ダンベルプレスとベンチプレスは、どちらも仰向けで胸の上へ重りを押し上げる種目です。ExRx.net の分類では動員される筋の顔ぶれは同一で、変わるのは下ろす終点を何が決めるか、支える仕事がどれだけ自分に残るか、そして扱える重量です。この記事では違いを5つの軸で整理したうえで、「ダンベルはバーベルの8割」という通説を公開データで検算し、最後に胸の種目全体をどう並べるかまでまとめます。

ダンベルプレスとバーベルのベンチプレスを分ける5つの軸
ダンベルプレスベンチプレス(バーベル)
下ろす終点胸か肩にストレッチを感じる位置(自分の可動域)バーが胸に触れる位置(器具が決める)
安定させる仕事左右2つを別々に制御する1本のバーが左右をつないでいる
左右差片手ずつの回数として表に出る強い側が弱い側を補うため見えにくい
扱える重量(推定1RM)両手の合計でバーベルの約8割3種のチェストプレスで最も高い
挙がらなくなったとき体の横へ下ろせるバーが体の真上に残る

ExRx.net の動作記述と、本文で扱う1RM比較研究・Strength Level の公開データにもとづく整理。優劣を示すものではない

効く筋肉は同じ。違うのは下げ止まる位置

ExRx.net に登録されている2種目の筋の分類は、完全に一致しています。主働筋は大胸筋の胸肋部、協働筋は大胸筋の鎖骨部・三角筋前部・上腕三頭筋・烏口腕筋、動的安定筋は上腕二頭筋の短頭。並べても差がありません。

違うのは動作の記述です。バーベルのほうは「Lower weight to chest」、つまりバーを胸まで下ろす、とだけ書かれています。ダンベルのほうは「Lower weight to sides of chest until slight stretch is felt in chest or shoulder」で、胸か肩に軽いストレッチを感じるまで胸の横へ下ろす、となっています。

下げ止まる位置を決めているものが違います。バーベルはバーが胸に当たった時点で物理的に止まり、それ以上は下がりません。ダンベルは体の横を通るので当たるものがなく、終点は自分の胸と肩がどこまで伸びるかで決まります。「ダンベルのほうが深く下ろせる」と言われるのは、この構造の差です。

バーベル側にはもうひとつ、手幅の制約があります。ExRx.net は「Range of motion will be compromised if grip is too wide」、手幅が広すぎると可動域が損なわれる、と注記しています。バーベルは握った位置が動作中ずっと固定されるため、手幅の選択がそのまま可動域の上限になります。ダンベルは押し上げるにつれて左右が内側へ寄っていくので、下と上で手の間隔が変わります。

筋活動は三頭筋と二頭筋で入れ替わる

訓練経験のある男性12名がスミスマシン・バーベル・ダンベルの水平チェストプレスを行い、1RMと筋電図を測った研究があります。大胸筋と三角筋前部の活動には差がなく、上腕二頭筋はスミスマシン、バーベル、ダンベルの順に高くなり、上腕三頭筋はダンベルでバーベルより低いという結果でした。著者は、安定性の要求が高いほど二頭筋の活動が増えたと説明しています。

別の研究は、訓練男性19名が10RMの負荷で4セット行う条件で同じ3種類を比べています。三頭筋がバーベルとスミスマシンで高く、二頭筋がダンベルで高い点は同じでした。ただし大胸筋についてはダンベルで有意に高いという、前者と逆の結果が出ています。この研究では総レップ数もダンベル(31.2回)がバーベル(27.8回)を上回りました。

ダンベルとバーベルのチェストプレスを比べた2つの筋電図研究
測った筋Saeterbakken ほか 2011(12名・1RM)Farias ほか 2017(19名・10RM×4セット)
大胸筋差なしダンベルで高い
三角筋前部差なしスミスマシンで高い
上腕三頭筋ダンベルで低いダンベルで低い
上腕二頭筋ダンベルで高いダンベルで高い

