1RMを推定する式は1つではありません。広く使われているものだけで7つあり、同じ「80kgを5回」から出てくる答えは90.0kgから95.2kgまで散らばります。この記事では、7つの式の形と原典、同じセットを入れたときに出る幅、精度を検証した3本の研究、そして実際にどう選ぶかを順に書きます。式のなかの w は挙げた重量、r は挙げた回数です。

なぜ実測せずに推定するのか

1RMは「1回だけなら挙げられる最大の重量」で、Mayhewら(2008)が書くとおり、筋力を測る方法としてもっとも一般的に使われている指標です。ただし実際に測ろうとすると手間がかかります。同じ論文は、正しい1RM測定は試技のあいだに十分な休憩が必要なため非常に時間を要すること、そして経験の浅い人ほど最大値に届くまで重量を足していくことをためらいやすいことを挙げています。ためらったところで止めた重量は、その人の本当の1RMではありません。

推定にはこの2つの問題がありません。いつものトレーニングで挙げた重量と回数をそのまま式に入れるだけなので、測定のための特別な日を作らずに済みます。必要な記録は種目名・重量・回数の3つだけで、これは筋トレ記録のつけ方完全ガイドで挙げている最小構成にすでに含まれています。

推定で分かるのは、絶対値そのものよりも比較の軸です。先月は60kgを8回、今月は65kgを6回。この2つは並べただけでは比べられませんが、同じ式に通せば1本の数字になります。

主要な7つの式|形と原典

1RMの推定式は何種類も提案されていますが、一般の計算機で繰り返し使われているのは次の7つです。

広く使われている1RM推定式7つ(w = 挙げた重量、r = 挙げた回数)
原典想定回数域このサイトの計算機
Epley1RM = w × (1 + r ÷ 30)Epley B. Poundage Chart. Boyd Epley Workout. Body Enterprises, 198510回未満あり
Brzycki1RM = w × 36 ÷ (37 − r)Brzycki M. JOPERD 64(1): 88–90, 199310回未満あり
Lombardi1RM = w × r^0.10Lombardi VP. Beginning Weight Training. W.C. Brown, 198911回未満なし
O'Connor ほか1RM = w × (1 + r ÷ 40)O'Connor B, Simmons J, O'Shea P. Weight Training Today. West Publishing, 1989記載なしなし
Lander1RM = 100 × w ÷ (101.3 − 2.67123 × r)Lander J. NSCA Journal 6: 60–61, 1985記載なしなし
Mayhew ほか1RM = 100 × w ÷ (52.2 + 41.9 × e^(−0.055 × r))Mayhew JL ほか. J Appl Sports Sci Res 6: 200–206, 199215回未満なし
Wathen1RM = 100 × w ÷ (48.8 + 53.8 × e^(−0.075 × r))Wathen D. Essentials of Strength Training and Conditioning. Human Kinetics, 1994なし

算式と想定回数域は Reynolds ほか(2006)Table 1 と Mayhew ほか(2008)Table 2 の2本で一致を確認したもの。想定回数域は考案者自身が示した適用範囲で、Wathen式は両表のうち回数域を載せている側に記載がない。e は自然対数の底(約2.718)

Epley式は回数に比例して推定値が上がる、いちばん単純な形です。原典では係数が0.033や0.0333と書かれることがありますが、これは1 ÷ 30(0.03333…)を小数で丸めたものなので、r ÷ 30 と書いても同じ式です。

Brzycki式は1回のときにちょうど100%になるのが特徴で、換算表の基準として扱いやすい形をしています。原典の表記は 1RM = w ÷ (1.0278 − 0.0278 × r) ですが、1.0278は37 ÷ 36、0.0278は1 ÷ 36の丸めなので、分数で書き直すと w × 36 ÷ (37 − r) になります。このサイトの計算機は分数のほうを使っています。80kgで1〜12回の範囲なら、両者の差は最大0.04kgで、0.1kg単位の表示では同じ値になります。

残りの5つは計算機に実装していません。Lombardi式は回数の0.10乗を掛ける形で、7つのなかで唯一のべき乗です。ただしReynoldsら(2006)は、この式が書籍で提示されたもので、導出のもとになったデータもその証拠も示されていないと指摘しています。O'Connor式はEpley式と同じ直線型で、割る数が30ではなく40になっているぶん、推定値が控えめに出ます。Mayhew式とWathen式は自然対数の底 e を含む指数型で、形はもっとも複雑ですが、そのぶん高回数まで曲線が寝るように作られています。暗算はできないので、使うなら計算機か表計算ソフトが要ります。

