「顧客管理」という言葉は、2つのことを指しています。予約・決済・会員情報をまとめて扱う店舗運営の話と、セッションとセッションの間にクライアントとどう関わるかという話です。受付を通す会員がいない個人トレーナーが困るのは後者で、やることは記録する・渡す・確認するの3つに分かれます。この記事ではその3つを整理し、各論をどの記事で扱っているかまでをまとめます。

「顧客管理」が指しているのは、2つのこと

「パーソナルトレーナー 顧客管理」で検索すると、出てくる記事の型はだいたいそろっています。顧客管理システムを導入するメリット、選び方のポイント、おすすめ・比較。中身を見ていくと、扱っているのは予約・決済・入退館・会員情報・POSをひとつの画面で管理することです。これが「顧客管理」という言葉が指している意味のひとつで、店舗を運営する側の管理にあたります。

もうひとつの意味があります。セッションとセッションの間に、担当しているクライアントとどう関わるかという話です。同じ「顧客管理」という言葉でも、指している範囲が違います。受付を通す会員が複数いて、スタッフも複数いて、入退館まで管理する必要がある店舗なら、前者の意味がそのまま自分の業務に当てはまります。個人で活動していて、担当するクライアントの記録と予定の管理だけで足りるなら、話は変わってきます。この記事を読んでいるということは、後者の意味で困っている可能性が高いはずです。予約や決済のシステムをいくら調べても、セッションの外でクライアントとどう関わるかという問いには答えが出ません。

自分にどちらが当てはまるかは、次の3問で切り分けられます。

  • 受付を通す会員がいるか
  • スタッフが複数いるか
  • 入退館の管理が要るか

どれも当てはまらないなら、店舗運営システムが持つ機能の多くは使わない可能性があります。3問がどれも当てはまらないのに店舗運営システム型を検討し始めると、比べる軸そのものがずれます。使わない機能の分だけ、料金や設定の手間が増えることになりかねません。逆に、困っているのがセッションの間の運用のほうなら、店舗運営システムの資料をいくら読んでも、記録する・渡す・確認するの3つをどう回すかという答えは出てきません。

この記事がこのあと扱うのは、後者、つまりセッションの間の運用のほうです。道具の側の分類と料金は顧客管理アプリの選び方にまとめています。予約・決済・POSの機能そのものの解説はこの記事の範囲を超えるので、必要な場合は各社の公式情報を確認してください。

セッションとセッションの間に、何をするか

セッションの間の運用は、記録する・渡す・確認するの3つに分解できます。この3つは独立した作業ではなく、互いにつながって1つの循環をつくります。

トレーナーとクライアントが顔を合わせるのは、週に1〜2回のセッションだけです。残りの数日間、クライアントが何をしていたかは、本人の申告でしか分かりません。「まあまあです」「だいたいできました」という言葉の中身は、次のセッションで実際の記録や様子を見るまで確かめようがありません。この構造がある以上、セッションの外で何が起きているかを扱う仕組みが要ります。

自己申告は、悪気なく実態とずれることがあります。うまくいっていない週ほど、トレーナーに気を遣って「大丈夫です」と答えたくなることもありますし、本人がずれに気づいていないこともあります。どちらの場合でも、申告の言葉だけでは、次に何を変えるべきかの判断材料になりません。

3つの関係は、次のように言い切れます。記録は、次に渡すものを決めるためにあります。渡したものは、確認できて初めて次の記録につながります。 どれか1つが欠けると、残り2つも止まります。この循環は、どこか1点から始めても回ります。セッションで話を聞いて記録し、次回までの宿題を渡し、次のセッションで実施を確認しながら新しい記録を取る。この繰り返しがそのまま運用になります。逆に、記録は紙、渡すのはLINE、確認は記憶、というように3つを別々の場所に置いてしまうと、循環がつながらなくなります。

欠け方は、だいたい3通りです。

  • 記録だけあって渡さない → カルテが保管庫になる
  • 渡すけれど確認しない → 出しっぱなしになる
  • 確認するけれど記録が無い → 何を基準に確認するのかが決まらない

3つのうち、どれか2つだけがうまく回っている状態は珍しくありません。渡すところまではできていても確認が抜けている、記録は毎回取れているが渡すところで止まっている、というのはよくある形です。どこで止まっているかを最初に見極めることが、このあとの3つの節を読み進める助けになります。