いずれも訓練経験のある男性を対象にした単発の測定で、負荷の設定が異なる(1RM と 10RM×4セット)。出典URLは記事末の参考文献に記載

一致しているのは、上腕三頭筋はバーベルで高く、上腕二頭筋はダンベルで高いという2点です。二頭筋が上がるのは押しているからではなく、左右のダンベルが外へ流れないよう支えているためで、この働きは ExRx.net でも動的安定筋として分類されています。

大胸筋については結論が割れています。負荷の設定も被験者数も違うので、どちらかが誤りというよりこの条件では決着していないと読むのが妥当です。少なくとも「ダンベルのほうが胸に効く」と言い切れる状態ではありません。

扱える重量は本当にバーベルの8割か

先に数字の定義をそろえます。Strength Level の公開データは、ダンベル側が「Dumbbell weights are for one dumbbell and include the weight of the bar, normally 2 kg / 4.4 lb」で片手あたり・シャフト分(通常2kg)込み、バーベル側が「Barbell weights include the weight of the bar, normally 20 kg / 44 lb.」でバー20kg込みの合計です。片手の数字とバー込みの合計をそのまま並べると倍近くずれるので、比べるときはダンベルを2倍にします。

ダンベルプレス(片手)の平均重量の目安(kg
レベル男性女性
初心者177
初級者2613
中級者3820
上級者5330
エリート6940

出典: Dumbbell Bench Press StandardsStrength Level2026-08-08 確認)

海外ユーザーの自己申告データにもとづく推定1RMです。4,734,253件の記録(2017年〜2026年)の集計で、男性の平均は38kg、女性の平均は20kg。ページの注記どおりダンベル1個あたりの重量で、シャフト分(通常2kg)を含みます。両手の合計ではありません

ベンチプレス(バー込みの合計)の平均重量の目安(kg
レベル男性女性
初心者4919
初級者7033
中級者9651
上級者12772
エリート16097

出典: Bench Press StandardsStrength Level2026-08-08 確認)

同じく推定1RMで、48,718,584件の記録(2014年〜2026年)の集計。男性の平均は96kg、女性の平均は51kg。ページの注記どおりバー(通常20kg)を含んだ合計重量です

この2つを並べて比率を計算すると、次のようになります。

ダンベルの合計(片手×2)はバーベルの何割か(男性・推定1RM)
レベルダンベル合計ベンチプレス比率
初心者34kg49kg69%
初級者52kg70kg74%
中級者(平均)76kg96kg79%
上級者106kg127kg83%
エリート138kg160kg86%

Strength Level の男性データから当方が計算した。ダンベル合計=片手の値×2。女性で同じ計算をすると 74% / 79% / 78% / 83% / 82% になる

平均どうしなら79%で、通説の「8割」はここを指していると考えられます。経験者を対象にした研究の値とも重なります。前述の12名の研究ではダンベルの1RMがバーベルより17%低い(=83%)と報告され、同じ研究グループの別の研究(男性11名)ではバーベル106.4kg、スミスマシン103.6kg、ダンベル89.5kgで、ダンベルはバーベルの84%でした。

一方で、比率はレベルによって69%から86%まで動きます。この動きの正体は器具そのものの重さです。バーは20kg、ダンベルはシャフト2kgが2本で4kg。差の16kgはどのレベルでも変わらないので、扱う総重量が小さいほど比率を押し下げます。実際、プレートの重さだけで比べ直すと中級者は72kg対76kg、上級者は102kg対107kgとなり、どのレベルでも95%前後に収まります。

換算式は資料によって違う

ダンベルプレスの重量からベンチプレスの重量を出す計算式は解説記事によく載っていますが、係数がそろっていません。片手の重量に2.4を掛けるもの、片手で10回できる重量を3倍するもの、両手合計の10RMに1.5を掛けるものが、それぞれ別の資料で「一般的には」として紹介されています。

Strength Level のデータでバーベルの1RMをダンベル片手の1RMで割ると、初心者2.88、初級者2.69、中級者2.53、上級者2.40、エリート2.32でした。「片手×2.4」は上級者帯には合いますが、初心者帯では2割ほど低く出ます。どの係数も、当てはまるレベル帯の外では外れるということです。