同じセットを7つの式に入れるとどうなるか

80kgを挙げたセットを、回数だけ変えて7つの式に通すと次のようになります。

80kgを挙げた場合の推定1RM(単位はkg)
3回5回8回10回12回
Epley88.093.3101.3106.7112.0
Brzycki84.790.099.3106.7115.2
Lombardi89.394.098.5100.7102.6
O'Connor ほか86.090.096.0100.0104.0
Lander85.891.0100.1107.3115.5
Mayhew ほか91.295.2101.0104.7108.3
Wathen87.293.3102.1107.8113.2
最大 − 最小6.55.26.17.812.9

上の表の式に80kgと各回数を入れて計算した値。小数第1位で丸めている。Epley式とBrzycki式の値は、サイト内の1RM計算機が表示する値と同じ

読み取れることは2つです。

1つは、5回のところが最も狭く、そこから回数が増えるほど式どうしの開きが広がることです。5回では5.2kgの幅しかありませんが、12回では12.9kgまで広がります。同じセットを入れているのに、選ぶ式によって13kg近く違う答えが返ってくるということです。

もう1つは、それでも桁は変わらないことです。80kgを5回のセットなら、どの式を使っても答えは90kg台に収まります。「95kgか90kgか」を式の選択で詰めることに意味は薄く、後述するように、それより回数の選び方のほうが効きます。

どこまで当たるのか|精度を検証した3つの研究

式の形が分かっても、実際の1RMにどれだけ近いのかは別の問題です。予測値と実測値を突き合わせた研究が3本あります。

LeSuerら(1997) は、筋力トレーニングの授業を受講する未熟練の大学生67名(男性40名・女性27名)を対象に、ベンチプレス・スクワット・デッドリフトで7つの式を検証しました。予測値と実測値の相関はどの式も高い(r > 0.95)一方で、種目ごとの当たり外れがはっきり出ています。デッドリフトでは全ての式が1RMを低く見積もり、スクワットで正確に予測できたのはWathen式だけでした。

Reynoldsら(2006) は、18〜69歳の70名(男性34名・女性36名)に、バーベルベンチプレスとレッグプレスで1RM・5RM・10RM・20RMをすべて実測させました。式で計算するのではなく、実際に何kgを何回挙げられたかを測った研究です。

実測された%1RMと、式が置いている割合
回数Epley式Brzycki式実測:ベンチプレス実測:レッグプレス
5回85.7%88.9%87.45%85.91%
10回75.0%75.0%75.65%70.10%
20回60.0%47.2%61.61%51.58%

実測値はReynoldsほか(2006)が報告した5RM・10RM・20RMの負荷の平均(バーベルベンチプレスとプレートロード式レッグプレス)。式の側の値は、それぞれの式が「その回数をこなせる重量は1RMの何%か」として置いている割合。20回はサイト内の計算機では入力できない範囲で、式の定義上の値として並べている

10回のところを見ると、Epley式とBrzycki式が置いている75.0%は、ベンチプレスの実測(75.65%)とほぼ一致しています。ところが同じ10回でも、レッグプレスの実測は70.10%で、5ポイント離れています。同じ回数でも、種目が違えば1RMに対する割合が違うということです。Reynoldsらはこの点を踏まえて、精度を上げるには種目別の式が必要だと結論づけています。

回数についてはさらにはっきりしています。同じ研究は、5RMからの予測がもっとも正確で、限界までの回数が増えるほど予測精度が悪化したと報告し、線形の式では10回を超えないよう結論づけました。20回の行を見ると理由が分かります。ベンチプレスの実測61.61%に対してEpley式は60.0%で近いものの、Brzycki式は47.2%まで下がってしまい、まったく別の数字になっています。

Mayhewら(2008) は、女性103名を対象に12週間のトレーニングの前後で同じ検証を行い、限界までの回数が10回未満のときに推定式が正確だったとしています。あわせて、トレーニングを積んで筋力と筋持久力の関係が変わっても、推定の精度は損なわれなかったとも報告しています。

