種目の順番を変えても、筋肥大の差はほとんど出ません。11研究をまとめたメタ解析では、多関節種目を先にした場合と単関節種目を先にした場合で、筋肥大の効果量に差が見られませんでした(0.03、p = 0.862)。一方で筋力は、先にやった種目のほうが伸びます。順番は効果を最大化する掟ではなく、限られた1回のワークアウトで、どの種目に一番いい状態を渡すかという配分の話です。ここでは、基本の並べ方、伸ばしたい種目を先頭に置く例外、部位別の具体例を順に整理します。
順番で変わるのは筋力、変わらないのは筋肥大
種目の順番についていちばんまとまったデータは、2021年のメタ解析です。Nunesら(2021)は質の良い11研究をまとめ、多関節種目を単関節種目より先に行った場合と、その逆で行った場合を比較しました。多関節種目を先に行うと、その多関節種目の筋力の効果量は0.32(p = 0.034)。単関節種目を先に行うと、その単関節種目の筋力の効果量は−0.58(p = 0.032)。どちらの順序でも、先に行った種目のほうが筋力の伸びが大きいという向きで有意でした。一方、筋肥大の効果量は0.03(p = 0.862)で、順番による差はほとんど見られませんでした。
2026年に出たACSM(米国スポーツ医学会)のポジションスタンドも同じ向きです。137のシステマティックレビュー・3万人超のデータを統合したこの資料は、随意筋力について「重い負荷(1RMの80%以上)を、可動域いっぱいに、2〜3セット、トレーニングセッションの序盤に、週2回以上行うことで高まった」としています。2009年版の推奨を更新した最新の総括でも、「セッションの序盤」という位置づけは変わっていません。
ここから言えるのは、種目の順番はトレーニングの総量を増やす技ではなく、限られた「先頭」という枠を、どの種目に渡すかという配分の問題だということです。
なぜ先頭の種目が強くなるのか
先頭が有利になる理由は、後ろに回した種目の挙上回数が落ちるからです。Simãoら(2005)は、週トレーニング経験6か月以上の18名を対象に、上半身5種目の順序を入れ替えたクロスオーバー試験を行いました。結果は、「大きい筋群の種目も小さい筋群の種目も、シーケンスの最後に置くと3セットの挙上回数が有意に少なくなった」というものです。特に3セット目で差が目立ちました。同じ研究グループによる2012年のレビューも、「総回数、つまり総量は、関与する筋量の大小にかかわらず、セッションの序盤に置いた種目のほうが多くなる」とまとめています。つまり「先頭が有利」というより「後ろは回数が落ちる」というほうが正確です。同じ種目でも、置く位置によって挙げられる量が変わります。
筋肥大が変わらないのは、週の総量が変わらないからです
筋肥大の効果量に差が出なかった理由は単純です。種目の順番を入れ替えても、1週間の総セット数という筋肥大の主な入力は変わらないからです。総量の数え方は総負荷量の計算方法にまとめています。実際、ACSMの2026年版ポジションスタンドも、筋肥大については「より高い総量(週10セット以上)とエキセントリック局面の過負荷によって高まった」としており、種目の順番そのものを筋肥大の要因には挙げていません。
基本の並べ方は「多関節 → 単関節」
種目の順番に迷ったときのデフォルトは、多関節種目を先に、単関節種目を後にする並べ方です。ACSM(2009年版)のポジションスタンドは「強度を保つように種目を並べる(大きい筋群を小さい筋群より先に、多関節種目を単関節種目より先に、強度の高い種目を低い種目より先に)」ことを推奨しています。厚生労働省のe-ヘルスネットも、運動プログラムの全面性の原則として「全身の筋をバランスよく鍛えること、大筋群を優先して実施すること」を挙げています。
具体的には、スクワットのあとにレッグエクステンション、ベンチプレスのあとにケーブルクロスオーバー、ラットプルダウンのあとにアームカール、という並びです。多関節種目を先に置いておけば、後半で疲れてきても単関節種目のフォームが崩れにくくなります。
「大きい筋肉から」は目的ではなく、強度を保つための手段です
この並べ方でよく見落とされるのが、ACSM(2009年版)の原文が挙げている目的です。原文は "to optimize the preservation of exercise intensity"、つまり強度を落とさずに保つための並べ方だと書いています。効果そのものを最大化する原則ではなく、扱う重量や挙上回数を落とさないための手段だという位置づけです。
さらに2026年版のACSMは、「種目の複雑さ」や「器具の種類」がトレーニング結果に一貫した影響を与えなかったと報告しています。多関節→単関節という並べ方は、間違ってはいないものの、絶対に守るべき掟というより、扱いやすいデフォルトという温度で見るのが実態に近いということです。「フリーウェイトを先に、マシンを後に」という主張も見かけますが、この記述に照らすと、一貫した差が確認されているとまでは言えません。
