ヒップリフトは、仰向けから腰を持ち上げる自重の回数種目です。主働筋は大臀筋ですが、股関節を伸ばす仕事はハムストリングスも分担していて、かかとをどこに置くかでこの分担の比率が変わります。この入れ替わりは、実際に筋電図で測定されています。この記事では、効く筋肉の分担、かかとの位置による違い、公開データにもとづく回数と段階の目安、そしてヒップスラストとの違いをまとめます。
- 主に効く部位
- 大臀筋ハムストリングスも動員
- 器具
- 自重マットのみ
- 難易度
- 初級片脚・荷重で強度を上げられる
- 記録の単位
- 回数重量ではなく回数で進める
ヒップリフトで効く筋肉|大臀筋とハムストリングスの分担
大臀筋は、殿部にある3つの筋のうち最も表層にあり最大で、お尻の形の大部分を作っています。主な働きは股関節を伸ばすことと外に回すことで、座った姿勢から立ち上がる・階段を上る・走るといった場面で働きます。支配している神経は下殿神経で、この神経が支配する筋は大臀筋だけです。
裏ももに効いてしまうのは構造上ありうる
ハムストリングス(大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋)は、膝を曲げるだけでなく股関節を伸ばす働きも持っています。脚が自由に動く場面では股関節の伸展と膝の屈曲を、足が床に固定された場面では膝の伸展を担います。つまりヒップリフトで股関節を伸ばす仕事は、大臀筋とハムストリングスが分け合っているということです。ハムストリングスだけを単独で狙う種目との対比は、レッグカールのやり方にまとめています。
「効かない」は測定でも起きている
Borenら(2011)は、健常者26名を対象に18種目の筋電図を比較しました。安定した床面で行う片脚ヒップリフトの大臀筋活動は54.24%MVICで、比較した18種目の中で11位にとどまりました。研究チームはこの順位について、片脚ヒップリフトが大臀筋強化の定番種目として臨床でも使われているにもかかわらず低かったことを「やや意外だった」としています。不安定な面で行った際にハムストリングスがつったと訴えた参加者がいたことから、ハムストリングスが肩代わりしている可能性を指摘し、安定した面でも同様のことが起きうるが訴えは少なかった、とも述べています。
膝の角度を変えると入れ替わる
Leheckaら(2017)は、この片脚ブリッジの姿勢を変えて、大臀筋・中臀筋・大腿二頭筋の活動を比較しました。28名を募集し、EMGの信号不良で2名を除いた26名(18〜30歳)を対象にした横断研究です。
| 条件 | 大臀筋 | 中臀筋 | 大腿二頭筋 |
|---|---|---|---|
| 膝90°(従来の姿勢) | 51.02% | 57.81% | 75.34% |
| 膝135°(かかとをお尻に近づける) | 47.35% | 57.23% | 23.49%※ |
出典: Building a Better Gluteal Bridge (Lehecka BJ ほか, 2017)(2026-08-11 確認)
※ 平均±SDのうち平均値のみを抜粋。※は膝90°の条件に対して統計的な有意差があった値(p<0.05)。大臀筋・中臀筋の2つには有意差がありません。片脚ブリッジでの測定であり、両脚で行うヒップリフトで同じ差が出ると示されたものではありません。
読み方としては、大臀筋の活動を落とさずに大腿二頭筋の関与だけを下げられた条件がある、ということです。膝を深く曲げるとハムストリングスの長さが短くなり、股関節を伸ばす仕事に力を出しにくくなるという説明と整合します。
この結果には、あわせて書いておくべき条件が4つあります。1つ目は、片脚で行うブリッジの測定であり、26名・18〜30歳という横断研究1本にとどまることです。両脚で行うヒップリフトで同じ差が出るとは、この研究では示されていません。2つ目は、測っているのは筋電図の活動水準であって、筋肉が増える量ではないことです。3つ目は、同じ「片脚ブリッジ」という種目でも研究によって数値が開くことです。安定面での片脚ブリッジの大臀筋活動は、Youdasら(2015)の報告では32.6%MVICで、Borenの54.24%・Leheckaの51.02%より低い値になっています。正規化の方法や電極の位置が違うためで、数値は同じ研究の中でだけ比べる必要があります。4つ目は、膝135°が「正しいフォーム」だと決まったわけではないという点です。片脚での測定にもとづく、選べる調整の1つとして読んでください。
ヒップリフトのやり方|足の位置で効く場所が変わる
仰向けに寝て両膝を立て、足裏を床につける― 足幅は肩幅程度にします
かかとの位置を決める― 一般的な目安は膝のほぼ真下です。調整の幅は次の見出しで説明します
腕は体の横に置き、手のひらを床につける
かかとで床を押して腰を持ち上げる― 肩・腰・膝が一直線に近づくところまで上げます
上で一度止める
腰が床につく手前まで下ろし、同じ範囲で繰り返す
かかとをどこに置くか
かかとを膝のほぼ真下に置く(膝の角度がおよそ90°になる)のが、一般に言われる目安です。Leheckaらの測定では、この条件がもっとも大腿二頭筋の活動が高くなっていました。裏ももが張る、あるいはつるように感じる場合は、かかとをお尻側に寄せて膝をより深く曲げる方向に調整してみてください。反対に、かかとを遠ざけると大腿二頭筋の関与が増える方向に動きます。この調整幅は片脚での測定から得られたものです。膝135°が正しいフォームだと決まったわけではないので、自分の感じ方と照らし合わせながら選べる範囲として使ってください。
きついとき・物足りないとき
物足りない場合は、まず上で数秒静止する時間を足します。それでも余裕があれば片脚(シングルレッグ)に切り替え、さらに腰の上に重りを載せます。ベンチに肩を乗せて荷重を扱う段階まで進むと、種目としてはヒップスラストに切り替わります。逆にきつい場合は、可動域を小さくするか回数を減らして調整してください。
