ワンハンドローイングは、ベンチに片膝と片手をつき、上体をほぼ水平に保ったまま、もう片方の手でダンベルを体側へ引く種目です。アプリや器具の呼び名では「ダンベルロウ」とも表記します。片側だけ支えがあるぶん上体を支える仕事の一部が器具へ移りますが、消えるわけではなく、残りの仕事は前後に耐える方向からねじれに耐える方向へ入れ替わります。この記事では、やり方、効く筋肉、可動域についての通説の検証、重量の目安、レネゲードロウとの関係まで順に整理します。

主に効く部位
背中広背筋・僧帽筋中部/下部・菱形筋ほか
器具
ダンベルフラットベンチがあると水平を作りやすい
難易度
初級〜中級上体を水平に保てることが前提
重量の目安(1RM)
42kg男性の平均・片手1個あたり・自己申告データ(推定)

ワンハンドローイングで効く筋肉と、体を支えている仕事

動員される筋は、協働筋として僧帽筋中部・下部、菱形筋、広背筋、大円筋、三角筋後部、棘下筋、小円筋、上腕筋、腕橈骨筋、大胸筋胸肋部が、安定筋として支持する側の上腕三頭筋、腹斜筋、大腰筋、腰方形筋、腸肋筋が挙げられます。広背筋は大円筋・大胸筋とともに上腕を内転・内旋させ、大円筋とともに上腕の伸展にも働きます。僧帽筋中部は肩甲骨を内転させ、下部は下制と上方回旋の補助をします。

呼び方の整理|ワンハンドロー・ダンベルロウ・ダンベルローイング

同じ動作でも呼び方がいくつかあるので、先に位置づけを整理します。

片手か両手か・支えがあるかで整理する背中のロウ種目
片手(ワンハンド)両手(ツーハンド)
支えあり(ベンチ・胸当てなど)ワンハンドローイング(本記事=ダンベルロウ)チェストサポートロー
支えなし(立位)立位の片手ロー(ケーブルなど)ベントオーバーロー/ペンドレイロー

分類は上体の支え方にもとづく整理であり、優劣を示すものではない

「ワンハンドローイング」「ダンベルロウ」「ダンベルローイング」はいずれも、ベンチに片膝と片手をついて行うこの種目を指します。公開データの集計項目としても、ワンハンドロー専用の項目は無く、ダンベルロウ(Dumbbell Row)という1つの項目に統合されています。この記事の重量の目安も、その項目の数字です。

腰の仕事は減るのではなく、向きが入れ替わる

「ベンチに手をつくと腰への負担が少ない」という説明をよく見かけます。動員される筋の分類を並べると、この説明が半分だけ正しいことが分かります。

安定筋(体を支える側)の入れ替わり
種目安定筋(支える側)
バーベル・ベントオーバーロー(両手・支えなし)脊柱起立筋・ハムストリングス・大臀筋・大腿四頭筋
ワンハンドローイング(片手・ベンチ支持)支持する側の上腕三頭筋・腹斜筋・大腰筋・腰方形筋・腸肋筋

動員される筋の分類にもとづく整理。前者は前後に折れないよう支える系統、後者はねじれと側屈に耐える系統

支える仕事は消えるのではなく、前後に耐える仕事からねじれに耐える仕事へ入れ替わる構造です。これを裏付ける計測もあります。健常男性7名を対象に、インバーテッドロー・立位ベントオーバーロー・立位片手ケーブルローの3種を比べた研究では、片手ケーブルローは腰部脊柱起立筋の活動が立位ベントオーバーローより低く(17.3/14.7%MVC 対 42.5/43.3%MVC)、L4/L5にかかる圧縮力も低くなりました(2457N 対 3576N)。一方で内腹斜筋(20.8%MVC)・外腹斜筋(9.3%MVC)の活動はこの片手ローで最も高く、体幹のねじれ角は生の値では小さいものの、最大可動域に対する比では67.7%に達し、インバーテッドロー(19.3%)やベントオーバーロー(25.2%)を上回りました。著者は、この種目が体幹のねじりに抵抗する能力に挑む種目だと結論づけています。

この片手ケーブルローは立位・ケーブル・支持なしの種目で、ベンチに片膝と片手をつくワンハンドローイングとは別種目です。ただし「支える仕事が腹斜筋・腰方形筋側へ移る」という向きは、先に挙げた安定筋の分類とも一致します。

