フェイスプルは、顔の前あたりに設置したケーブルのロープを、肘を先行させながら顔や首に向かって引く種目です。検索して最初につまずくのがケーブルの高さで、解説資料を8本確認したところ、指定は胸の上部から頭より上まで割れていました。もう一つ分かりにくいのが重量で、公開データの平均と、日本語の解説記事が挙げる目安が3倍前後ずれています。この記事では、手順と高さの決め方、外旋をどこまで入れるか、重量の数字をどう読むか、リアレイズやアップライトローとの使い分けを順に整理します。

主に効く部位
三角筋後部外側部と外旋筋群も動員
器具
ケーブルロープアタッチメント
難易度
高さと肘の位置の設定が要る

フェイスプルのやり方|高さと肘の位置を先に決める

動作は「引いて戻す」だけですが、整えるところは2つあります。ケーブルの高さと、引いている間ずっと肘を肩の高さに置いておくことです。

  1. ロープを取り付け、高さを合わせる― 腕を体の前に伸ばしたとき、ケーブルが水平かやや下向きに引ける位置が基準になります。ExRx.netは頭の高さかやや上を挙げていますが、資料によって幅があります

  2. ロープの両端を握り、片足を引いて張りを作る― 親指が上に来る握りにすると、引きながら手のひらを外へ返しやすくなります。上体はわずかに後ろへ傾け、肘は外に向けておきます

  3. 肘を先に外へ送りながら、首か胸の上へ引く― 手ではなく肘で引きます。肘が体の後ろへ少し抜けるところまでが可動域です

  4. 引き終わりで上腕を体幹に対して垂直に保つ― 肘が肩の高さより下がると、動作が背中の行の種目に寄っていきます。ここが崩れない重さが上限です

  5. 腕が前に伸び切るまで、同じ道をゆっくり戻す― 戻し切ったところで肩が前に引かれるのは正常です。反動でつながないところまで戻します

ケーブルの高さは資料によって割れている

「顔の高さ」と説明されることが多い種目ですが、実際に指定されている高さは資料ごとに違います。

解説資料が指定しているケーブルの高さ(2026-08-08 閲覧)
出どころ指定している高さ添えられている理由
ExRx.net(英語)頭の高さかやや上準備の手順としての指定。理由の記載はない
beLEGEND引いたときロープの結合部が額に来る位置記載なし。座位版では滑車を地面近くに置く
Wellulu肩の高さ(顔と同じ高さ)ロープが顔へ水平に引ける
東京筋トレ胸の上部から首までの間その範囲で自分に合う高さを探す

日本語の3本にはいずれも外部出典が付いていない

幅が出るのは、高さが単独で何かを決めているわけではないからです。高さが決めているのは、引き終わりで上腕がどの向きに来るかであり、それは上体をどれだけ後ろに傾けるかとセットで変わります。上体を立てたまま低い位置から引けば上腕は下がり、上体を倒して高い位置から引けば上腕は上がります。組み合わせで決まる以上、高さだけを1つの数字に固定する意味は薄くなります。

判断の基準を1つに絞るなら、引き終わりで肘が肩の高さを通っているかどうかです。そこが満たされていれば、段の位置は自分のジムのマシンに合わせて構いません。

ロープの持ち方と、外旋をどこまで入れるか

握りは、親指が上を向く形から始めて、引きながら手のひらを外側へ返していく形が一般的です。この「外へ返す」動きが肩の外旋にあたります。

外旋を担当しているのは、肩甲骨から起こって上腕骨の大結節に停止する筋です。StatPearlsは、小円筋について腕を外側へ回す働きを持つと記述し、棘下筋については回旋腱板として後方の力を担うと記述しています。どちらも三角筋の深いところにあり、肩甲骨を寄せる筋(僧帽筋の中部や菱形筋)とは系統が違います。つまり外旋を足すというのは、肩甲骨を寄せる動きを強めることではなく、別の筋に仕事を回すことを意味します。

ExRx.netは、ロープを使うリアデルトロウのページで、フェイスプルについて外側三角筋・棘下筋・小円筋をより多く使う動きだと注記しています。「三角筋後部の種目」として紹介されることが多い種目ですが、分類上は後部だけを取り出す動きではありません。

効かせるコツ|狙いから外れる3つの逃げ道

うまくいかないときは、力が抜けているのではなく、別の筋に仕事が移っています。移り先は3つに絞れます。

1. 上腕が体幹より内側に入ると、背中の種目になる

ExRx.netは、リアデルトロウについて上腕が体幹に対して垂直より内側に入ると広背筋が動員される、上体が垂直より前に倒れても同じことが起きる、と注記しています。広背筋は強い筋なので、少しでも参加できる角度になると仕事を持っていきます。

引き終わりの写真を横から撮ると一発で分かります。上腕が肩の高さで真横に開いていれば狙いどおり、脇に近づいていれば行の種目に寄っています。行の種目そのものを狙うなら、ペンドレイローのやり方のように上体を倒して引く形のほうが向いています。

