ディップスは、公開データの初心者基準が男性3回・女性は1回未満(加重換算で-15kg、つまり補助15kg相当)という種目です。できないところから始まるのが公開データ上の普通の位置になります。負荷を下げる方法は回数を工夫することではなく、体重の一部を別の支点に預ける「補助」で、一次情報が挙げる段階は4種類です。バーの構えは、胸を狙う形と上腕三頭筋を狙う形が別の種目として書き分けられていて、差はバー幅・股関節・肘の3点にあります。この記事では、効く筋肉と構造、手順と下ろす深さ、補助で段階を作る方法、回数と加重の目安を順に整理します。

主に効く部位
上腕三頭筋・大胸筋構えで主働筋が入れ替わる
器具
ディップスバーアプリの種目名は「ディップス」
負荷の数え方
回数と加重補助を引く・重りを足す
難易度
中級初心者基準は男性3回
回数の目安(中級)
20男性・Strength Level(推定)

効く筋肉と構造|胸版と三頭版は別の種目

主働筋を入れ替えているのは3つの違い

ディップスは、バーの構え方によって三頭版と胸版という別の種目に分かれています。共通するのは、バーの上で体を上下させる多関節のプッシュ系種目という分類だけで、狙う筋・バー幅・下半身の構え・肘の使い方はそれぞれ違います。

三頭版は、肩幅のバーをまっすぐ握り、股関節をまっすぐに保ちます。下ろす基準は肩に軽いストレッチを感じるところです。胸版は、三頭版より広いバーを斜めに握り、股関節と膝を軽く曲げ、肘を外に開きながら下ろします。下ろす基準は胸か肩に軽いストレッチを感じるところです。

股関節を曲げて構えると、その結果として上体は前に傾きます。ただし前傾角度という数値そのものを基準にした記載はなく、書き分けの軸はあくまでバー幅・股関節・肘の3点です。

三頭版と胸版の違い
三頭版(Triceps Dip)胸版(Chest Dip)
狙う筋上腕三頭筋大胸筋(胸肋部)
バー幅肩幅肩幅より広い
握り方指定なし斜め(手のひらに対して斜めに握る)
股関節・膝まっすぐ保つ軽く曲げる
指定なし外に開く
下ろす基準肩に軽いストレッチを感じるところ胸か肩に軽いストレッチを感じるところ

ExRx.netのChest DipページとTriceps Dipページの記載(2026-08-11取得)にもとづく。分類はどちらもUtility=Basic/Mechanics=Compound/Force=Push

上腕三頭筋の長頭だけが肩をまたぐ

上腕三頭筋は3つの頭に分かれていて、肩をまたぐのは長頭だけです。長頭の起始は肩甲骨の関節下結節で、肘の伸展に加えて肩の伸展と内転にも働きます。外側頭と内側頭は上腕骨の後面から起こるため、肩には作用しません。

ディップスでは、体を下ろすときに肩が伸展位に入ります。これは長頭が縮む側で働く形です。頭上に腕を上げて長頭を伸ばした位置から動かす種目とは役割が違っていて、この違いはスカルクラッシャーのやり方でも扱っています。

大胸筋は胸肋部が主働筋になる

大胸筋は複数の部分に分かれていて、ディップスで主働筋になるのは胸肋部です。胸肋部は、屈曲した腕を伸展させる働きを持ちます。ディップスで体を押し上げる動きは、肩を屈曲位から伸展位へ動かす方向と一致するため、この働きに沿います。

アプリの種目マスタでも、「ディップス」という種目は上腕三頭筋と大胸筋の両方に分類されています。胸版と三頭版を1つの種目としてまとめて記録する形です。

ディップスのやり方|手順と下ろす深さ

  1. 肩幅のバーをまっすぐ握り、腕を伸ばしてバーに上がる― 肩が手の真上に来る位置が開始位置です。股関節はまっすぐに保ちます

  2. 肘を曲げて体を下ろす― 肩に軽いストレッチを感じるところまで下ろします

  3. 腕をまっすぐ伸ばして体を押し上げる― 伸ばし切った位置が次の1回の開始位置です

これは三頭版の基準形です。胸版はここから3点変わります。バー幅は肩幅より広くし股関節と膝は軽く曲げ下ろしながら肘を外に開きます。下ろす基準も、胸か肩に軽いストレッチを感じるところに変わります。

