを先にする― 目的が胸の発達だけなら順番の影響は出ませんが、プレスの記録が伸びれば負荷を上げる手段が確保できます

  3. フライの重量はプレスのおよそ6割から始める― 腕を広げきった位置で動きを止められる範囲まで下げてください。止まらない重量は出発点として重すぎます

  4. 順番を変えた日は記録に残す― 同じ重量でも2種目めに回せば回数は落ちます。順番を書いておかないと、翌週の数字を伸びたかどうかで判断できません

プレス側をさらに掘り下げるなら、ベンチの角度を変える方法があります。角度で何が変わるかはインクラインダンベルプレスのやり方にまとめました。記録として何を残すかの考え方は筋トレ記録のつけ方完全ガイドを参照してください。

まとめ

  • 違いは肘を曲げ伸ばしするかどうかの1点。プレスは多関節(Compound)、フライは単関節(Isolated)
  • 狙う筋はどちらも大胸筋の胸肋部で同じ。入れ替わるのは、上腕三頭筋と上腕二頭筋の役割
  • 筋電図の測定でも、プレスで三頭筋が75%高く、フライで二頭筋が76%高いという形で同じ違いが出ている
  • ただし差は動作の場所で変わる。押し始めの区間では、重量が半分以下のフライでも大胸筋の活動はプレスと並ぶ
  • 順番は筋力には影響し、筋肥大には影響しない(ACSM 2026)。多関節を先にという推奨は証拠区分C
  • 種目は目的の優先順位で並べる。筋群の大小や関節の数は判断材料にならない
  • 1つに絞るならプレス。ただしACSMは両方を含めることを最も強い証拠区分で推奨している

次のトレーニングでは、プレスとフライを両方記録して、それぞれの数字が別々に動いているかを確かめてみてください。順番を変える判断は、比べられる記録が2回分そろってからで間に合います。