換算に頼らなくても、両方の記録が残っていれば自分の比率はそのまま計算できます。片方しかやっていないうちは、換算値を目標にするより実際に測ってしまうほうが早く済みます。

10回できる重量に直す

表の数字は1回だけ挙げられる最大重量(1RM)の推定値です。実際に組むセットの重量に直すには回数から逆算します。1RM計算機が使っている Epley 式「1RM = 重量 ×(1 + 回数 ÷ 30)」を逆に解くと、10回できる重量は 1 ÷(1 + 10 ÷ 30)で1RMの75%。Brzycki 式「1RM = 重量 × 36 ÷(37 − 回数)」でも(37 − 10)÷ 36 で同じ75%になります。

男性の平均で当てはめると、ダンベルプレスは片手38kgの75%で約28kg、ベンチプレスは96kgの75%で72kg。女性の平均なら片手15kgと約38kgです。同じサイトの投稿分布でも、ダンベルプレスは3セット10回(17%)が最も多く、ベンチプレスは5セット5回(19%)が最多でした。同じ胸のプレスでも、実際の使われ方は重量寄りと回数寄りに分かれています。

1RM計算機重量と回数から最大挙上重量を推定できます。Epley式・Brzycki式の両方と%1RM換算表つき(登録不要)

左右差はダンベルにだけ出る

大学アメリカンフットボール選手40名を対象にした研究が、この点を数値で示しています。同じ合計重量(90.9kg)でバーベルと両手ダンベルの限界反復回数を比べると、バーベル13.8回に対して両手ダンベル12.5回。統計的な差はありますが両者の相関は0.96と非常に高く、最大に近くない負荷では回数がほとんど変わりませんでした。

差がはっきり出たのは片手ずつの試技です。片手45.5kgで、利き手10.8回に対して非利き手9.5回。1割強の開きがあります。バーベルでは1本のバーが左右をつないでいるため、この差は強い側が弱い側を補って表に出ません。

挙がらなくなったときの逃げ方が違う

ダンベルは体の横に腕があるので、押し切れなくなったら肘を曲げて胸の横へ下ろし、そのまま太ももか床へ返せます。ExRx.net もダンベルの項に「No need to drop weights」、重りを投げ捨てる必要はない、と書き、乗せ方と降ろし方の手順を別ページで案内しています。バーベルはバーが体の真上に残るので、自力で外すにはラックへ戻すかセーフティバーに預けるかしかありません。

重りが体に残るかどうかは、事故の統計にも表れています。米国の救急外来のデータ(1990年〜2007年・25,335件、全国推計 970,801件)では、ウェイトトレーニングによる受傷で最も多い機転は「重りが体に落ちてくる」で、全体の65.5%を占めます90.4%はフリーウエイトでの受傷でした。フリーウエイトはマシンに比べ、骨折や脱臼の割合も高くなっています(23.6%対9.7%)。

押す種目マップ

ここまでの材料をまとめると、胸の種目は2つの軸で並べ替えられます。

軸1|角度

ベンチの角度は、上体に対して腕を押し出す方向を変えます。バーベルのベンチプレスで傾斜を0度から60度まで振った測定では、大胸筋上部の筋活動が最大になったのは30度、中部と下部は0度、三角筋前部は60度でした。同じ研究は、45度を超える傾斜では三角筋前部の活動が高くなり大胸筋のパフォーマンスは下がると結論しています。角度で「効く場所」がどう動くかの詳細はインクラインダンベルプレスのやり方にまとめています。

軸2|器具

器具は、支える仕事がどこにあるかと、負荷がどの向きにかかるかを変えます。バーベルとダンベルは重力の方向にだけ負荷がかかるため、腕を伸ばし切った位置で負荷が最も軽くなります。ケーブルはワイヤーの向きに引かれるので、プーリーの高さを変えると負荷の向きごと変えられます。マシンは軌道が固定されているぶん、支える仕事がほぼ残りません。