  1. 記録する― セッションの実施記録と、次回までの宿題を書く

  2. 渡す― 次のセッションまでにやることを、手元に残る形で届ける

  3. 確認する― 渡したものが実施されたかどうかを見る

  4. 次の記録へ― 確認した結果が、次に何を記録し、何を渡すかを決める材料になる

この3つの分解は、特別に難しいことを言っているわけではありません。多くのトレーナーが、意識してもしなくても、すでに近い形で運用しています。違うのは、3つをばらばらの場所や手段で行っているか、つながりを保ったまま1つの運用として回しているかです。次の3つの節では、①〜③それぞれで何を残し、何を渡し、何を見るかを順に見ていきます。

道具の話は、次の節から扱います。ここではまず、運用そのものの形を押さえておきます。何を指導すべきかというプログラムの中身には、この記事では立ち入りません。

① 記録する — 何を残し、それが次に何になるか

記録の項目は、性質がはっきり2つに分かれます。初回に埋めればあとはほとんど動かない欄と、セッションのたびに増えていく欄です。運用が苦しくなるのは後者だけで、前者はどんな様式で持っていてもさほど困りません。項目を5つの区分にまとめると、基本情報・目標と期限・申告された制約・セッションの実施記録・次回までの宿題になります。このうち動かないのは最初の3つで、増えていくのは実施記録と次回までの宿題の2つです。既往や服薬のような申告された制約は、個人情報保護委員会が要配慮個人情報にあたるとしている情報にもなるので、取得と記録の扱いには注意が必要です。

欄をこの2つの性質で分けておくと、どちらが苦しくなるかが最初から分かります。基本情報や目標は、初回にきちんと聞いておけば、あとから見返す機会は多くても書き直す機会はそう多くありません。一方で実施記録と次回までの宿題は、セッションのたびに、あるいは日々の自主トレのたびに増えていきます。同じ場所に混ぜて書いていると、増え続ける欄の下に、動かない欄が埋もれていくことになります。

記録は、溜めるためにあるのではありません。次に何を渡すかを決めるためにあります。だからこそ、毎回増える欄のうち「次回までの宿題」だけは、書いて終わりにしてはいけません。ここに書いたものが、次の節で扱う「渡す」に直接つながります。宿題の欄が空欄のまま並んでいくとしたら、それは「渡していない」というサインです。逆に、宿題の欄は埋まっているのに実施したかどうかを確認する場所がどこにも無いとしたら、問題は記録の側ではなく、次に扱う「渡す」の側にあります。5つの区分そのものは、業界標準というより、記録する・渡す・確認するという3つの運用から逆算したものです。②渡すの材料になるのは実施記録と次回までの宿題で、③確認するの材料になるのも同じ2つです。基本情報・目標・申告された制約の3つは、渡す・確認するのどちらの材料にもならず、初回にきちんと聞いておけば、そのあとは見返す対象として置いておくだけで足ります。

記載項目のテンプレートと、書いた内容が次のセッションまでに何になるかはカルテの記載項目と次回までの設計で扱っています。姿勢評価や動作分析の項目をどう設計するかは、この記事では扱いません。

② 渡す — 次のセッションまでに何を届けるか

セッション外に渡すものが何か、という中身はこの記事では扱いません。ここで扱うのは形式です。

渡すものは3つの要素で決まります。次のセッションまでにやること、期限(=次回のセッション日)、そしてどうなったら達成かです。この3つがそろっていれば、渡し方が口頭でも紙でもアプリでも成立します。ただし、実施が返ってくるかどうかは、渡し方の形式によって変わります。

渡し方4つと、確認できるかどうか
渡し方手元に残るか実施が返るか
口頭で伝える残らない返らない
LINEで送る流れて埋もれる自己申告で返る
紙に書いて渡す残る返らない
日付の付いた予定として届ける残る実績と結びついて返る

口頭は、渡した瞬間から確認する手がかりがありません。LINEは手元には残りますが、日々のやり取りに流れて埋もれていきます。紙に書いて渡す方法も残ってはいますが、実施したかどうかは自己申告を聞くまで分かりません。日付の付いた予定として届ける形だけが、実績と結びついて返ってくる可能性を持ちます。

口頭とLINEに共通するのは、渡した瞬間はクライアントに届いていても、時間が経つと本人の記憶やトーク履歴の奥に埋もれてしまうことです。紙は物理的には残りますが、実施したかどうかを追加で書き込む欄が無ければ、渡した記録のまま止まります。日付の付いた予定という形は、「いつまでに」「何を」が最初から構造として決まっているため、期限を過ぎても消えず、実施の有無をあとから確認する対象として扱えます。