回数と段階の目安
ヒップリフトは自重種目なので、重量では自分の位置を測れません。公開されている集計は回数で出ています。
| レベル | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 初心者(Beginner) | 1未満 | 1未満 |
| 初級者(Novice) | 13 | 10 |
| 中級者(Intermediate) | 38 | 32 |
| 上級者(Advanced) | 70 | 60 |
| エリート(Elite) | 107 | 91 |
出典: Glute Bridge Standards (kg)/Strength Level(2026-08-11 確認)
※ 海外のトレーニング記録サービスに投稿された自己申告データで、日本の平均ではありません。1セットの最大反復かどうかといった測定条件は公開されておらず、どこまで腰を上げたかという可動域もそろっていません。有効記録は8,724件(男性4,842・女性3,882)で、同じサイトのヒップスラスト(383,413件)より2桁小さい母数です
30回台が真ん中という意味
レベルの区切りは、投稿された記録の中での順位で決まっています。中級者はちょうど真ん中(下位50%より強い水準)にあたるため、一般に「平均」として引用されるのはこの中級者の値です。体重別の内訳も公開されていて、体重70kgの男性の中級者は39回、体重55kgの女性の中級者は34回です。セットの組み方も集計されていて、最も多いのは男女とも3セット×10回(男性15%・女性16%)でした。一方で、男性の8%は2セット×30回という組み方を選んでいます。同じ種目でも、10回で組む人と30回で組む人に分かれているということです。
回数が伸びたら、次に何を変えるか
自重種目なので、伸ばす方向は主に回数です。回数だけで進めなくなったら、次の段階に移ります。
- 両脚のまま回数を増やす
- 片脚(シングルレッグ)に切り替える。筋電図で測られているのはこの姿勢です
- 腰の上に重りを載せる
- 肩をベンチに乗せてバーベルで荷重する。ここで種目としてはヒップスラストに切り替わります
厚生労働省のe-ヘルスネットは、漸進性過負荷の原則を「日常生活レベル以上の負荷を繰り返しかけ、慣れてきたら少しずつ負荷を高めていく」ことと説明し、成人および高齢者に筋力トレーニングを週2〜3日実施することを推奨しています。自重で行う運動もこの筋力トレーニングに含まれると明記されています。段階を進める考え方は漸進性過負荷のやり方、器具なしで自宅トレに組み込む設定はLiftLogの自宅トレ設定にまとめています。
記録に残すのは回数と足の位置
自重の回数種目は重量が0なので、総負荷量の計算方法で扱う重量×回数×セット数の式には乗りません。記録項目の決め方は筋トレ記録のつけ方完全ガイドに整理しています。同じ30回でも、両脚か片脚か、かかとの位置が違えば別の運動です。回数と一緒に、この条件を1行残しておいてください。
ヒップリフトとヒップスラストの違い
同じ「股関節を伸ばして腰を上げる」動作ですが、荷重できる量が違い、その結果、記録の単位まで変わります。
| ヒップリフト | ヒップスラスト | |
|---|---|---|
| 姿勢 | 床に仰向け | 肩甲骨をベンチに預ける |
| 器具 | 自重(マットのみ) | バーベル+ベンチ+パッド |
| 股関節が動く範囲 | 床から上げきるまで | ベンチのぶん低い位置から始まる |
| 進め方 | 回数を増やす | 重量を足す |
| 公開集計の単位 | 回数(中級者 男38回・女32回) | kg(中級者 男140kg・女102kg・バー込み・1RM) |
| 有効記録の件数 | 8,724件 | 383,413件 |
出典: Glute Bridge Standards / Hip Thrust Standards(Strength Level)(2026-08-11 確認)
※ ヒップスラスト側の数値は「ヒップスラストの平均重量」記事に記載の集計と同一です。同じ動作でも記録の単位が違い、有効記録の件数は約44倍(383,413÷8,724)違います。
分類の面でも扱いが違います。バーベルヒップスラストの分類では、主働筋が大臀筋、協働筋が大腿四頭筋、ハムストリングスは動的安定筋という位置づけです。自重のヒップリフト側で同じ形式の分類データは確認できていないため、この記事では書いていません。
どちらをやるか
器具がない、種目を覚えている段階、回数がまだ30回に届かない場合はヒップリフトが向いています。回数で伸びなくなった、ベンチとバーベルが使える場合はヒップスラストに進む段階です。重量の目安はヒップスラストの平均重量にまとめています。自重のブリッジと荷重をかけたヒップスラストを直接比べた研究は確認できていないため、どちらが優れているという書き方はしていません。
まとめ
- 主働筋は大臀筋。ただし股関節を伸ばす仕事はハムストリングスとの分担になる
- 片脚ヒップリフトの大臀筋活動は54.24%MVIC(18種目中11位)という報告があり、ハムストリングスの肩代わりが疑われている
- 膝を90°から135°に深く曲げると、片脚ブリッジの測定では大腿二頭筋の活動が75.34%から23.49%まで下がり、大臀筋の活動はほぼ変わらなかった(片脚26名の測定という条件つき)
- 公開データの中級者は男性38回・女性32回。最多のセット構成は男女とも3セット×10回
- 段階は、両脚の回数を増やす→片脚に切り替える→荷重(ヒップスラスト)という順に進む
- ヒップリフトとヒップスラストは同じ動作だが、公開集計の単位が回数とkgで分かれている



