シーテッドローは、座った姿勢でハンドルを体の前から手前へ水平に引く背中の種目です。上体を支える仕事をシートとフットプレートに預けられるので、扱う重量を背中に集中させやすくなります。この記事では、マシンとケーブルでのやり方、グリップ幅と肩甲骨の扱いで何が変わるのか、そして背中の種目全体の中でシーテッドローをどこに置くかまで整理します。
- 主に効く部位
- 背中広背筋・僧帽筋・菱形筋ほか
- 器具
- ケーブル専用マシンでも可
- 難易度
- 初級姿勢を器具が支える
- 重量の目安(1RM)
- 84kg男性の平均・自己申告データ(推定)
目安重量は Strength Level の公開データから抜き出した推定値です。出典とレベル別の数字は、後半の「平均重量と重量設定の目安」にまとめています。
シーテッドローのやり方
ケーブルマシンでも、胸当てのついた専用マシンでも、動作の骨格は同じです。整えるところは、座った姿勢を崩さないことと、腕より先に上腕を後ろへ送ることの2つに絞られます。
骨盤を立てて座り、足をプレートに置く― 膝は伸ばし切らず軽く曲げます。ケーブル式では、腕を伸ばしたときにウェイトが下まで落ちない位置までシートに深く座ります
アタッチメントを握り、腕を伸ばして構える― この位置で肩が前へ引っぱられます。上体ごと前に倒れ込むのではなく、肩だけが前に出ている状態を作ります
上腕を後ろへ送るように引き始める― 肘を曲げにいくと腕の運動になります。先に上腕が動き、その流れで肘が曲がる順番にします
みぞおちからへその間にハンドルを引きつける― 引く位置が高いほど僧帽筋まわり、低いほど広背筋寄りになります。狙いに合わせて決めます
同じ速さで戻し、肩が前に出る位置まで返す― 戻す側を途中で止めると、可動域の半分を捨てることになります。反動で引き戻されない重量に収めます
どこに効くのか
ExRx.net はケーブルのシーテッドローについて、協働筋として僧帽筋の中部・下部、菱形筋、広背筋、大円筋、三角筋後部、棘下筋、小円筋、上腕筋、腕橈骨筋、大胸筋の胸肋部を、そして脊柱起立筋を挙げています。安定筋はハムストリングス、大臀筋、大内転筋です。
このうち動きの主役は2種類に分かれます。ひとつは上腕を後ろへ送る肩の動きで、ここに広背筋・大円筋・三角筋後部が関わります。StatPearls は広背筋について、大円筋・大胸筋とともに上腕を内転・内旋させ、大円筋とともに上腕の伸展にも働くと記載しています。もうひとつは肩甲骨を背骨側へ引き寄せる動きで、こちらは僧帽筋中部と菱形筋の担当です。StatPearls は僧帽筋の中部線維の作用を「肩甲骨を内転(内側へ引き寄せる)させる」と記載しています。
腕を引くことと肩甲骨を寄せることは、別の関節の別の動きです。シーテッドローが背中の広い範囲に効くと言われるのは、この2つが同じ動作の中に同居しているからです。
グリップ幅で効く場所が変わる
「狙う部位でグリップやアタッチメントを変える」という説明は解説記事によく出てきますが、どちらが何に効くかまで根拠を示したものは見当たりませんでした。この点を測った研究があります。
訓練経験のある男性14名が、狭いグリップと広いグリップの両方を8RMの負荷で行い、高密度表面筋電図で僧帽筋の上部・中部・下部、広背筋、三角筋の中部・後部、上腕二頭筋、上腕三頭筋、脊柱起立筋を測定した研究です。引く局面と戻す局面を分けて解析しています。
| グリップ | 活動が高かった筋 | 効果量(ES) |
|---|---|---|
| 狭いグリップ | 広背筋(引く局面・戻す局面の両方) | 1.08 |
| 広いグリップ | 僧帽筋上部 | 1.35 / 2.79 |
| 広いグリップ | 僧帽筋中部 | 1.24 / 1.44 |
| 広いグリップ | 僧帽筋下部 | 0.90 / 0.71 |
| 広いグリップ | 三角筋中部 | 1.03 / 0.58 |
出典: High-Density Surface Electromyography Excitation of Prime Movers in the Narrow vs. Wide Grip Seated Row Exercise(2026-08-08 確認)
※ 効果量が2つ並ぶ行は「引く局面 / 戻す局面」。脊柱起立筋は戻す局面のみ広いグリップで高かった(ES 0.65)。被験者14名の単発の測定であり、器具や体格による差は反映されていない
著者は、広いグリップは僧帽筋全体と三角筋中部を強調するのに適し、狭いグリップは広背筋を優先するのに適していると結論づけています。
なぜそうなるのかは、腕の通り道で説明が付きます。ExRx.net はバーベルのベントオーバーローについて、肩幅程度の握りや逆手は肩の伸展を主にすることで広背筋の関与を増やし、広い順手は背中全体を使いつつ三角筋後部・棘下筋・小円筋の関与をやや強めると記載しています。狭く握れば肘が体の横を通って上腕が後ろへ送られ、広く握れば肘が体から離れて横方向に開く動きが主になります。測定結果と機序の説明が同じ向きを指しています。
