1種目あたり何回やるかは目的で決まります。ACSMのポジションスタンドが挙げている回数レンジは、未経験の段階で8〜12RM、経験が進むほど1〜12RMの中で6〜12RMを重視、と幅があります。一方でセット数について書かれているのは「複数セットのプログラムが筋肥大に推奨される」というところまでで、「3セット」という具体的な数字はどこにも出てきません。数字が結果を左右してくるのは、1回のセット数よりも、部位ごとに週で何セット積めたかのほうです。3セットの種目を週3回行えば、その部位は週9セット。この単位に組み替えると、増やすべきかどうかを判断できるようになります。
「何セット何回」は2つの質問に分かれる
「筋トレは何セット何回」という問いには、実は2つの質問が混ざっています。1つは「1回のトレーニングで、1種目に何セット・何回やるか」という設計の話。もう1つは「それを続けた結果、伸びにつながるかどうか」という効果の話です。前者は目的によって決まりますが、後者を左右するのは1回のセット数ではなく、部位ごとの週の合計です。この記事では2つを分けたうえで、後者の数え方までを順に見ていきます。
回数レンジは目的で決まる
筋力・筋肥大・筋持久力のどれを目的にするかで、1セットあたりの回数レンジは変わります。ACSMのポジションスタンド(2009)が挙げている範囲は次のとおりです。
| 目的 | 推奨される回数レンジ | 原文での位置づけ |
|---|---|---|
| 筋力(未経験者) | 8〜12RM | 未経験の段階で推奨される回数範囲 |
| 筋力(中級〜上級者) | 1〜12RMを周期的に(重点は6〜12RM) | 経験が進むほど高重量側の比重を増やす |
| 筋持久力 | 40〜60%1RMで15回超 | 軽負荷・高回数側の目的 |
※ 出典: ACSM Position Stand, MSSE 41(3):687-708, 2009。処方ではなく、原文が挙げている回数レンジの整理
筋肥大についてこの声明が書いているのは、「高いボリューム・複数セットのプログラムが、筋肥大を最大化するために推奨される」(原文: "Higher volume, multiple-set programs are recommended for maximizing hypertrophy.")というところまでです。回数レンジのように具体的な数値では書かれていません。
「3セット」という数字に公的な出典はない
「10回3セット」のように、セット数と回数がセットで語られることがよくあります。しかしACSMの声明を確認するかぎり、筋肥大についての推奨がセット数の具体的な数字にまで踏み込んでいる箇所は見当たりません。書かれているのは「複数セットのプログラム」という言葉までです。同じ声明には、パワーを目的にした軽負荷・高速動作についての記述もありますが、それは筋肥大の推奨とは別の文脈です。回数レンジは目的で決まっても、セット数の具体的な数字は、この声明からは出てきません。セット数を左右しているのは、次に見る「週あたりの合計」のほうです。
1種目のセット数を増やすと、何が変わったのか
1セット・3セット・5セットを8週間比べた試験
1種目あたりのセット数を実際に振って比べた試験があります。Schoenfeldらが2019年に発表した研究は、トレーニング経験のある男性34名を、1種目につき1セット(低ボリューム群・11名)・3セット(中ボリューム群・12名)・5セット(高ボリューム群・11名)のいずれかに無作為に割り付け、週3回・8週間トレーニングさせました。回数はいずれも8〜12回を限界近くまで行う設定です。1回のセッションに何セット乗せられるかは、セット間のインターバルの取り方によっても変わります。
結果は、筋力と持久力についてはすべての群で試験前後の有意な向上が見られたものの、群間の有意差はありませんでした。一方、筋肥大については、肘屈曲筋・大腿部中央・大腿部外側で高ボリューム群が有意に上回りました。著者らは「筋肥大は用量反応関係に従い、トレーニングボリュームが高いほど、より大きな効果が得られる」(原文: "muscle hypertrophy follows a dose-response relationship, with increasingly greater gains achieved with higher training volumes.")と結論しています。
この設計を「週あたり」に直すと
この試験の設計をよく見ると、興味深い点があります。全身のトレーニングに含まれていたのは、フラットベンチプレス・バーベルミリタリープレス・ワイドグリップラットプルダウン・シーテッドケーブルロウ・バーベルバックスクワット・マシンレッグプレス・片脚マシンレッグエクステンションの7種目でした。肘屈曲筋(上腕二頭筋)を直接鍛える種目は含まれておらず、引く種目2つ(ラットプルダウン・シーテッドロー)による間接的な刺激だけです。一方、測定された大腿部(大腿中央・大腿外側)は、スクワット・レッグプレス・レッグエクステンションの3種目で鍛えられています。