例外則:伸ばしたい種目を先頭に置く
多関節→単関節という並べ方には、優先すべき例外があります。Simãoら(2012)のレビューは「種目はプログラムのトレーニング目標が決める重要度の優先順位に基づいて並べるべきであり、その種目が比較的大きい筋群を使うか小さい筋群を使うかは問わない」と述べています。
これはNunesら(2021)の数字とも一致します。単関節種目を先に行うと、その種目の筋力の効果量が−0.58(p = 0.032)と有意に伸びるという結果は、「大きい筋肉から」という原則より「伸ばしたい種目を先に」という優先度のほうが効くことを裏づけています。
判断のルールは1行にまとめられます。先頭の枠は、今いちばん伸ばしたい種目に渡し、残りを多関節→単関節で埋める、という順序です。
例:サイドレイズを伸ばしたい日は、ショルダープレスより先に置く
肩の日を例にすると分かりやすくなります。原則どおりならショルダープレス(多関節)が先で、サイドレイズ(単関節)が後です。ただし、サイドレイズの重量を伸ばしたいなら、サイドレイズを先に置いてかまいません。代わりに、その日のショルダープレスの重量は少し落ちることを受け入れます。どちらも同時に一番良い状態では扱えないので、これはトレードオフです。
事前疲労法(プレエグゾースト)は「総量を減らす」手として見る
単関節種目を先に行う極端な形が、事前疲労法(プレエグゾースト)です。Trindadeら(2019)は、トレーニング未経験の成人男性31名を対象に、通常の順序(レッグプレス3セット)と事前疲労(レッグエクステンション1セットを追い込んでからレッグプレス3セット)を9週間比較しました。総量は通常の順序のほうが有意に多く、6週目以降で39.41〜50.37%高くなっています。それでも筋力の伸びはレッグプレスが16±8%(事前疲労)対15±9%(通常)、レッグエクステンションが17±11%対11±4%とほぼ並び、大腿四頭筋の厚みはどちらの群も増加しました。
つまり事前疲労法は、通常のトレーニングと比べて総量を減らしながら、筋力と筋肥大の結果を維持できるという結果です。ただし著者らは、体脂肪を減らすことが目的なら通常のトレーニングのほうがよい可能性があるとも述べています。
例外を使うのは、1回のワークアウトで1種目まで
先頭の枠は1つしかありません。全部の種目を優先扱いにはできないので、例外を使うのは1回のワークアウトにつき1種目までにしてください。優先を分散させると、多関節→単関節という原則側の利点(強度の保存)も一緒に失われます。
部位別の並べ方の例
胸
| 位置 | 種目の例 | そこに置く理由 |
|---|---|---|
| 1 | ベンチプレス | 多関節・もっとも重い重量を扱える |
| 2 | インクラインダンベルプレス | 多関節・角度を変えて上部にも刺激を入れる |
| 3 | ケーブルクロスオーバー | 単関節・仕上げにストレッチのかかった収縮を加える |
※ 医学的な処方ではありません。回数や重量は入れていません(人により適正が違うため)
胸の種目をどう選ぶかはダンベルプレスとベンチプレスの違い|重量差と胸種目の使い分けにまとめています。この記事は、選んだあとにどこへ置くかのほうを扱います。
背中
| 位置 | 種目の例 | そこに置く理由 |
|---|---|---|
| 1 | 懸垂 / ラットプルダウン | 多関節・垂直に引く動き |
| 2 | シーテッドロー / ワンハンドロー | 多関節・水平に引く動き |
| 3 | シュラッグ / リアレイズ | 単関節・仕上げ |
※ 医学的な処方ではありません。回数や重量は入れていません(人により適正が違うため)
水平に引く種目の選び方はシーテッドローのやり方|効く部位と背中種目の使い分けマップで扱っています。
肩
| 位置 | 種目の例 | そこに置く理由 |
|---|---|---|
| 1 | ショルダープレス | 多関節・肩全体を動かす |
| 2 | サイドレイズ | 単関節・側部を狙う |
| 3 | フェイスプル / リアレイズ | 単関節・後部の仕上げ |
※ 医学的な処方ではありません。回数や重量は入れていません(人により適正が違うため)
肩の後部を伸ばしたい日は、フェイスプルを先頭に置いてもかまいません。判断のルールは前の章で書いたものと同じです。フェイスプルのやり方|ケーブルの高さと重量の決め方に、やり方と重量の目安をまとめています。
腕
| 位置 | 種目の例 | そこに置く理由 |
|---|---|---|
| 1 | ディップス / ナローベンチプレス | 多関節 |
| 2 | プレスダウン / カール | 単関節 |
※ 医学的な処方ではありません。回数や重量は入れていません(人により適正が違うため)