2. 肘が肩より下がると、引く方向が変わる

ExRx.netの手順は、引いている間ずっと肘を肩の高さに保つことを明示しています。肘が下がると、水平に開く動きが「引き下ろす」動きに変わり、狙いが後部から広背筋側へずれます。

直し方の順番は、引く高さを首から胸の上に固定する、肘が肩の高さを通る軌道になるまで重量を落とす、の2つです。順番が逆になると、重い重量のまま高さだけを合わせようとして上体で反動をつけることになります。

3. 重量が勝つと、外旋が最初に消える

外旋は動作のいちばん最後に足される要素なので、重量が勝つと真っ先に省略されます。引き終わりで手のひらが外を向かず、前を向いたままになっていたら、外旋が抜けています。

肩がすくむのも同じ症状の別の出方です。水平に開く動きに外旋を足した種目を実測した研究では、上部僧帽筋の活動が最大随意収縮の20%未満にとどまり、中部・下部僧帽筋のほうが50%を超えたと報告されています(Mendez-Rebolledoほか, 2024)。ただしこれはうつ伏せで行うリハビリ種目での測定で、立位のケーブル種目そのものではありません。外旋動作そのものを見た別の研究でも、回す力を作っているのは棘下筋で、上部僧帽筋は支持側に回るとされています(Tardoほか, 2013)。

すくむこと自体を悪者にする必要はありません。上げる仕事をそちらに渡さないところまで重量を落とせば、配役は自然に戻ります。

平均重量の目安|1RM基準の公開データ

Strength Levelにはフェイスプル単独の集計ページがあります。1回だけ挙げられる重量の推定値です。

フェイスプルの平均重量の目安(kg
レベル男性女性
初心者1411
初級者2720
中級者4533
上級者6849
エリート9568

出典: Face Pull StandardsStrength Level2026-08-08 確認)

海外ユーザーの自己申告データで、1RMの推定値です。このページには、ダンベル種目やバーベル種目のページにある単位の定義文(片手あたりか、バーの重量を含むか)に相当する記述がありません。ケーブルマシンの表示重量なのか、実際に手にかかる力なのかは出典側が定義していないため、桁感の確認までの用途に限られます

体重70kgの男性なら13/25/42/63/88kg、体重55kgの女性なら9/18/30/45/62kgが同じ表の該当行です。この数字は、自分がどのあたりにいるかを大まかに知る以上の使い道がありません。理由は2つあります。

表の数字と、実際に使う重量が合わない

1つ目は基準の違いです。表の数字は1RMなので、実際のセット重量とは別物です。12回できる重量に直すと、Epley式では1RMの71.4%、Brzycki式では69.4%になります。平均の45kgに当てはめると31〜32kgあたりです。ちなみに10回であれば、2つの式は同じ75%で一致します。

それでも、日本語の解説記事が挙げる目安(初心者7.5kg、男性10〜13kg など)とは3倍前後の開きが残ります。考えられる理由は、マシンによって表示重量の意味が違うこと、出典側に測定の定義が無いこと、自己申告データであることの3つですが、どれがどれだけ効いているかは公開されている情報からは切り分けられません。数字が合わないという事実だけを持っておくのが安全です。

マシンをまたいで数字は比べられない

2つ目は、ケーブルマシンそのものの仕様です。REP Fitnessの解説によれば、よく使われる滑車比は1:1と2:1の2種類で、1:1なら20lbsの表示は20lbs、2:1なら20lbsの表示が10lbsとして手にかかります。Rogue Fitnessの製品仕様にも「Pulley Ratio: Functional Trainer 2:1」と、滑車比が明記されている機種があります。

つまり同じ「30kg」の表示でも、機種が違えば別の重さです。他人の数字はもちろん、隣のジムの自分の記録とも比べられません。使えるのは「同じマシンで前回より1枚増やせたか」という比較だけです。

回数のほうも参考になります。同じ集計で最も多いのは男性が3セット×12回(15%)、次いで3×10(14%)、3×15(13%)で、女性は3×10(18%)が最多でした。10〜15回の帯に集中しています。

1RM計算機重量と回数から最大挙上重量を推定できます。Epley式・Brzycki式の両方と%1RM換算表つき(登録不要)

比べられる記録の作り方は筋トレ記録のつけ方、残した数字の読み方は筋トレの成果を見える化する方法にまとめています。

リアレイズ・アップライトローとの使い分け

肩の後ろから外側にかけては似た種目が並びます。動作の定義で分けると混ざりません。

3種目の動作の違い(ExRx.netの分類より)
フェイスプルリアレイズアップライトロー
腕の動く向き体の前から顔・首へ水平に引く体の横へ水平に開く体の前で真上へ引き上げる
外旋を含むか含む(手のひらを外へ返す)含まない。動きは水平外転のみと明記手順に外旋の指定はない
主働筋三角筋後部(外側部・外旋筋群も動員)三角筋後部三角筋外側部
姿勢立位でケーブルに正対前傾・座位・うつ伏せ立位
器具ケーブル+ロープダンベル中心バーベル・ダンベル・ケーブル