ワンハンドローイングのやり方

  1. ベンチの側面に、支持する側の膝と手を置く― 片膝と片手をベンチに乗せ、体の片側だけ支えを作ります

  2. 反対側の足を斜め後ろに置いて床を踏む― この足が上体を安定させるもう一つの支点になります

  3. 上体が床とほぼ水平になる位置を作る― 支持する膝と手を前後させて、水平に近い角度を調整します

  4. 床のダンベルを握り、肩が下に引かれる位置から始める― ここが1回の開始位置です。毎回同じ位置から引きます

  5. 肘を体側に沿わせて引く― ダンベルが肋骨に触れるか、上腕が水平を少し越えるところまで引きます

  6. 腕が伸びて肩が下に引かれるところまで戻す。片側を終えたら反対側へ― 途中で止めず、開始位置まで戻し切ってから次の回に入ります

上体を水平にする調整

支持する膝と手を前後させることで、上体の水平を調整できます。上体をより低く構えれば、重いダンベルでも床に接地させやすくなります。逆に上体が起きてくると、引く距離も肩の使い方も変わってくるので、角度が保てなくなった時点が実質的なセットの終わりと考えられます。

「可動域が長い」はどこまで言えるか

「ワンハンドローイングは可動域が長いから効く」という説明も見かけますが、これを支持する測定は確認できませんでした。訓練経験のある男性16名がプローンバーベルロウを10RMで行い、フル可動域・上半分・下半分の3条件(緊張時間は2秒で統一)を比べた研究では、広背筋の平均筋興奮はむしろ上半分の可動域で高く、著者は可動域を調整した効果は全体としては限定的だと結論づけています。この研究の対象はプローンバーベルロウであり、ワンハンドローイングの可動域を測ったものではありません。ここから言えるのは、可動域の長さを唯一の売りにする根拠は無いということと、可動域を毎回同じ範囲で再現するほうが記録として使えるということまでです。

体をひねって振り上げない

肩甲骨は動いてよい一方で、体幹をひねって重量を放り上げるのは別の動きです。見た目には小さいねじれでも、先の研究では最大可動域に対する比で67.7%に達していました。「効いている感覚」を体をひねって作らないことが、この種目のフォームの核になります。

レネゲードロウ|ロウとプランクを同時に行う形

プランクの姿勢でダンベルを2個握り、片方ずつ引く形がレネゲードロウです。足は腰幅に置き、不安定なら広げます。体幹と臀部を締めて一直線を保ち、体を回さずに片側へ重心を移してから引きます。

ワンハンドローイング vs レネゲードロウ
ワンハンドローイングレネゲードロウ
上体を支えるものベンチ(片膝と片手)自分の体幹(プランク)
ねじれへの抵抗支持側の腹斜筋・腰方形筋が担う体幹全体で回転に抵抗し続ける
扱える重量通常のロウの重さで扱える通常のロウより軽くなる
必要な器具ベンチ+ダンベル1個ずつ床のスペース+ダンベル2個
制限要因ロウ側の引く力プランク側の保持力

優劣ではなく条件の違いとしての比較

レネゲードロウで重量を決めているのは、ロウを何kgで引けるかではなく、プランクの姿勢が崩れずに保てるかです。ダンベルが床に叩きつけられるなら重すぎ、途中までしか引けなくなるのは重量かプランクのどちらかが破綻している合図です。公開データでの平均は男性24kg・女性14kg(片手1個あたりの1RM)ですが、有効記録は1,755件で、ワンハンドローイングの252,685件に比べて桁が2つ小さく、幅として見る程度に留めておくのが安全です。この種目を直接測った査読つきの筋電図研究は確認できませんでした

レネゲードロウの回数は、プランクを保てる時間の上に乗っています。プランクそのものが何を測っているかは、そちらの記事にまとめています。

よくある詰まりどころ

引くたびに骨盤と肩が回る

支える面が狭くなるほど回転しやすくなります。足を広げるか、重量を落として支点を安定させてください。

腕が先に曲がる

肘を先に曲げると、背中が引く前に腕で引き切ってしまいます。上腕を先に後ろへ送る順番を作ると、引く主体が背中側に移ります。

支持側の肩や手首が先に限界になる

支える側が先に疲れる場合は、支持位置を前後に調整するか、ベンチの縁の握り方を変えると軽減できます。

左右で回数が揃わない

片側ずつ行う種目なので差がそのまま出ます。少ない側に回数を合わせて運用し、記録の残し方は後述します。

平均重量と重量設定の目安

公開データでの集計項目はダンベルロウ(Dumbbell Row)です。母数は927,185件の投稿のうち、有効記録は252,685件(男性209,928件・女性42,757件/2017年3月19日〜2026年3月5日)です。

