重量を上げるタイミングを決める基準は2つあります。目標にした回数を全セットでこなせたかと、同じ重量を扱うときの余力が増えたかです。この2つはどちらも「その重量が自分にとって軽くなったか」を見ていて、違うのは測り方が回数か感覚かという点だけです。アメリカスポーツ医学会(ACSM)のポジションスタンドは、決めた回数より1〜2回多くこなせるようになったときに2〜10%の範囲で重量を上げることを推奨しています。この1文に、上げる条件と上げ幅の両方が入っています。ここでは2つの基準の中身と使い分け、上げ幅を%で決める方法、そして上げてみて回数が落ちたときの戻し方までを順に整理します。

判断基準は2つ|回数で見るか、余力で見るか

2つの基準は競合しません。見ている対象が同じで、記録の取り方が違うだけです。

重量を上げる2つの判断基準
基準1:目標回数基準2:余力(RPE・RIR)
何を見るか決めた回数に、全セットで届いたか同じ重量・同じ回数で、終わった直後の余力が増えたか
記録に必要なもの種目・重量・回数左に加えてRPE(またはRIR)
向いている場面回数レンジを決めて回す通常のメニュー回数を固定するメニュー、日ごとの調子の差が大きいとき
弱いところ回数が伸びにくい種目では、いつまでも上がらない主観なので、1回の記録では判断できない

どちらか一方を選ぶ必要はありません。基準1を主に使い、基準2は「まだ上げない」と判断するための歯止めに回す組み合わせが実際的です

土台にあるのは漸進性過負荷の原則です。厚生労働省のe-ヘルスネットは、筋トレの負荷について日常生活レベル以上の負荷を繰り返しかけ、慣れてきたら少しずつ負荷を高めていく(=漸進性過負荷の原則)ことが重要と説明しています。同じサイトの「運動プログラム作成のための原理原則」は、漸進性の原則を体力・競技力の向上に伴って、運動の強さ・量・技術課題を次第に高めていくことと定義したうえで、いつまでも同じ強度の繰り返しではそれ以上の向上は望めない、としています。

方向はこれで決まっています。決まっていないのは「次第に」の中身、つまりいつ・どれだけの部分です。2つの基準は、そこを自分の記録から埋めるための手順にあたります。

基準1|目標回数を全セットでこなせたら上げる

いちばん手数が少なく、記録が3項目しかなくても回せるのがこの基準です。

先に回数レンジを決めておく

やることは2段階です。まず回数の範囲を決めて、その上限に全セットで届いたら重量を上げ、上げた分だけ回数が落ちるので、また下限から積み直します。重量と回数の2つを交互に進めるので、ダブルプログレッションと呼ばれる形です。

レンジの決め方には目安があります。ACSMのポジションスタンドは、トレーニング経験のない段階では8〜12回が上限になる重量を使うことを推奨しています。経験を積んだ段階については1〜12回というより広い範囲を挙げ、そのなかで重い側(1〜6回)に比重を移していく形を示しています。8〜12回や6〜10回のようなレンジをひとつ決めて、しばらく動かさないところから始めれば十分です。

  1. 回数レンジを決める― 例として8〜12回。この幅は、上げるかどうかを判断するためのものさしなので、途中で変えないことのほうが大事です

  2. 下限の回数ができる重量から始める― 8回がぎりぎりの重量を選びます。全セットで12回できてしまう重量は軽すぎます

  3. 重量を変えずに回数を伸ばす― 12回・10回・9回のように、後ろのセットほど落ちるのが普通です。この落ち幅が縮まっていく期間が前進にあたります

  4. 全セットで上限に届いたら重量を上げる― 12回・12回・12回が揃った日が判断のタイミングです。次回から重量を上げます

  5. 落ちた回数を、下限から積み直す― 上げた直後は9回や8回に戻ります。これは失敗ではなく、この方式の設計どおりです

ACSMが挙げている条件は、これよりもう半歩だけ先です。決めた回数より1〜2回多くこなせるようになったときに2〜10%の範囲で重量を上げる、という書き方をしています。目標が10回なら、11回か12回できた時点が上げどきということになります。

「2for2ルール」という呼び方

日本語の解説では、同じ考え方が2for2ルールという名前で紹介されていることがよくあります。目標より2回多くこなせた回が2回続いたら重量を上げる、という形です。ACSMの推奨に、2回連続という条件を足して厳しくしたものにあたります。