胸の種目を「角度 × 器具」で並べる
角度バーベルダンベルケーブル・マシン・自重
フラット(水平)ベンチプレスダンベルプレス / ダンベルフライチェストプレスマシン / プッシュアップ
インクライン(頭が高い)インクラインベンチプレスインクラインダンベルプレスケーブルクロスオーバー(下から上へ)
デクライン(頭が低い)デクラインベンチプレスデクラインダンベルプレスディップス / ケーブルクロスオーバー(上から下へ)

押す種目と閉じる種目(フライ系)を同じ表に並べている。ケーブルは角度の代わりにプーリーの高さで押し出す方向を決めるため、対応する行に置いた。分類は動作の向きと器具にもとづく整理であり、優劣を示すものではない

記事にまとめてあるものは次の通りです。インクラインとバーベルの組み合わせはインクラインベンチプレスの平均重量、インクラインとダンベルはインクラインダンベルプレスのやり方、フラットで閉じる側はダンベルフライの平均重量、ケーブル列はケーブルクロスオーバーのやり方にあります。

どちらをやるべきか

優劣を決める必要は、思ったより小さいかもしれません。トレーニング歴4年前後の男性35名を、スミスマシン・ダンベル・スイスボール上のバーベルの3群に分け、週2回10週間チェストプレスだけを行わせた研究があります。前後で測ったのは、訓練した種目と訓練していないバーベルベンチプレスの両方でした。結果は、どの群でも訓練していないバーベルベンチプレスに同様の変化が現れ、種目ごとの特異性は見られませんでした。

ダンベルで押していてもバーベルの動きは伸びる、ということです。そうなると選ぶ基準は優劣ではなく、順番と器具の都合になります。

  1. 重量を細かく伸ばしたい日はバーベルを先に置く― プレートは片側1.25kgから足せるので、合計2.5kg刻みで増やせます。固定式のダンベルは刻み幅がジムの品揃えで決まってしまうため、次の重量へ上がる段差が大きくなりがちです

  2. ラックが埋まっている日はダンベルに替える― 10週間の研究では、訓練していないバーベルベンチプレスにも変化が出ていました。その日にバーベルを使えなくても、押す仕事そのものは止まりません

  3. 左右差を見たいときはダンベルを片手ずつ数える― 利き手と非利き手で回数が変わるのはダンベルだけです。片手ずつの回数を残せば、開きが縮んでいるかを追えます

  4. 同じ日に両方入れるなら、伸ばしたい側を先にする― 後に回した種目は前の種目の疲労を引きずります。どちらを先にした日なのかを記録に残しておくと、次に比べられます

  5. 3種目目を足す前に、2種目の記録が伸びているか見る― 種目を増やすと1種目あたりの回数が減り、どれが効いたのか分からなくなります。増やすかどうかは記録を見てから決めます

何を残しておけば次の判断に使えるかは筋トレ記録のつけ方に、残した数字の読み方は筋トレの成果を見える化する方法にまとめています。

まとめ

  • ExRx.net の分類では動員される筋は同じ。動作記述で違うのは下げ止まる位置を器具が決めるか自分の可動域が決めるか
  • 深く下ろせる構造だとは言えるが、それが筋肥大につながるかを比べた研究は確認できなかった
  • 筋活動で一致しているのは三頭筋はバーベルで高く、二頭筋はダンベルで高いという2点。大胸筋は研究間で割れている
  • 扱える重量は合計どうしで平均79%。研究の値(83%・84%)とも近いが、レベルによって69%から86%まで動く
  • 左右差はダンベルにだけ出る。実測では利き手10.8回に対し非利き手9.5回だった
  • 10週間の介入研究では、どの器具で鍛えても訓練していないバーベルベンチプレスに変化が出た。選ぶ基準は優劣ではなく都合

次にジムへ行ったら、ダンベルプレスは片手ずつの回数を、ベンチプレスは合計重量を、同じ記録の中に並べて残してみてください。自分の比率が8割なのかどうかは、他人の平均ではなく自分の2つの数字から出せます。