この基準形に、足を台に置く・マシン・バンドで補助を加えたり、加重ベルトやダンベルで負荷を足したりして強度を調整します。呼吸については、厚生労働省のe-ヘルスネットが筋トレ全般の注意として、血圧の急激な上昇を抑えるために息をこらえないよう注意を促しています。

深さの基準は角度ではない

下ろす深さの基準は、肘の角度でもバーの高さでもなく、胸か肩に軽いストレッチを感じるところです。

経験のあるトレーニーを対象にした実測でも、この基準は角度に対してある程度の余白を残しています。バーでのディップスを限界まで行った15名の平均は24.93回で、疲労していない時点の肩の伸展角度は最大受動可動域の75.96%、疲労した最後の数回でも76.30%でした(McKenzieら2022年)。経験者でも、フォームが崩れていない段階では最大可動域の8割弱までしか下ろしていなかったという結果です。

追い込むときに起きること

限界まで追い込んでも、肩の伸展角度のピークそのものは変わりません。McKenzieらの疲労研究では、非疲労時と疲労時で肩の伸展角度に有意差はありませんでした(75.96%対76.30%、p=0.905)。

その代わりに変わるのは動作の大きさです。骨盤の上下移動量は、疲労していない時点の351.68mmから、疲労した最後の数回で311.00mmへ有意に減っています。角度のピークは同じでも、動作そのものが小さくなるということです。

大胸筋の活動量は疲労で上がります。肩が最大に伸展する時点での活動は、非疲労時の64.80%から疲労時には105.68%まで上がりました。

この研究では、15名中4名が最後の1回に失敗し、うち2名は可動域テストで測った肩の最大角度を超えていました。著者らは、補助者をつけること、バーの高さを下げること、限界まで追い込む頻度を考えることを挙げています。

ディップスができない|補助で段階を作る

ディップスが1回もできないのは、公開データの出発点そのものです(回数と加重の目安は後述します)。段階の作り方として一次情報が挙げているのは、回数を工夫することではなく、体重の一部を別の支点に預ける補助です。挙げられているのは、足を台に置いて自分で補助する形、マシンで補助する形、バンドで補助する形、2台のベンチのあいだで行うベンチディップの4つです。

足を台に置いて自分で補助する

  1. バーの手前に台を置き、つま先を乗せてバーに上がる― 肩幅のバーを握り、腕を伸ばして肩を手の真上に置きます。膝を曲げ、つま先は体の後ろ・下側の台につけたままにします

  2. 肘を曲げて体を下ろす― 必要なら脚の力を最小限だけ使って下降をコントロールします。つま先は台につけたままにします

  3. 体を押し上げて繰り返す― 押し上げるときも、脚の補助は最小限にとどめます

脚を使うと大腿四頭筋が動員されます。この形は股関節がよりまっすぐで、上体もより垂直に近くなり、三頭版寄りの構えになります。補助を減らす方向は、脚で押す力を弱めるか、アシストマシンに切り替えるかの2つです。

バンド補助とアシストマシン

バンド補助とアシストマシンは、足つき補助と並ぶ選択肢として挙げられています。バンドやマシンが体重の一部を支える分だけ、体にかかる負荷が下がる仕組みです。段階を上げるときは、バンドの張力を弱いものに替えるか、マシンの補助重量を減らしていきます。

