「ベンチプレスが伸びない」と感じたとき、原因の候補はいくらでも挙がります。フォーム、頻度、量、疲労、睡眠、食事。ただし全部を同時に手当てすると、何が効いたのか分からなくなります。先に手をつけられるのは、すでに手元にある記録です。同じ重量・同じ回数が何回並んでいるかを数えれば止まっているかどうかが決まり、頻度・週の総負荷量・回数レンジ・RPEの4つを順に見れば、原因の当たりはかなり絞れます。記録では判定できない原因の扱いも含めて、順番に整理します。

まず「本当に止まっているのか」を記録で確かめる

伸びていない感覚と、実際に伸びていないことは別です。前回より重く感じた日や、最後の1回が上がらなかった日は印象に残りますが、それは1回ぶんの出来事でしかありません。判断に使うのは並んだ数字のほうです。

見るのは1つだけで、同じ種目・同じ条件で、重量と回数が並んでいるかどうかです。ベンチプレスなら、直近の数回ぶんを次のように書き出します。

  • 4週前: 80kg × 5回 / 5回 / 4回
  • 3週前: 80kg × 5回 / 5回 / 5回
  • 2週前: 80kg × 5回 / 5回 / 4回
  • 1週前: 80kg × 5回 / 5回 / 5回

この形で並んでいるなら、負荷は上がっていません。3セット目が4回と5回で揺れているのは、その日のコンディションの範囲です。逆に、メインセットの回数が5回から6回に増えているなら、重量の欄が動いていなくても前進しています。

「何週で停滞」という基準はない

ここは押さえておきたいところで、何週間続いたら停滞と言い切れる基準はありません。伸びの止まり方は経験年数・体重の増減・そのときの体調で変わりますし、公的機関のガイドにも一律の判定基準は示されていません。数字を作って基準のように書くことはできません。

代わりに使えるのは、回数の数え方です。ベンチプレスを週2回押しているなら、3〜4週で同じ種目を6〜8回こなしている計算になります。その全部で同じ数字が並んでいるなら、判断材料は揃っています。これは判定基準ではなく、材料が揃ったかどうかの数え方です。停滞のサインの読み方全体は筋トレの成果を見える化する方法に整理してあります。

回数の伸びは推定1RMで重量に翻訳できる

重量が横ばいの時期に「伸びていない」と判断してしまう原因の多くは、回数の伸びを拾えていないことです。ここを揃えるのに使うのが推定1RMです。

重量と回数から1回だけなら何kg挙げられそうかを見積もる値で、よく使われるEpley式は「重量 ×(1 + 回数 ÷ 30)」という形をしています。80kgを5回なら93.3kg、同じ80kgで6回に伸びれば96.0kg。参考までに、82.5kgを5回挙げた場合は96.3kgです。同じ重量で1回増やすことは、2.5kg増やして同じ回数をこなすのとほぼ同じ位置に来ます。重量の線だけを見ていると、この前進がまるごと消えます。

ベンチプレスの1RM計算機重量と回数から1RMを推定できます。Epley式・Brzycki式の両方と換算表つき(登録不要)

記録から分かる原因と、記録に映らない原因

止まっていることが確かめられたら、次は原因です。ここで大事なのは、候補を全部並べるのではなく、記録で判定できるものとできないものに先に分けることです。

伸びない原因の候補と、確かめる手段
原因の候補記録から分かるか確かめ方
週にベンチプレスを押した回数分かる記録の日付を週ごとに数える
週の総負荷量が増えているか分かる重量×回数×セット数を週で合計して並べる
回数レンジが偏っていないか分かる記録に残っている回数の分布を見る
同じ重量が重くなっていないかRPEを付けていれば分かるメインセットのRPEを並べる
測る条件が変わっていないか分かるグリップ幅・足の位置・器具を記録と突き合わせる
フォームとセットアップ分からない真横から動画を撮る。重量と回数の数字には現れない
インターバルの長さふつう記録に残っていないその場でタイマーを見る
睡眠・食事・体重の変化記録の外トレーニング記録とは別に残す

上の5行がこの記事で扱う範囲です。下の3行は記録を見ても判定できないので、別の手段に切り替えます

検索して出てくる記事の多くはフォームを筆頭の原因に挙げます。フォームが効かないという意味ではなく、フォームは記録では判定できないというだけのことです。判定できないものを最初に疑うと、直したかどうかも確かめられないまま次の週に進みます。順番として記録が先なのは、記録がすでに手元にあって、数分で確認が終わるからです。