つまり同じ「1セット」でも、その部位を鍛えている種目の数だけ、週の合計は変わります。
| グループ | 1種目・1回あたりのセット数 | 肘屈曲筋(引く種目2つ×週3回) | 大腿部(スクワット系3種目×週3回) |
|---|---|---|---|
| 低ボリューム | 1セット | 1×2×3=週6セット | 1×3×3=週9セット |
| 中ボリューム | 3セット | 3×2×3=週18セット | 3×3×3=週27セット |
| 高ボリューム | 5セット | 5×2×3=週30セット | 5×3×3=週45セット |
※ Schoenfeldら(2019)の設計(1/3/5セット×週3回×8週)をもとにした算数で、論文の結果ではありません。この試験で肘屈曲筋を刺激していたのは引く種目2つ、大腿部を刺激していたのはスクワット系3種目で、直接的な肘屈曲筋の種目は含まれていません(いずれも間接的な刺激)
「1種目何セット」という問いへの答えは、こうして週あたりに翻訳して初めて、次に見る別の研究の目安と突き合わせられるようになります。
部位あたり週に何セット置くか
目安として報告されている範囲
Baz-Valleらが2022年に発表したシステマティックレビューは、週あたりのセット数を低ボリューム(週12セット未満)・中ボリューム(週12〜20セット)・高ボリューム(週20セット超)の3群に分けて比較し、「週12〜20セットという範囲が、若く経験のあるトレーニーの筋肥大にとって最適な標準的推奨になりうる」(原文: "a range of 12-20 weekly sets per muscle group may be an optimum standard recommendation for increasing muscle hypertrophy in young, trained men.")と結論しています。
ただし部位ごとの差は一様ではありません。中ボリュームと高ボリュームを比べたとき、有意差が出たのは上腕三頭筋だけでした(p = 0.01)。大腿四頭筋(p = 0.19)、上腕二頭筋(p = 0.59)には差がありませんでした。
この数字の限界
著者自身が、この結論に4つの限界を挙げています。
- 対象にした研究の数が少ない
- 中ボリュームと高ボリュームの境界が、研究間で標準化されていない
- 大腿四頭筋の測定部位が研究間で揃っていない
- 摂取カロリーとサプリメントの摂取状況が、大半の研究で報告されていない
そして対象は「young, trained men(若く、トレーニング経験のある男性)」に限られています。週12〜20セットという数字は、この前提の上に成り立つ目安です。
部位ごとに細かく分けた表を作らない理由
「胸は週10〜16セット、背中は12〜20セット、腕は6〜12セット」といった部位別の表を載せている記事を見かけますが、たどれる出典を確認できませんでした。Baz-Valle 2022も部位別の推奨値そのものは出しておらず、部位による差として報告されているのは、中ボリュームと高ボリュームのあいだで上腕三頭筋だけに有意差が出たという1点だけです。大腿四頭筋と上腕二頭筋には差が出ていません。出典のない部位別表を作ると、この1点の事実と矛盾します。
「ジャンクボリューム」と呼ばれている状態
学術用語ではない
「ジャンクボリューム」という言葉は解説記事やSNSでよく見かけますが、学術的に定義されているわけではありません。PubMedで"junk volume"というフレーズを完全一致で検索すると、該当する論文は0件で、「引用符付きフレーズがフレーズ索引に見当たりません」という趣旨のメッセージが返ります(2026-08-12実施)。フレーズを外した単語単位の検索でヒットする31件も、細胞核内のDNAや食品リサイクルの分野などで、レジスタンストレーニングとは無関係でした。したがって、この記事では「ジャンクボリュームを定義した査読研究は見当たらない」という前提で書きます。
近い現象は「効かなくなる線」ではなく「効きが小さくなる曲線」
「ジャンクボリューム」という言葉が指そうとしている状態に近いものとして、Pellandらが2026年に発表したメタ回帰があります。67研究2058名を対象にした分析で、量が筋肥大・筋力のどちらに対しても「増えるほど伸びる」という向きの事後確率は100%でしたが、両方のモデルで逓減(増分の効きが徐々に小さくなること)が見られ、その逓減は筋力側でより顕著でした。