3本に共通しているのは次の2点です。回数が増えるほど実測とのずれが大きくなる。そして種目によって当たり外れが変わる。 逆に言えば、この2つさえ避ければ、どの式でも実用上の差は小さくなります。

使い分け|低回数で、同じ式を、種目ごとに

以上を運用のルールに落とすと4つになります。

  1. 5回前後の、限界近くまで追い込んだセットを使う― Reynoldsら(2006)で5RMがもっとも正確でした。ウォームアップや余力をたっぷり残したセットは使いません。疲れの溜まった3種目目より、その日の1種目目のメインセットが向いています

  2. 8回以下なら、式選びより回数選びを気にする― 80kgを5回なら7式の答えは90.0〜95.2kgの範囲です。この幅を詰めるより、10回のセットではなく5回のセットを使うほうが、実測に近づきます

  3. 一度決めた式を変えない― 先月をEpley式、今月をBrzycki式で出すと、12回のセットでは3kg以上の段差が式の切り替えだけで生まれます。伸びたのか式を替えたのか、区別できなくなります

  4. 種目をまたいで使い回さない― ベンチプレスの記録から出した1RMをスクワットに当てはめることはできません。種目ごとに計算して、種目ごとに記録します

3つめが実際にはいちばん効きます。推定1RMは絶対値を当てにいく数字ではなく、自分の過去と比べるための数字だからです。同じ式で見ているかぎり、値そのものが多少ずれていても変化の向きは正しく出ます。推定1RMを指標として推移で読む手順は筋トレの成果を見える化する方法にまとめてあります。

もう1つ、推定1RMは総負荷量とセットで持っておくと読み違いが減ります。総負荷量には強度の情報が入っていないため、重量を下げて回数を増やしただけでも数字は増えてしまいます。総負荷量の計算方法で書いたとおり、その重量が1RMの何%にあたるかを添えておくと、量が増えたのか強度が上がったのかを分けて読めます。

手で1回だけ計算してみる

いちばん単純なEpley式で、80kgを5回挙げたセットを計算してみます。

  1. 回数を30で割る― 5 ÷ 30 = 0.1667

  2. 1を足す― 1 + 0.1667 = 1.1667

  3. 挙げた重量を掛ける― 80 × 1.1667 = 93.3kg。これが推定1RMです

Brzycki式なら 80 × 36 ÷ (37 − 5) = 2880 ÷ 32 で90.0kgです。2つの値のあいだ、90kgから93kgあたりが今の実力だと読めます。

手計算はここまでで十分で、回数ごとの換算表や、目標重量の逆算まで手で出す必要はありません。掛け算と割り算を毎回やるのは続かないので、そこから先は計算機に任せてください。

1RM計算機重量と回数から最大挙上重量を推定できます。Epley式・Brzycki式の両方と%1RM換算表つき(登録不要)

限界まで追い込んでいないセットしか手元にない場合は、RPEから「あと何回いけたか」を足して回数を補う方法があります。手順はRPEとは?筋トレの強度を数値化する使い方に、逆算まで含めた計算機は下にあります。

RPE換算計算機重量・回数・RPEから推定1RMと次のセットの目標重量が出ます。0.5刻みの全換算表つき(登録不要)

まとめ

  • 広く使われている1RM推定式は7つ。このサイトの計算機はEpley式とBrzycki式の2つを実装している
  • Epley式は 1RM = w × (1 + r ÷ 30)、Brzycki式は 1RM = w × 36 ÷ (37 − r)。10回でちょうど一致する(1RMの75%)
  • 80kgを5回なら7式の答えは90.0〜95.2kg。12回では幅が12.9kgまで広がる
  • 研究が一致しているのは「回数が増えるほど実測とのずれが大きくなる」こと。5RMからの予測がもっとも正確
  • 種目によって当たり外れが変わる。10回できる重量は、ベンチプレスで1RMの75.65%、レッグプレスで70.10%だった
  • 実務では同じ式を使い続けることがいちばん効く。絶対値ではなく、自分の過去と比べる数字として使う

次のトレーニングで、いちばん追い込んだ1セットだけ計算してみてください。93.3kgという数字そのものより、来月の同じ種目が96kgになっているかどうかのほうが、判断の材料になります。