手順0|条件が変わっていないかを先に疑う

切り分けに入る前に済ませておく確認があります。同じ条件で並べられているかです。ここが崩れていると、伸びていないのではなく比べられていないだけ、ということが起きます。

ベンチプレスで数字が不連続になる原因は、だいたい次のどれかです。

  1. ウォームアップのセットが混ざっている― 40kgや60kgのアップが同じ種目として並んでいると、最大重量も推定1RMも実態より低く出ます

  2. グリップ幅を変えた― 数センチ変えるだけで挙がる重量は動きます。名前が同じでも別の線として扱うのが正しい読み方です

  3. 足の位置とブリッジを変えた― セットアップが変われば、同じ重量でも回数が動きます。変えた日はメモに残しておきます

  4. 胸で止めるかどうかが日によって違う― 触れてすぐ切り返す日と、静止させる日の記録を並べても、伸びは判断できません

  5. 器具が変わった― スミスマシンやダンベル、別のジムのバーは、それぞれ別の記録です。同じ数字として並べられません

期間の取り方も同じです。1ヶ月の表示では、その日のコンディションによる上下しか見えません。重量と推定1RMは3〜6ヶ月で取ると、線の向きが読めるようになります。

記録の見え方で原因を切り分ける

ここからが本題です。見る順番は頻度 → 週の総負荷量 → 回数レンジ → RPEの4つで固定します。外側から順に見るのは、頻度が落ちれば量も落ち、量が長く落ちれば重量も伸びにくくなる、という向きの依存があるからです。

切り分け1|週にベンチプレスを何回押しているか

いちばん最初に数えるのは頻度です。地味ですが、自分の意思でいちばん動かせる数字で、しかも予定と実績がずれやすい項目でもあります。

数える単位は月ではなく週にします。「今月は6回」という数字は、週1回半を4週続けた月と、最初の2週で4回行ってあとが失速した月を区別できません。

頻度と筋力の関係については、Grgicらが2018年に発表したメタ分析があります。それによると頻度が高いほど筋力の伸びは大きかった一方で、週の総量をそろえて比べた研究に限ると頻度による差は有意ではありませんでした。著者らは、頻度の効果は主にトレーニング量によって生じていると結論しています。

つまり、週1回を週2回にすると伸びやすくなるとしても、効いているのは回数そのものより、その結果として週にこなした量が増えることのほうです。頻度を最初に見るのは、それが量の入り口にあたるからです。

厚生労働省のe-ヘルスネットは、筋トレについて「成人および高齢者に、筋トレを週2〜3日実施することを推奨する。」としていますが、これは筋トレ全体としての頻度で、ベンチプレスという1種目に何回という基準ではありません。同じページは「筋肉にしっかり負荷をかけるとともに、休息日もしっかり設けることを意識しましょう」とも書いています。増やせば増やすほどよい、という読み方はできません。

切り分け2|週の総負荷量が横ばいになっていないか

頻度が保たれているなら、次は量です。総負荷量は重量 × 回数 × セット数で出す数字で、週ごとに合計して並べます。

重量が「どれくらい強いか」を表すのに対して、この数字は「どれくらいの仕事をしたか」を表します。重量が横ばいでも総負荷量が上がっているなら、こなしている量は増えています。 逆に、重量も総負荷量も横ばいなら、負荷は本当に据え置きのままです。

量を追う理由には裏づけもあります。Schoenfeldらが2017年に15研究34群を対象に行ったメタ回帰は、週あたりのセット数が増えるほど筋量の増加が大きくなる用量反応関係を報告していて、セットが1つ増えるごとに効果量が0.023、増加率にして0.37%大きくなる、という結果を示しています。ただしこれは研究に参加した集団の平均的な傾向であって、あなたにとっての適量を決める数字ではありません。