呼び名の出どころとして挙げられるのは書籍のため、参照できるURLがありません。この記事では、原文をたどれるACSMのポジションスタンドの側を根拠として扱っています。2回連続にするかどうかは、上げたあとに回数が落ちるのが気になるかどうかで決めれば十分です。慎重に進めたいなら連続条件を足し、早く進めたいなら1回で上げます。

基準2|同じ重量での余力が増えたら上げる

回数だけを見ていると、拾えない前進があります。重量も回数も同じなのに、余力だけが増えている期間です。

ベンチプレス60kgを8回。この記録が3週間並ぶと、数字の上では完全な横ばいに見えます。しかし1週目が「あと1回いけるか怪しい」で、3週目が「あと2回は残っていた」なら、この2つは違う出来事です。ここを残すために使うのがRPEです。

RPEはそのセットを終えた時点であと何回上げられたかを10点満点に置き換えた数値で、残り回数(RIR)とは RPE = 10 − RIR の関係にあります。RPE8なら余力が2回、RPE9なら1回です。定義と目安表、そして主観であることの限界はRPEとは|筋トレでの使い方と目安表にまとめてあるので、ここでは重量を上げる判断に使う部分だけを書きます。

判断の形は単純です。同じ重量・同じ回数でRPEが下がってきたら、その重量は軽くなっているので、上げる材料が揃っています。

同じ重量・同じ回数のときの、余力の動きと次の一手
直近の記録読み方次の一手
60kg × 8回 RPE9.5限界に近い。まだこの重量で余力を作っている段階据え置いて回数か余力を積む
60kg × 8回 RPE8.5余力が増えてきている。上げる手前もう1回ぶんの記録を待つ
60kg × 8回 RPE8 が2回続いた同じ仕事に必要な余力が減っている次回から重量を上げる

RPEの数値そのものに最適値があるわけではありません。この表のRPE8という線は「自分で決めておく基準」の例で、根拠のある閾値ではありません

こうやってその日の出来に合わせて重量を決めるやり方は、オートレギュレーションと呼ばれます。Helmsら(2016)は、この方式の利点をセットごとにその日の能力へ自動的に重量を合わせられること、そして限界に近い負荷では強度をより正確に捉えられることだとまとめています。Mannら(2010)は、大学アメリカンフットボール選手23名を6週間追跡し、その日の出来に応じて重量を決める群のほうが、あらかじめ決めた計画どおりに上げていく群よりベンチプレスとスクワットの伸びが大きかったと報告しています。

ただし、これで決着というわけではありません。Helmsら(2018)は8週間・週3回のプログラムでRPE指定と%1RM指定を比べ、群間の差は有意ではなかったと報告しています。Mannら(2010)の被験者は大学アメフト選手23名と限られた層なので、誰にでも当てはまる差として読める性質のものでもありません。

その日のRPEから、次のセットで使う重量を逆算することもできます。

RPE換算計算機重量・回数・RPEを入れると推定1RMと次のセットの目標重量が出ます。0.5刻みの全換算表つき(登録不要)

2つの基準は、根っこが同じ

ここまで別々に書いてきましたが、2つは同じ状態を別方向から測っています。

ACSMの条件である「決めた回数より1〜2回多くこなせる」を、余力の言葉に翻訳してみます。目標が10回で11回から12回できるということは、10回を終えた時点で1回から2回が残っていたということです。残り回数でいうとRIRが1〜2、RPEに直すと8から9にあたります。回数で測っても余力で測っても、たどり着く状態は同じという関係になります。

この対応づけは公式の推奨ではなく、2つの定義を突き合わせた解釈です。それでも、使い分けの答えはここから素直に出ます。どちらが正しいかではなく、どちらが自分の記録に残っているかで選べば十分です。

  • 重量と回数しか書いていない → 基準1だけで回ります。RPEを足す必要はありません
  • RPEも書いている → 基準1を主に使い、基準2を「まだ上げない」と判断するための歯止めに回します

基準2を歯止めに回す、というのは具体的にはこういう使い方です。回数の条件は満たしたが、その日のRPEが10に近かった。この場合は追い込んで届かせた可能性が高いので、もう1回ぶん様子を見ます。逆に条件を満たしていないのにRPEが7まで下がっているなら、回数の数え方かフォームのほうを先に確認します。