腕は単関節種目が中心なので、多関節→単関節という原則が効く幅がもともと狭い部位です。言い換えると、前の章の優先の原則で決めやすい部位でもあります。インクラインダンベルカールのやり方|角度と重量の目安に、角度による効き方の違いをまとめています。
脚・尻
| 位置 | 種目の例 | そこに置く理由 |
|---|---|---|
| 1 | スクワット系 | 多関節・もっとも重い重量を扱える |
| 2 | レッグプレス / ハックスクワット | 多関節・支えがあり追い込みやすい |
| 3 | レッグエクステンション / レッグカール | 単関節・仕上げ |
※ 医学的な処方ではありません。回数や重量は入れていません(人により適正が違うため)
スクワットの代わりに置く多関節種目はハックスクワットのやり方|スクワットとの違いと足の位置で比べています。
腹筋・体幹を最後に回すべきか
「腹筋・背筋は最後」という定番の主張がありますが、種目順として体幹を先に置いた場合と後に置いた場合を直接比較した研究は、今回の調査では見つかりませんでした。ここは断定せず、そう書いておきます。
体幹が疲れると、スクワットやローイングのような姿勢を支える種目でフォームが保ちにくくなる、という実務上の理由は挙げられます。ただしこれは研究の裏づけがある主張ではありません。プランクのような等尺性の種目を含め、体幹の種目をどこに置くかは、この実務上の理由から判断してください。
1回で複数の部位を回す日は、部位の順番も決める
全身法のように、1回のセッションに複数の部位が入る日は、部位そのものの順番も決める必要があります。ルールはこれまでと同じで、その日いちばん伸ばしたい部位を先に置きます。加えて、後ろに置く種目が前の種目の疲労に依存しないよう組み合わせを選んでください。たとえば、脚を追い込んだ直後に体幹の支持が必要な種目を置くと、後ろの種目の質が落ちます。
なお、週のどこにどの部位を置くかは、部位の順番とは別の、分割法の組み方の話です。本記事では1回のセッション内の並べ方だけを扱います。
有酸素運動との前後関係も、順番の一種としてよく聞かれます。2026年のFrontiersのレビューは「有酸素持久力、骨格筋肥大、最大筋力の向上は、ヒトを対象とした試験の多くで並行トレーニングの順序と無関係だった」としています。爆発的なパワーを狙う場合は筋トレを先にするほうが有利で、有酸素を先にする場合は、分子レベルの干渉を避けるために3時間以上あけることを勧めています。
順番を決めたあと、効いているかを記録で判定する
順番を決めたら、あとは記録で確認します。見る場所は2つだけです。先頭に置いた種目の重量・回数が伸びているか。そして、後ろに回した種目の回数が落ちすぎていないか、です。
「順番を変えたら伸びた」と言えるようになるまでには数週間かかります。ほかの変数と同時に動かすと、何が効いたのか分からなくなるので、変えるのは一度に1つだけにしてください。増やし方の全体像は漸進性過負荷のやり方|重量・回数・セットの増やし方にまとめています。
後ろに置いた種目の回数が落ちる度合いは、セット間のインターバルの取り方でも変わります。インターバルの長さそのものは本記事では扱わないので、筋トレのインターバルは何分?目的別の目安と計り方を参照してください。
順番を変えても伸びが止まったままの場合は、原因が順番以外にある可能性があります。筋トレの重量が伸びない原因と対策|4つの層で絞り込むで切り分けてください。
決めた順番どおりに進められない日もあります。狙っていたラックやマシンが埋まっている、思ったより重量が上がらない、といったケースです。そんなときは、順番を崩すかどうかをその場で決める必要があります。
LiftLogでこうやる(ワークアウト中のAI相談)
記録中に「重すぎる」と伝えるだけで変更案がカードで返り、1タップで進行中のメニューに反映できます。
記録中に「重すぎる」「種目を変えたい」と伝えると、変更案がカードで返り、1タップで進行中のメニューに反映できます。順番を崩す判断をその場でしても、崩した記録はそのまま残るので、次に同じ状況になったときの判断材料になります。

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まとめ
- 順番で変わるのは筋力。筋肥大の効果量はほとんど差が出ない(Nunesら2021: 0.03、p = 0.862)
- 基本は多関節→単関節。ただしACSM(2009年版)の原文は「強度の保存」を目的に挙げており、効果そのものを最大化する原則ではない
- 伸ばしたい種目があるなら、それを先頭に置く。例外を使うのは1回のワークアウトで1種目まで
- 部位別の並べ方は一例。位置と理由を参考に、自分の種目に当てはめる
- 判定は記録で。先頭に置いた種目の伸びと、後ろの種目の回数落ちの2つを見る
まずは次のワークアウトで、いちばん伸ばしたい種目を先頭に動かしてみてください。変えるのはその1つだけで十分です。