ベンチディップ|自宅でもできる形

  1. 2台のベンチを、脚の長さよりやや短い間隔で平行に置く― 自宅なら椅子や台でも代用できます

  2. 片方のベンチの内側に座り、手を縁について腕を伸ばす― お尻をベンチから浮かせ、かかとをもう片方のベンチに乗せて脚をまっすぐ伸ばします。ベンチの高さは、フルレンジで動ける高さを選びます

  3. 腕を曲げて体を下ろす― 胸か肩に軽いストレッチを感じるところ、またはお尻が床につくところまで下ろします

  4. 腕を伸ばして体を押し上げて繰り返す

やさしくする方法は、かかとを乗せる台をより高くすることです。逆に、足を床に置く形はやや難しくなります。最下点で脚がより水平になる分、負荷が上がるためです。ほかに、膝の上に重りを乗せる形や、バーの上で行う通常のディップスへ移る形が、負荷を上げる方法として挙げられています。

膝を曲げて足を床につける、日本語でよく見かける「椅子ディップス」の形は、この一次情報には載っていません。楽になる方向として書かれているのは、かかとを乗せる台を高くすることだけです。

ベンチディップには、直感と逆に読める実測データがあります。経験者男性13名を対象に、ベンチ・バー・リングの3種類のディップスを比べた研究(McKenzieら2022年)です。

上腕三頭筋のピーク活動は、ベンチが0.83mVで、バーの1.04mV・リングの1.05mVより低い値でした。負荷としてはベンチが軽いということです。

ところが肩の伸展は逆でした。各自の最大受動可動域に対する割合で見ると、ベンチが101.35%、バーが88.03%、リングが68.88%と、3種類の中でベンチが最大でした。体幹の前傾角度は、ベンチが12.61度で、バーやリングよりはっきり小さい値です。著者らは、前傾が小さい分、深さのほとんどを肩の伸展だけで作ることになるためだと説明しています。

これはベンチディップを使うなという話ではありません。著者らは、バーでのディップスはベンチディップからの適切なステップアップだとも書いています。段階の入口としてベンチディップを置くこと自体は否定されていません。ただし、負荷が軽いからといって肩の可動域も小さいとは限らず、肩の伸展が深くなりやすい特性を知ったうえで、可動域を自分でコントロールする種目だということです。無理に胸を追い込もうとして肩だけを大きく開くよりは、伸展の深さを一定に保つほうが、動作としてはそろいます。

肩に不安がある場合の代替として、著者らは三角腕立て伏せとトライセプスキックバックを挙げています。上腕三頭筋を鍛えたい人向けの選択肢として紹介されているもので、ベンチディップに代わる推奨というわけではありません。三角腕立て伏せ(ダイヤモンドプッシュアップ)は腕立て伏せの記事で、トライセプスキックバックはフレンチプレスの効果とやり方で扱っています。

段階の作り方
段階何を変えるか体重のかかり方
ベンチディップ2台のベンチ(または椅子と台)のあいだで行う足に一部を預ける
足つき補助台に足を置いて脚の力を借りる脚に一部を預ける
バンド補助バンドの張力で体を持ち上げるバンドに一部を預ける
マシン補助マシンの補助重量で体を持ち上げるマシンに一部を預ける
自重・加重バーで自重、慣れたら加重を足す全体重、さらに加重

ExRx.netのChest Dip/Triceps DipページのEasier(やさしくする方法)の記載にもとづく段階(2026-08-11取得)

ネガティブは一次情報の段階リストに無い

ネガティブ(下ろす動作だけをゆっくり行う練習法)は、検索結果の定番として挙げられていますが、一次情報の補助リストには含まれていません。使ってはいけないという話ではなく、出典のある段階と、出典のない慣行を分けて示すという扱いです。

「ネガティブ5回×3セットで1回できるようになる」といった回数の移行基準も、出典が見つからないため使いません。代わりに使えるのは、補助の量を1段階ずつ減らして、同じ深さで同じ回数が出せるかを基準にする方法です。段階の上げ方の一般原則は漸進性過負荷のやり方にまとめています。