計算の手順とダンベル種目の数え方は総負荷量の計算方法にまとめています。

切り分け3|回数レンジが1つに偏っていないか

頻度も量も動いているのに重量が伸びない場合、次に見るのは記録された回数の分布です。毎回8回から10回のあいだしか記録がない、という状態になっていないでしょうか。

同じレンジだけを回していると、そのレンジでの回数は伸びても、より重い重量を実際に扱う機会がありません。e-ヘルスネットは特異性の原理を「運動中のエネルギーの使われ方や筋肉の活動の仕方と関係する能力が増加することです」と説明しています。重い重量を挙げられるようになりたいなら、重い重量を扱う機会が要る、という向きで読める記述です。

負荷の高さそのものについては、Schoenfeldらが2017年に21研究を対象に行った別のメタ分析が参考になります。低負荷(1RMの60%以下)と高負荷(60%超)を比べたところ、1RMの伸びは高負荷のほうが有意に大きく、筋肥大の変化は両者で同程度でした。ただしこれは対象となった研究のすべてのセットが限界まで行われたものに限定した分析で、総負荷量を揃えた比較でもありません。読み取れるのは、1RMを伸ばしたい局面では負荷の高さが効いてくる、という向きだけです。

実務としてやることは、レンジを1つ足すことです。何回にすべきかの正解はありませんが、いつもより少ない回数のセットを1つ加えると、記録に別の帯が生まれます。異なるレンジどうしを比べたいときは、推定1RMに直すと1本の線に乗ります。

切り分け4|同じ重量でRPEが上がっていないか

ここまでの3つが動いているのに伸びない場合、疑うのは疲労です。ただし疲労は重量と回数の数字には出ません。出るのは、そのセットのきつさを記録している場合だけです。

RPEは、そのセットであと何回上げられたかを10点満点に置き換えた数値で、Zourdosらが2016年に定義したスケールでは、あと何回上げられるかを表すRIRとの関係が「RPE = 10 − RIR」になります。RPE8なら、あと2回残っていたという意味です。

読み方は単純です。

  • 同じ重量・同じ回数でRPEが下がっている — 同じ仕事に余力が生まれています。重量を上げる判断材料が揃いつつあります
  • 同じ重量・同じ回数でRPEが上がり続けている — 同じ重量が重く感じています。睡眠・食事・前の種目の疲労など、当日の要因が乗っていることが多い状態です

1回の上下では判断しないでください。RPEは主観なので単発ではぶれます。同じ向きが数回続いたかどうかで読みます。付け方と限界はRPEとはにまとめてあります。

記録の外にある要因|睡眠と体重の変化

4つを見ても原因が見つからないときは、記録の外に出ます。ここは数字が手元にないぶん、断定しにくい領域です。

睡眠について。 Cravenらが2022年に発表したメタ分析は、24時間内の睡眠が6時間以下だった条件と通常睡眠の条件を比べた69研究、227のアウトカム(うち筋力に関するものが66)をまとめています。全体として運動パフォーマンスの変化率は平均でマイナス7.56%(95%信頼区間はマイナス11.9からマイナス3.13、p = 0.001)で、すべての運動カテゴリーで有意な影響が認められました。ただし影響が一貫して見られたのは断眠と、いつもより早く起きる形の睡眠制限のときで、午前中に行った課題はほとんど影響を受けていません。これは一晩単位の睡眠不足を扱った分析であって、日常の睡眠の質と数か月の伸びを結びつけた研究ではない点にも注意が要ります。

体重の変化について。 「減量中だから伸びない」と考える前に、確認しておきたい報告があります。MurphyとKoehlerが2022年に行ったメタ分析は、エネルギー不足の状態で3週間以上の筋トレを行った研究を集め、除脂肪量の増加は阻害された一方で、筋力の伸びには統計的に有意な差が認められなかったと報告しています。同じ分析のメタ回帰では、1日あたり約500kcalの不足で除脂肪量の増加が消えるとされています。

減量が何の影響も与えないという意味ではありません。ただ、体重が減っていることを原因の筆頭に置いてしまうと、同時に落ちている頻度や量を見落とします。体重は原因の候補のひとつとして、記録の側を確認したあとに置いてください。

直し方の順番|一度に1つだけ変える

原因の当たりがついたら、変えるのは1つだけにします。理由は単純で、2つ同時に変えると、次の記録がどちらの結果なのか読めなくなるからです。頻度を増やして同時にレンジも足すと、伸びても伸びなくても、次に何をすればいいのか分かりません。