したがって、グリップ幅は「正しい/間違い」ではなくその日どこを狙うかの設定です。背中の広がりを作りたい日は狭いグリップ、肩甲骨まわりの厚みを作りたい日は広いグリップ、という選び方になります。
肩甲骨は固定するのか、動かすのか
「肩甲骨を寄せてから引く」はシーテッドローの説明でほぼ必ず出てくる指示です。ただし、寄せなかった場合と比べた記事は見当たりませんでした。
同じ研究グループが、肩甲骨を固定した条件と、肩甲骨の動きを許した条件を比較しています。訓練経験のある男性14名(年齢25±4歳・身長1.74±0.06m・体重76.22±5.73kg)が、両条件とも8RMの負荷でランダムな順に行いました。
結果は、引く局面では三角筋後部だけが固定条件で高く(ES 0.66)、残りの筋には条件間の差が見られませんでした。戻す局面では固定条件で僧帽筋中部(ES 0.67)と広背筋(ES 0.85)が高く、それ以外には差がありませんでした。著者は、2つの条件は全体としては同等の筋の興奮パターンを生み、上背部の一部の筋に量と分布の違いが出るにとどまるとし、どちらも有効なので肩甲骨の動きをどれだけ強調したいかで選べばよいと述べています。
「腰に負担がかからない」は言い切れない
座って行うため腰に負担がかからない、という説明もよく見かけます。立って前傾を保つ種目に比べれば上体を支える仕事は減りますが、腰が働かなくなるわけではありません。
分かりやすいのが ExRx.net の登録の仕方です。同じ座位のケーブルローが2つの別種目として掲載されています。
| 種目 | 動作 | 脊柱起立筋の分類 |
|---|---|---|
| Cable Seated Row | 腰を伸ばしながらウエストへ引き、腕が伸びて腰が前に曲がった位置まで戻す | 協働筋(動かす側) |
| Cable Straight Back Seated Row | 背中をまっすぐ保ったままウエストへ引き、背中がまっすぐな位置まで戻す | 安定筋(支える側) |
出典: Cable Seated Row / Cable Straight Back Seated Row(2026-08-08 確認)
※ 協働筋は動作を生み出す側、安定筋は姿勢を保つ側の分類。前者には「軽い重量から始め、腰が適応できるよう徐々に増やすこと」という注記が付いている
日本語の解説が「正しいフォーム」として教えているのは、ほぼすべて後者の背中をまっすぐ保つ版です。前者は上体を前後に動かすぶん脊柱起立筋が動作の一部を担い、ExRx.net はそちらに軽い重量から始めるよう注記を付けています。どちらを選んでも腰は仕事をしている、という前提で重量を決めるのが安全です。
上体をどう支えるかで腰にかかるものが変わることは、測定でも示されています。健常男性7名を対象に、インバーテッドロー・立位ベントオーバーロー・立位片手ケーブルローの3種目を比べた研究では、インバーテッドローは腰部脊柱起立筋の活動が低く、それに対応して腰椎の負荷も低い一方、立位ベントオーバーローは背中全体に大きな活動を生むと同時に腰椎の負荷が最も大きかったと報告されています。この研究にシーテッドローは含まれていないため数値をそのまま当てはめることはできませんが、姿勢の支え方が腰への負荷を左右するという軸そのものは確かめられています。
背中種目の使い分けマップ
ここまでの材料をまとめると、背中の種目は2つの軸で並べ替えられます。
軸1|引く方向
広背筋は上腕を体に近づける内転と、上腕を後ろへ送る伸展の両方に働きます(StatPearls)。ラットプルダウンや懸垂は上から下ろす内転が主、シーテッドローなどのロー系は前から後ろへ引く伸展が主です。同じ広背筋を使っていても、動かしている方向が違います。
加えてロー系には肩甲骨を内側へ引き寄せる動きが含まれるので、僧帽筋中部と菱形筋の関与が大きくなります。垂直に引く種目だけを続けると、この部分が手薄になります。
軸2|上体を何が支えるか
シートと胸当て、あるいはフットプレートが上体を支える種目では、支える仕事が器具側に移ります。立って前傾を保つ種目では、その仕事が自分の背中と股関節に残ります。前節の通り、ここが腰にかかるものを左右します。
| 引く方向 | 上体を器具が支える | 上体を自分で支える |
|---|---|---|
| 水平に引く | シーテッドロー / チェストサポートロー / マシンロー | ベントオーバーロー / ペンドレイロー / ワンハンドロー / インバーテッドロー |
| 垂直に引く | ラットプルダウン / アシスト付き懸垂 | 懸垂 |
※ ワンハンドロー(片手をベンチについて行うダンベルロー)は片側だけ支えがあるため中間に近い。分類は動作の支え方にもとづく整理であり、優劣を示すものではない
メニューにどう置くか
この表からの判断は、次の順に決まります。
まず水平と垂直を1本ずつ置く — 広背筋の内転と伸展、そして肩甲骨を寄せる動きが1週間の中で全部そろいます。背中の日が週1回なら、この2本が土台になります