「実施が返るか」の列も、中身は一様ではありません。LINEでの自己申告は、聞けば「できました」という言葉は返ってきますが、その言葉と実際にやったセット数や重量が一致しているとは限りません。返ってくるのが言葉なのか、行動の記録そのものなのかで、確認できる精度が変わります。

ここで言う「日付の付いた予定」は、特別な仕組みを指しているわけではありません。カレンダーに1件ずつ登録する、あるいは表計算の1行に日付と内容を書く、という形でも同じ条件は満たせます。要は、渡した内容が期限とセットで、あとから見返せる場所に残っているかどうかです。

liftlog Coachでは、日付・種目・セット(重量・回数)・メモで予定をつくり、公開済みの無料の記録アプリ(liftlog)を使っているクライアントの手元に届けます。複数日分をまとめてつくる、前回の予定を複製する、過去の実績から取り込む、といった形で、渡す側の作成の手間を減らしています。クライアントが完了すると、その予定は実績のセッションと自動でリンクします。紙の宿題メモと違うのは、渡した側にも実施の有無が数字として返ってくる点です。渡すところまでは前の段落までの形式でも実現できますが、確認の手間が減るかどうかは、次の節で扱う「確認する」に直接効いてきます。

宿題や課題の配信に近い機能を持つ製品は、公開情報で確認できた範囲でも他に存在します。ここで書いているのは、特定の製品にしかできないという話ではなく、「渡し方の形式によって実施が確認できるかどうかが決まる」という構造の話です。

③ 確認する — 実施と途絶えを、どこで見るか

渡したものが実施されたかどうかを見る方法は、3つに分かれます。本人の自己申告、セッションの場で記録アプリを見せてもらう方法、そして渡した予定と実績が結びついて数字で返ってくる方法です。前の2つは、セッションの日にしか更新されません。次のセッションまで待つあいだに、変化に気づくタイミングを逃します。自己申告は、聞けばすぐに答えが返ってくる手軽さがある一方で、答えの中身が実態とずれることがあります。セッションの場で記録アプリを見せてもらう方法は、実物を確認できる分だけ正確ですが、確認するためにセッションの時間そのものを使うことになります。数字で返ってくる方法だけが、セッションを待たずに、しかも見る側の手間をかけずに確認できます。

数字で確認する場合、目安になるのが消化率です。完了数を配信数で割った値で、実施できているかどうかを体感ではなく数字で見られるようにします。この記事では定義だけを示し、実測の数字はあえて書きません。

継続率や解約率のような指標は、辞めたあとになって初めて動きます。動いた時点では、もう手の打ちようがありません。手を打てる余地があるのは、辞める前の数週間です。だからこそ、結果が出るより前に動く指標が要ります。先に動くサインは3つあります。最終記録日、送った予定の未消化、そして今日以降の予定が0件であることです。3つはそれぞれ別の角度からの兆候です。最終記録日は本人の自主的な行動そのものを映し、送った予定の未消化は渡したものが実際に使われているかを映し、今日以降の予定が0件であることは、次に何かを届ける準備がまだできていない状態を映します。3つのうち1つだけを見ていると見落としが起きます。最終記録日だけを見ていると、記録は続いているのに送った宿題がまったく実施されていないケースを見逃します。予定の未消化だけを見ていると、そもそも次の予定を送れていないケースを見逃します。組み合わせて見て初めて、①記録する・②渡すのどちらで止まっているかまで分かります。liftlog Coachの要対応キューは、「今日以降の予定が1件も無い人」「7日以上記録が途絶えている人」を先に出す条件で組んであります。

ここで言えることには、はっきり限界があります。これで継続率が上がる、解約が減るとは言えません。言えるのは、気づくのが早くなるということだけです。 分母・分子・期間をどう決めるかは継続率の数え方で扱っています。サインとして何を見るか、閾値と見る頻度をどう決めるかは辞める前に事業者側で気づけるサインにまとめています。

3つを、どの道具に置くか

道具は、3つの運用が回ることを確かめてから決めます。判断の軸は2つで足ります。1つ目は、毎回増える欄を誰が入力するかです。トレーナーが書く手間ごと転記し続けるのか、クライアント本人の記録がそのまま入ってくるのかで、続けやすさが変わります。前者は、担当人数が増えるほど転記の時間が積み上がります。後者は、クライアント側に記録を続けてもらう理由が要ります。2つ目は、渡した予定の実施が返ってくるかどうかです。②で見た実施の確認が、道具の側で自動的に返ってくるのか、それとも別途本人に聞いて回る必要があるのかを見ます。