順番は、外側から内側へ。切り分けと同じ並びです。

  1. 条件をそろえる― グリップ幅・足の位置・器具を元に戻し、ウォームアップを集計から外します。ここが原因なら、翌週の記録がそのまま戻ります

  2. 頻度を戻す― 週1回になっているなら、まず回数を元に戻します。量もレンジもこの上に乗っています

  3. 量を足す― セットを1つ増やします。増やすのは1種目ぶんだけにして、他の種目はそのままにします

  4. レンジを足す― いつもより少ない回数のセットを1つ加えます。回数を減らすぶん、重量は上がります

  5. 回復側を触る― 睡眠時間・食事量・トレーニング日の間隔。ここは記録の外なので、変えた日をメモに残しておきます

変えた結果が読めるようになるのは、同じ種目を何回かこなしたあとです。ベンチプレスを週2回押しているなら、2週で4回、4週で8回。「◯週で判定」と言い切れる基準はありませんが、判断材料が揃ったかどうかは、この回数で数えられます。変えた直後の1回で結論を出さないでください。

e-ヘルスネットは個別性の原則を「トレーニングの実施内容を個人の能力に合わせて決めるようにします」と説明しています。どの順番で何を変えるかも、最終的には自分の記録を見ながら調整するものです。上の並びは、判断材料が多い順に並べたものにすぎません。

変えた日を残しておく場所も決めておくと、あとで突き合わせられます。項目の足し方は筋トレ記録のつけ方完全ガイドにまとめていて、ひとことメモは同じ失敗を2回繰り返したときに足す項目としています。メニューを変えた日も、これと同じ枠で足ります。

補助種目は主種目の代わりにならない

停滞したときによく出てくる手が、補助種目を足すことです。方向としては有効ですが、置き方を間違えると記録が読めなくなります。

前提として、e-ヘルスネットの特異性の原理が示しているのは、伸びるのはその運動で使われた能力だということです。ベンチプレスの数字を伸ばしたいなら、ベンチプレスそのものを疲れていない状態で行う機会が要ります。 補助種目を足すときは、主種目のあとに置くのが原則になります。

足す方向は、大きく3つに分かれます。

補助種目を足す3つの方向
方向種目の例記録上の扱い
押す角度を変えるインクラインベンチプレスベンチの角度もあわせて記録する。角度が違えば別の数字になる
左右を分けるダンベルプレス片手あたりの重量か左右の合計かを決めて固定する
肘の伸展に絞るスカルクラッシャーなどの三頭の種目バーの種類を記録する。EZバーは製品によって重さが違う

どれを足すべきかを決められる一次情報は確認できませんでした。ここに挙げたのは方向の分類であって、効果の順位ではありません

角度と重量の目安はインクラインベンチプレスの平均重量に、肘を痛めない範囲での上腕の固定についてはスカルクラッシャーのやり方にまとめています。

記録上の注意はひとつだけです。同じ「ベンチプレス」という名前で別の種目を混ぜないこと。 インクラインもダンベルも、同じ名前で入力すると推移のグラフが1本に混ざって、どちらの数字も読めなくなります。種目を分けておけば、補助種目のほうが先に伸びている、といった見え方もできるようになります。

まとめ

  • 「伸びない」かどうかは感覚ではなく、同じ重量・同じ回数が並んだ回数で数える。何週で停滞という基準はない
  • 重量が横ばいでも回数が伸びていれば前進。推定1RMに直すと、1回の伸びが重量の言葉になる
  • 原因は先に「記録から分かる / 分からない」に分ける。フォーム・インターバル・睡眠は記録では判定できない
  • 切り分けに入る前に、ウォームアップの混入・グリップ幅・足の位置・胸で止めるか・器具の変化を確認する
  • 記録から見る順番は頻度 → 週の総負荷量 → 回数レンジ → RPE。外側から内側へ
  • 頻度の効果は主に週の総量によって生じている。週1回になっていないかをまず数える
  • 記録の外の要因は、体重より先に記録側を確認する。減量下でも筋力の伸びに有意差は出なかったという報告がある
  • 直すのは一度に1つだけ。2つ同時に変えると、次の記録がどちらの結果か読めなくなる
  • 補助種目は主種目の代わりにならない。足すなら主種目のあとに、別の種目名で記録する

まずは直近4回ぶんのベンチプレスの記録を、重量と回数だけ書き出してみてください。並べた時点で、止まっているのか、回数だけが伸びているのかが分かります。