ExRx.netはリアレイズについて「動きは水平外転であって、外旋でも伸展でもない」と注記している

リアレイズは、腕を横に開く成分だけを取り出した種目です。 外旋も伸展も含まないと明記されているぶん、狙いは絞られますが、外旋筋群には仕事が回りません。詳しい手順はリアレイズのやり方にあります。

アップライトローは、同じ「引く」動作でも向きが違います。 体の前で真上へ引き上げる動きで、主働筋は三角筋の外側部です。詳しくはアップライトローのやり方にまとめています。

フェイスプルは、この2つの中間ではなく別の軸にあります。水平に開く動きと外旋を同時に行うため、後部と外側部に外旋筋群が加わります。3つとも入れるなら、同じ日に並べるより、記録が比べられる間隔を空けて回すほうが判断しやすくなります。

「姿勢や肩こりに効く」はどこまで言えるか

この種目は「巻き肩に効く」「デスクワークの肩に効く」という文脈で紹介されることがよくあります。根拠がどこまであるかを確認しました。

まず、フェイスプルという種目名で行われた研究は見つかりませんでした。PubMedのタイトルと抄録を対象にした検索の該当は0件です。厚生労働省のe-ヘルスネットにも、肩こりと筋力トレーニングの関係を扱ったページは見当たりませんでした。

種目名を外して「肩まわりの運動全般」まで広げると、報告はあります。22研究のメタ分析では、矯正エクササイズが頭部前方位・巻き肩・胸椎後弯の角度をいずれも改善したと報告されています(Sepehriほか, 2024)。オフィスワーカー269名を12週間追った試験では、首肩の痛みが臨床的に意味のある水準まで減ったと報告されており、著者は十分な継続と実施ができた場合に、と条件を付けています(Dalagerほか, 2023)。同じ試験で、参加者の30%が2週間以上離脱しています(中央値は6〜8週目)。

言える範囲をまとめると、こうなります。肩まわりのトレーニングを続けた集団で姿勢の角度や痛みが改善したという報告はある。ただし介入はプログラム全体であって、フェイスプル1種目の効果を測ったものではない。そして効果が出た報告でも、条件は「続けられたこと」でした。種目の選択より、続いているかどうかのほうが先に効いてきます。 厚生労働省のe-ヘルスネットも、個別性の原則として個人差に配慮したプログラム作成を挙げています。痛みが出ている場合は、種目で対処しようとせず医療機関に相談してください。

肩の種目の全体像

肩の三角筋は、前部・外側部・後部の3つに分かれ、担当する動きが違います。StatPearlsによれば、外側部は腕を15度から100度まで上げる動きに働き、後部は広背筋と一緒に腕を後ろへ引く動きに働きます。前部は大胸筋と一緒に腕を前へ振ります。

種目はこの担当に沿って並びます。前へ押す動作(ショルダープレス系)が前部、横へ上げる動作(サイドレイズやアップライトロー)が外側部、後ろへ開く動作(リアレイズやフェイスプル)が後部です。

そのうえで、肩には回旋を担当する別系統の筋があります。棘下筋と小円筋で、どちらも肩甲骨から上腕骨へ走って腕を外へ回します。フェイスプルがこの3分類にきれいに収まらないのは、後ろへ開く動きに、この回旋の仕事を重ねているためです。押す・横に上げる・後ろに開くの3方向を揃えたうえで、回す動きが手薄なら足す種目、という位置づけになります。

なお、この種目は肩と背中の境界にあります。上腕の角度が変わるだけで背中側へ仕事が移るので、記録上も肩の日と背中の日のどちらに入れるかを決めて固定しておくと、あとで比べやすくなります。

まとめ

  • フェイスプルは、顔や首に向かってロープを引くケーブル種目。肘を先行させ、引き終わりまで肘を肩の高さに保つ
  • ケーブルの高さの推奨は資料によって胸の上部から頭より上まで割れている。高さは上体の傾きとセットで決まるので、引き終わりで肘が肩の高さを通るかを基準にする
  • 引きながら手のひらを外へ返す動きは肩の外旋で、担当するのは棘下筋と小円筋。肩甲骨を寄せる筋とは別系統
  • 狙いから外れる逃げ道は3つ。上腕が体幹より内側に入る、肘が肩より下がる、重量が勝って外旋が消える
  • 公開データの1RM平均は男性45kg・女性33kg。ただし単位の定義が出典側に無く、滑車比で表示重量の意味も変わるため、マシンをまたいだ比較には使えない
  • 「姿勢や肩こりに効く」を種目名で検証した研究は見つからない。肩まわりの運動全般では改善の報告があるが、条件は続けられたこと

まずは肘が肩の高さを通る重量まで落として、そのときの段の位置と重量を記録してみてください。次に重くしたとき、比べる相手ができます。