どちらの軸も、いまの運用のどこで詰まっているかを見れば答えが出ます。転記が追いつかなくなっているなら1つ目の軸、渡した宿題の実施を確認する手間が大きくなっているなら2つ目の軸が、先に効いてきます。逆に、3つの運用がすでに詰まっているのに、様式だけを紙から表計算、表計算からアプリへと変えても、詰まっている場所は変わりません。道具を変える前に、どの運用のどこで止まっているかを先に特定しておくと、選び直しの回数を減らせます。

担当が自分ひとりで、書くのも自分だけなら、紙や表計算のままで足りる範囲は広くあります。たとえば、担当しているクライアントが数名で、宿題の欄と実施の記録を毎回のセッションのたびに自分で書き足せているなら、それだけで3つの運用は成立しています。乗り換えを急ぐ必要はありません。3つの運用のどこかで詰まってから、道具を見直しても遅くはありません。3つの運用は、全部を同じ道具でそろえる必要もありません。記録は紙のままで、渡す部分だけを日付の付いた形に変える、という組み合わせも成立します。大事なのは道具をそろえることではなく、①〜③のつながりが途切れないことです。

紙や表計算のまま整える列の設計は表計算のまま整える列の設計、比べる軸6つと国内サービスの横並びは顧客管理アプリの選び方にまとめています。liftlog Coachを試す場合の導入手順と、クライアントに送る案内文の例はliftlog Coachの始め方にまとめました。契約書や個人情報の扱いといった実務は、この記事の範囲を超えるので、必要に応じて専門家に確認してください。

この運用が、売上のどこに効くか

売上は、担当している人数だけで決まるわけではありません。1人あたりの月の売上に、続いた期間をかけた分だけ、売上の総量が変わります。新規を増やすのと、いまの担当が長く続くのとは、この掛け算のどちらの側を伸ばすかという違いです。ここまで書いてきた記録する・渡す・確認するの3つが効くのは、後者、つまり続く期間のほうです。新規の獲得には、体験セッションの実施や問い合わせへの対応など、そのつど時間と費用がかかります。一方、いま担当している人が数ヶ月長く続くことは、追加の獲得コストをかけずに同じ売上を積み上げることを意味します。間の運用が整っていて、途絶えのサインに早く気づける状態であれば、この「続く期間」を伸ばす側に手を打てます。

売上を単価・人数・継続期間の3つに分けて、そのどれを動かすかを選ぶ計算はパーソナルジムの経営で扱っています。新規1人にかけている費用・時間と、既存が延びた分を突き合わせる計算は新規と継続、どちらに時間を使うかにまとめています。ここでは、間の運用が売上のどちら側に効くかという構造だけを示しました。

この記事の冒頭で分けた「予約・決済の管理」と「セッションの間の運用」のうち、売上の総量に効くのは一方だけではなく、両方の掛け算です。この記事がここまで扱ってきたのは、そのうち「続いた期間」を支える側の運用にあたります。

何から始めるか

道具を替える前に、できることが3つあります。どれも道具を新しく用意する必要はなく、いまの記録・連絡手段のまま、今日から試せます。

  1. 記録に「次回までの宿題」欄を1つ作る― 渡した内容が、書いて終わりにならないようにする

  2. 渡し方を1つに決める― 口頭をやめて、手元に残る形にする

  3. 週に1回、まとめて確認する日を決める― セッションの日を待たずに、途絶えに気づけるようにする

3つのうちどれか1つだけでも、今日から始めれば、次のセッションでどこが変わったかがすぐに分かります。全部を一度に変えようとすると、続かなくなった原因も分かりにくくなります。1〜2週間試して、どこで止まるかを見てから道具を決めても遅くありません。

まとめ

  • 顧客管理は「予約・決済の管理」と「セッションの間の運用」に分かれます。個人で活動しているなら後者が本題です
  • セッションの間の運用は、記録する・渡す・確認するの3つに分解でき、3つは循環して1つの運用になります
  • 記録は、次に渡すものを決めるためにあります。5区分のうち増えていくのは実施記録と次回までの宿題の2つです
  • 渡すものは3要素(やること・期限・達成の判定)で決まり、渡し方の形式によって実施を確認できるかどうかが変わります
  • 確認の形は3つ。先に動くサインを見ないと、気づくのが間に合いません
  • 道具は最後に決めます。判断軸は「毎回増える欄を誰が入力するか」「渡した予定の実施が返ってくるか」の2つです
  • 間の運用が効くのは、担当人数ではなく、1人が続いた期間のほうです

まずは、記録に「次回までの宿題」欄を1つ作るところから試してみてください。