ワンハンドローイング(ダンベルロウ)平均重量の目安(kg・片手1個あたりの1RM
レベル男性女性
初心者179
初級者2714
中級者4222
上級者5930
エリート7840

出典: Dumbbell Row Standards (kg)Strength Level2026-08-11 確認)

海外ユーザーの自己申告データにもとづく1RM(1回だけ挙げられる重量)の推定値です。数値は片手のダンベル1個あたりで、通常2kgのバー重量を含みます。集計は927,185件の投稿から絞り込まれた有効記録252,685件(男性209,928件・女性42,757件/2017年3月19日〜2026年3月5日)。ページに片手か両手かの説明は無く、日本の平均を示すものでもありません

レベルの区切りは投稿記録の中での順位で、初心者は下位5%より強い水準、初級者は20%、中級者は50%、上級者は80%、エリートは95%より強い水準を指します。

体重別の目安(1RM・kg)は次のとおりです。

レベル男性 60kg男性 70kg男性 80kg女性 50kg女性 55kg女性 60kg
初心者12kg16kg19kg8kg8kg9kg
初級者21kg25kg30kg12kg13kg14kg
中級者32kg38kg43kg19kg20kg21kg
上級者46kg53kg59kg27kg28kg29kg

数字を自分のセットに翻訳する

表の数字は1RMです。Epley式・Brzycki式はどちらも10回のときに一致し、1RM=重量×4/3になるため、10回できる重量は1RMの75%前後になります。男性平均の42kgなら10回で31kg前後、女性平均の22kgなら16〜17kgという計算です。投稿されたセット構成を見ても、男女とも3セット×10回が最多(男性19%・女性22%)でした。

1RM計算機(%1RM換算表つき)重量と回数から1RMを推定できます。逆に1RMから回数ごとの重量も引けるので、表の数字を自分のセットに翻訳できます(登録不要)

回数別の重量を一覧で見たい場合は1RM換算表にまとめています。

他の種目の数字と比べられるか

同じダンベルでも、胸を台に預けて支えるチェストサポートローは平均35kg(男性・片手1個あたり)で、ワンハンドローイングの42kgより約2割低くなっています。有効記録は23,039件で、支え方が変わるだけで公開データの数字自体が動くことが分かります。

左右差をどう記録に残すか

片側ずつ数えられるのがこの種目の特徴です。左右の差はそのまま数字に出ますが、左右差の是正効果や怪我予防を示す一次情報は確認できませんでした。観察できる、というところまでにとどめてください。記録項目の決め方は筋トレ記録のつけ方に、推移の見方は筋トレの成果を見える化する方法にまとめています。

背中種目マップの中でどこに置くか

背中の種目は「引く方向」と「上体を何が支えるか」の2軸で並べられます。シーテッドローのやり方にまとめたこのマップでは、ワンハンドローイングは水平に引く種目の中で、上体を自分で支えるベントオーバーローペンドレイローに近い位置にありながら、片側だけベンチの支えがある中間の枠として扱われています。

この記事ではもう一つ、「左右対称に引くか、片側ずつ引くか」という軸を提案します。この軸で並べると、両手で対称に引くベントオーバーローやペンドレイロー、片側だけ支えのあるワンハンドローイング、体幹全体で支えるレネゲードロウが一列に並びます。片側ずつ引くほど、支える仕事にねじれへの抵抗が加わっていく並びです。

  1. まず水平に引く種目と垂直に引く種目を1本ずつ置く背中のメニューの土台はここから決まります

  2. 片側ずつ引く種目を足すのは、背中の記録が伸びているときワンハンドローイングを追加すると、支える仕事の内訳が変わります

  3. レネゲードロウは体幹の日か、自宅でトレーニングする日に制限要因がロウではなくプランクになるため、扱いが変わります

まとめ

  • ワンハンドローイングは、ベンチに片膝と片手をつき、上体をほぼ水平に保って片手でダンベルを引く種目
  • ベンチに手をつくと支える仕事が消えるのではなく、前後に耐える仕事からねじれに耐える仕事へ入れ替わる
  • 「可動域が長いから効く」を支持する測定は確認できなかった
  • 平均は男性42kg・女性22kg。片手のダンベル1個あたりの1RMで、10回できる重量はその75%前後
  • 支え方が変われば数字も変わる。チェストサポートローは同じダンベルで約2割低い
  • 左右差は観察できるが、是正効果や怪我予防を示す一次情報は確認できなかった