頻度については、厚生労働省のe-ヘルスネットが、成人および高齢者に筋トレを週2〜3日実施することを推奨しています。休息日を挟むことが前提です。週2〜3日の組み方は週2の筋トレは全身法にまとめています。

回数と加重の目安|公開データの出発点

ディップスには、回数と加重という2つの公開データがあります。トレーニング記録の投稿サイトStrength Levelが、それぞれレベル別の基準値を公開しています。

ディップス回数の目安(
レベル男性女性
初心者31回未満
初級者101
中級者209
上級者3118
エリート4329

出典: Dips Standards (kg)Strength Level2026-08-11 確認)

海外ユーザーの自己申告データです。有効結果517,475件(男性489,613件・女性27,862件、2016年12月4日〜2026年3月5日、コミュニティ記録2,162,628件から絞り込み)にもとづく数字です。胸版・三頭版・加重版が分かれておらず、下ろす深さの定義も公開されていません。ベンチディップの基準値は存在しません。日本人の平均でもありません

加重の表には、マイナスの数値が出てきます。原文の定義は、基準がマイナスなら補助を受けている状態、プラスならウェイトベルトなどで重りを足している状態というものです。つまり女性の初心者基準である-15kgは、15kg相当の補助を受けてようやく届く水準だということです。公開データの出発点自体が、1人ではできない側にあります。加重は、ウェイトベルトを腰につけるか、ダンベルを足のあいだに挟む形で足します。

ディップス加重(1RM)の目安(kg
レベル男性女性
初心者+3-15
初級者+24-1
中級者+49+17
上級者+78+37
エリート+109+59

出典: Dips Standards (kg)Strength Level2026-08-11 確認)

海外ユーザーの自己申告データです(有効結果517,475件、男性489,613件・女性27,862件、2016年12月4日〜2026年3月5日)。マイナスの数値は補助を受けている状態、プラスは加重を足している状態を意味します。胸版・三頭版で分かれておらず、ベンチディップの基準値は存在しません。日本人の平均でもありません

レベルの区切りは、記録を投稿した人の中での順位で決まっています。

レベル記録を投稿した人の中での位置練習期間の目安
初心者5%より強い1か月以上
初級者20%より強い6か月以上
中級者50%より強い(ちょうど真ん中)2年以上
上級者80%より強い5年以上
エリート95%より強い5年以上、競技レベル

多い組み方は、男性が3セット×10回(17%)、女性も3セット×10回(18%)です。推奨ではなく、投稿された組み方の中でいちばん多かった数字です。

記録に残すこと

回数だけでは同じものさしになりません。補助の量(バンドやマシンの重量、足つきかどうか)、加重、上体を前に傾けたかの3つを、回数と一緒に1行残しておくと、あとから比べられます。

自重種目を回数で見る先例は、アブローラーの効果でも扱っています。記録する項目の決め方は筋トレ記録のつけ方完全ガイドに、回数の推移で伸びを見る方法は筋トレの成果を見える化する方法にまとめています。

RPE換算計算機重量を増減しにくい回数種目では、あと何回できそうかでセットの止め時を判断できます(登録不要)

まとめ

  • ディップスは、公開データの初心者基準が男性3回・女性1回未満(加重換算で-15kg=補助15kg相当)という種目。できないところから始まるのが普通の位置にある
  • バーの構えは三頭版と胸版で別の種目。差はバー幅・股関節・肘の3点
  • 下ろす深さの基準は角度ではなく、胸か肩に軽いストレッチを感じるところ。経験者の実測でも最大可動域の約76%まで
  • 段階の一次情報は補助。足つき自己補助・マシン・バンド・ベンチディップの4種類で、ネガティブは出典のある段階には含まれない
  • ベンチディップは三頭筋の活動がバーより低い一方、肩の伸展は3種の中で最大。肩の可動域を使い切りやすい特性を知って扱う
  • 加重の表のマイナスは補助を受けている状態、プラスは加重を足している状態
  • 頻度は週2〜3日、休息日が前提