上げ幅はkgではなく%で決める

上げると決めたあとに残るのが、何kg上げるかです。ここはkgのまま考えると足を取られます。

ACSMのポジションスタンドが示している幅は2〜10%の範囲です。kgではなく割合で書かれているのがこの推奨の要点で、現在の重量によって適切な刻みが変わることがそのまま織り込まれています。

2〜10%を実際のkgに直すと(2.5kg刻みとの比較)
現在の重量2〜10%にあたるkg2.5kg上げると何%か
20kg0.4〜2.0kg12.5%(範囲を超える)
30kg0.6〜3.0kg8.3%
40kg0.8〜4.0kg6.3%
60kg1.2〜6.0kg4.2%
80kg1.6〜8.0kg3.1%
100kg2.0〜10.0kg2.5%
140kg2.8〜14.0kg1.8%(範囲を下回る)

ACSMが示した2〜10%という幅を、現在の重量ごとに計算し直したものです。2.5kgが2〜10%に収まるのは25kgから125kgの間で、境界は2.5 ÷ 0.10 と 2.5 ÷ 0.02 から出ています

表から読めることが3つあります。

1つ目は、2.5kg刻みが万能ではないことです。 2.5kgが2〜10%に収まるのは25kgから125kgまでです。それより軽い重量では刻みが大きすぎ、重い重量では小さすぎます。140kgのスクワットに2.5kg足しても1.8%にしかならないので、5kg刻みに切り替える理屈が立ちます。

2つ目は、「上半身は小さく、下半身は大きめ」という言い方の中身です。 これは部位で分かれているのではなく、扱う重量の絶対値で決まっています。ベンチプレス60kgとスクワット120kgに同じ2.5kgを足すと、前者は4.2%、後者は2.1%です。同じ刻みでも意味が変わるので、結果として脚の種目のほうが大きく上げることになります。

3つ目は、ダンベルが詰まりやすい理由です。 ラックが片手2.5kg刻みなら、片手20kgの次は22.5kgで12.5%の増加になります。2〜10%の範囲を初めから超えているので、回数が大きく落ちるのは当然の結果です。ダンベル種目で重量が長く動かないのは、伸びていないからではなく、次の一段が遠いことが原因である場合があります。

なぜジムの刻みは2.5kgなのか

この2.5kgという数字には出どころがあります。国際パワーリフティング連盟(IPF)のテクニカルルールブックは、競技で使うディスクを1.25kg・2.5kg・5kg・10kg・15kg・20kg・25kgの範囲と定めています。いちばん小さい1.25kgをバーの左右に1枚ずつ載せると、増える重量は2.5kgです。同じルールブックは、競技で扱うバーの重量は常に2.5kgの倍数でなければならないとも定めています。ジムのプレート構成が2.5kg刻みになっているのは、この規格に沿っているためです。

つまり2.5kgは、身体の側から出てきた最適値ではなく、器具の側の目盛りです。自分の重量に対して大きすぎるなら、目盛りのほうを変えて構いません。

同じルールブックには、記録に挑戦する場合に限って0.25kg・0.5kg・1.0kg・1.5kg・2kgという、より小さい増分のディスクを使ってよいという規定もあります。競技の世界でも、細かく刻む必要がある場面では細かく刻んでいるということです。市販されているこの種の小さいプレートは、マイクロプレートやフラクショナルプレートと呼ばれます。一般のジムに常備されているとは限らないので、必要なら自分で用意することになります。

上げて回数が落ちたら、そこから作り直す

重量を上げた翌週に回数が落ちるのは、失敗ではありません。ダブルプログレッションはその落ち込みを前提に組まれています。12回・12回・12回で上げたなら、次は9回・8回・7回あたりから始まります。ここから上限に戻していく期間が、そのまま次のサイクルです。

問題になるのは、落ち幅が大きすぎるときと、いつまでも戻らないときの2つです。

  1. まず、下限に届いているかを見る― 8〜12回のレンジで、上げた直後に全セット8回以上できているなら、想定内です。そのまま回数を積み直します

  2. 下限を割ったら、1回だけ様子を見る― 8回のはずが6回しかできなかった日は、上げすぎか、その日のコンディションかの区別がつきません。同じ重量でもう1回やってみます