実際に量を大きく振った試験でも、「ある本数を超えると効かなくなる」という結果は出ていません。Heaselgraveらが2019年に発表した6週間の試験では、経験者49名を上腕二頭筋を対象に週9・18・27セットの3群に分け、筋厚はいずれの群も有意に増加し(低群4.3%・中群9.5%・高群5.4%)、群間の有意差はありませんでした。27セットの群が18セットの群を上回ったわけでもありません。「増やしても意味がなくなる」線があるのではなく、「増分から得られるものが少しずつ小さくなっていく」曲線として読むのが、いまの一次情報に沿った理解です。
セット数を増やす前に確かめておくべきことは漸進性過負荷のやり方にまとめています。
「◯セットを超えるとジャンク」という数字の出どころ
日本語で流通している「1日20セットを超えると」「1回90レップを超えると」といった具体的な境界値については、たどれる一次情報を確認できませんでした。厚生労働省のe-ヘルスネットは「筋トレの時間が長くなりすぎると逆効果となる可能性も示されていますので、健康づくりを目的に行う場合は、やりすぎに注意が必要です」としていますが、ここでも量の基準値は示されていません。
自分の週セット数を数える
何を1セットと数えるか
Baz-Valleらが2021年に発表したシステマティックレビューは、「反復回数が6〜20+の範囲にあり、他の条件を一定に保つなら、限界かその近くまで行ったセットの総数は、トレーニングボリュームを数える方法として妥当」(原文: "the total number of sets to failure, or near to, seems to be an adequate method to quantify training volume when the repetition range lies between 6 and 20+ if all the other variables are kept constant")としています。ウォームアップの軽いセットはこの数には含めません。
補助的に使われる部位をどう数えるか
種目によっては、狙っている筋肉だけでなく、別の筋肉も補助的に働きます。ベンチプレスは胸を直接鍛える種目ですが、上腕三頭筋にとっては補助的な種目です。Pellandらの2026年のメタ回帰は、主要な解析に「fractional」という数え方を採用し、直接的なセット(direct)を1、間接的なセット(indirect)を0.5として数えています。そして「直接的なセットと間接的なセットを区別することは、トレーニングへの適応を予測するうえで欠かせない」(原文: "Distinguishing between direct and indirect sets appears essential for predicting adaptations to a given resistance training protocol")と結論しています。ベンチプレス1セットは、胸には1セット、上腕三頭筋には0.5セットとして積む、という考え方です。
kg(総負荷量)とセット数は別の物差し
週のセット数を数えるのと、総負荷量(重量×回数×セット数)を計算するのは、別の作業です。セット数は「何回積んだか」を数える物差しで、総負荷量は「どれだけの重さを動かしたか」を数える物差しです。同じ週でも、セット数を変えずに重量だけ上げれば総負荷量は増えますし、逆に総負荷量が同じでもセット数の組み方は何通りもあります。
総負荷量計算機種目ごとに重量×回数×セット数を入れると、その日の総負荷量を計算します(登録不要)数えた週セット数がどう推移しているかの読み方は、筋トレの成果を見える化する方法にまとめています。
決めたセット数を、週のどこに置くか
部位あたりの週セット数が決まったら、次はそれを週の何日に配るかです。ここから先は、週に行ける日数で割ると分割数が出るという算数の話で、筋トレ分割法の組み方にまとめています。同じ部位を週に何回置けるかという頻度側の考え方は、筋トレの頻度は週何回で扱っています。決めた総量を毎週置けているかどうかのほうが、何分割にするかより先に効きます。
まとめ
- 1種目あたりの回数レンジは目的で決まる(ACSM 2009)。セット数について公的な推奨は「複数セットのプログラム」までで、具体的な数は書かれていない
- 1種目のセット数を1→3→5と増やした8週間の試験では、筋力・持久力に差はなく、筋肥大は用量反応で伸びた。この設計を週あたりに直すと、対象筋群によって週6〜9/18〜27/30〜45セットに相当する
- 部位あたり週12〜20セットが目安として報告されているが、研究数が少なく、対象は若い経験者に限られる。部位別に細かく分けた表を作れる出典はない
- 「ジャンクボリューム」を定義した査読研究は見当たらない。増やすほど効きが逓減するという曲線としてとらえるのが、いまの一次情報に沿った理解
- 週セット数を数えるときは、限界かその近くまで行ったセットだけを数え、ウォームアップは除く。補助的に使われる部位はfractional方式で0.5として数える方法もある
- 週セット数(何をやったか)と総負荷量(どれだけ動かしたか)は別の物差し