同じ日にデッドリフトやスクワットがあるなら、器具が支える側を選ぶ — 上体を支える仕事はすでに他の種目で使っています。シーテッドローやチェストサポートローに寄せると、背中を引く仕事だけを足せます
上体を支える力も伸ばしたいなら、自分で支える側を1本入れる — ベントオーバーローやペンドレイローは、引く力と姿勢を保つ力を同時に扱います。そのぶん重量は伸ばしにくくなります
3本目を足す前に、2本の記録が伸びているかを見る — 種目を増やすと1種目あたりの回数が減り、どれが効いたのか分からなくなります。増やすかどうかは記録を見てから決めます
床から引き直す形で反動を抑えるやり方については、ペンドレイローのやり方にまとめています。同じ水平に引く種目でも、上体を自分で支える側に置いたときにどう変わるかが分かります。
平均重量と重量設定の目安
Strength Level の公開データでは、シーテッドローは Seated Cable Row という項目に集計されています。「seated row」の URL はこの項目へ転送されるため、日本語で言うシーテッドローの数字はここを見ることになります。
| レベル | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 初心者 | 41 | 22 |
| 初級者 | 60 | 33 |
| 中級者 | 84 | 48 |
| 上級者 | 112 | 65 |
| エリート | 142 | 84 |
出典: Seated Cable Row Standards/Strength Level(2026-08-08 確認)
※ 海外ユーザーの自己申告データにもとづく推定1RMです。711,455件の投稿(うち有効210,395件・2019年1月〜2026年3月)の集計で、男性の平均は84kg、女性の平均は48kg。表示重量が何を指すか(マシンのスタック表示か実荷重か)の注記はページ上に見当たらないため、ジムをまたいだ比較には使えません
数値は1回だけ挙げられる最大重量、つまり1RMの推定値です。実際に組むセットの重量に直すには回数から逆算します。1RM計算機で使っている Epley 式は「1RM = 重量 ×(1 + 回数 ÷ 30)」なので、10回できる重量は 100 ÷(1 + 10 ÷ 30)で1RMの75%にあたります。Brzycki 式「1RM = 重量 × 36 ÷(37 − 回数)」で計算しても(37 − 10)÷ 36 で同じ75%になります。男性の平均 84kg なら10回で約63kg、女性の平均 48kg なら約36kg という並びです。
比べる相手として確実なのは、他人の平均ではなく自分の前回の記録です。何を残しておけば次の判断に使えるかは筋トレ記録のつけ方に、残した数字の読み方は筋トレの成果を見える化する方法にまとめています。
1RM計算機重量と回数から最大挙上重量を推定できます。Epley式・Brzycki式の両方と%1RM換算表つき(登録不要)よくある失敗と直し方
腕が先に曲がる
いちばん多い崩れ方です。肘を曲げにいくと、背中が引く前に腕で引き切ることになります。腕を伸ばした位置から上腕を後ろへ送る順番を作り、その流れで肘が曲がるようにします。それでも腕が先に来るなら重量が勝っています。
上体を大きく倒して反動で引く
戻すときに上体ごと前へ倒れ、引くときに後ろへ起こす動きで勢いをつける形です。ExRx.net の分類でも、上体を前後に動かす版は脊柱起立筋が動作の一部を担う別種目として扱われています。狙いが背中を引くことなら、上体の角度を保てる重量に落とすほうが早く整います。
戻し切らずに短い範囲で往復する
肩が前に出る位置まで戻さないと、可動域の半分を使わないまま回数だけが増えます。戻す局面はグリップ幅の測定でも差が出ていた区間なので、ここを削ると設定の意味が薄くなります。
毎回違うアタッチメントとマシンを使う
グリップ幅で使われる筋の比率が変わる以上、幅が変われば同じ重量でもきつさが変わります。前回と比べたいなら、アタッチメントの種類とマシン名を記録に残しておくと、伸びたのか条件が変わったのかを切り分けられます。
まとめ
- シーテッドローは、座った姿勢で上腕を後ろへ送りながらハンドルを手前へ引く種目。肩の動きと肩甲骨の動きが同居している
- グリップ幅は狙う場所を変える。測定では狭いと広背筋、広いと僧帽筋全体と三角筋中部の活動が高かった
- 肩甲骨を固定するか動くに任せるかで、全体の筋活動はほとんど変わらない。強調したい動きで選ぶもの
- 腰の負担が無くなるわけではない。ExRx.net は上体を動かす版と保つ版を別種目として登録し、脊柱起立筋の役割を入れ替えている
- 背中の種目は「引く方向」×「上体を何が支えるか」で並べられる。まず水平と垂直を1本ずつ置くのが土台
- 平均重量(推定1RM)は男性84kg・女性48kg。ただし器具が違えば同じ表示重量でも別の負荷になる
次にジムへ行ったら、グリップ幅とアタッチメントの種類を記録に足してみてください。同じ重量でもきつさが違う理由が、あとから説明できるようになります。