  3. 2回続けて下限を割ったら、重量を戻す― 前の重量に戻して、そこで上限に届くまで積み直します。戻すのは後退ではなく、判断を1段やり直す作業です

  4. 戻すのが3回続いたら、刻みのほうを疑う― 同じ壁を3回叩いているなら、原因は根性ではなく上げ幅にあります。1.25kgや0.5kgの刻みに変えると通ることがあります

ここで使った「2回続けて」「3回続いたら」という回数は、判断を固定するための例であって、根拠のある閾値ではありません。自分で線を引いて、そこを動かさないことのほうが重要です。

もうひとつの選択肢は、重量を上げないまま進めることです。Plotkinら(2022)は、下半身のトレーニング経験が1年以上ある43名を8週間・週2回で追跡し、重量を増やしていく群と回数を増やしていく群を比べました。結論は「回数の漸進と重量の漸進はどちらも、筋の適応を進める有効な方法である」というものでした。重量が上がらない期間に回数だけを伸ばしていくのは、妥協ではなく成立する進め方です。

ただし、目的が最大挙上重量の更新なら話が変わります。Schoenfeldら(2021)の総説は、1RMを増やすうえでは扱う重量が支配的な変数で、他の変数は二次的なものにみえると述べています。同じ総説は、筋の肥大については1RMの約30%以上という広い範囲で同程度の成長が得られるとも整理しています。回数で進める期間を挟むのは問題ありませんが、強くなりたいなら、どこかで重量に翻訳する段階が要ります。

判断できるのは、前回の数字が残っているときだけ

ここまでの基準は、どれも前回との比較でできています。先週このセットで何kgを何回挙げたかが分からなければ、基準1も基準2も動きません。

1週間前の数字を正確に思い出せる人は多くありません。しかも思い出せないときは、たいてい低いほうに合わせて安全側に倒すことになります。e-ヘルスネットが言う「慣れてきたら少しずつ負荷を高めていく」を毎回のセットで実行するには、比較の相手が数字として残っている必要があります。

残す項目は多くなくて構いません。基準1だけを使うなら種目・重量・回数の3つで足ります。基準2を使う段階になったら、そこにRPEを1列足します。何をいつ足すかの順番は筋トレ記録のつけ方完全ガイドにまとめてあり、RPEは同じ重量で回数が伸びなくなり、上げるべきか迷うようになったときに足す項目として位置づけています。この記事の基準2に進むタイミングが、ちょうどそこにあたります。

重量が数か月動かない時期もあります。そのとき止まっているのか進んでいるのかを見分ける方法は筋トレの成果を見える化する方法に整理しました。回数だけが伸びている期間は、推定1RMに直すと同じものさしの上に乗ります。

1RM計算機重量と回数から最大挙上重量を推定できます。Epley式・Brzycki式の両方と%1RM換算表つき(登録不要)

セットの量そのものを増やす形で負荷を足す方法もありますが、そちらは重量とは別の軸になります。量と強度を分けて読む考え方は総負荷量の計算方法にまとめています。

まとめ

  • 判断基準は2つ。目標回数を全セットでこなせたかと、同じ重量での余力が増えたか
  • ACSMは、決めた回数より1〜2回多くこなせるようになったとき2〜10%の範囲で上げることを推奨している
  • 基準1は回数レンジを決めて回す形(ダブルプログレッション)。1セット目だけで判断しない
  • 基準2はRPEを使う形。RPE = 10 − RIR。ただしRPEいくつで上げるかの最適値は確認できない
  • 2つは同じ状態を別方向から測っている。「1〜2回多くできる」はRIR1〜2、RPEでいうと8から9にあたる
  • 上げ幅はkgではなく%で決める。2.5kgが2〜10%に収まるのは25kgから125kgまで
  • 2.5kgという刻みは競技規格に由来する器具側の目盛り。合わなければ変えてよい
  • 上げて回数が落ちるのは設計どおり。2回続けて下限を割ったら戻し、3回繰り返すなら刻みを疑う
  • 重量を上げない期間に回数を伸ばすのも有効。ただし1RMを伸ばしたいなら重量が主役になる

次のトレーニングでは、いちばん重いセットの回数を全セットぶん見比べてみてください。全部が上限に届いていれば、今日が上げどきです。