チェストプレスは、座る前にシートの高さ・グリップの位置・(ある場合は)フットレバーの3つを、この順番で決めてから使う種目です。基準になるのはグリップが胸の高さに来ることです。「チェストプレス」という名前が指す機構は座位・仰臥位・空気圧式など複数あり、表示されている重量の定義も機種ごとに違います。この記事では調整の手順に加えて、ベンチプレスとの違いと、同じ数字が機種によって別物になる理由まで扱います。

主に効く部位
大胸筋三角筋前部・上腕三頭筋も動員
器具
マシン座位レバー式が主
重量の数え方
マシン依存片アームか合計かも非公開
多い組み方
3セット×10回男性23%・女性18%

効く筋肉と、ベンチプレスとの違い

主働筋は大胸筋の胸肋部です。協働筋は大胸筋の鎖骨部・三角筋前部・上腕三頭筋・烏口腕筋、動的に姿勢を支える動的安定筋は上腕二頭筋の短頭です。大胸筋は線維の向きで働きが分かれていて、鎖骨部の線維は上腕骨を曲げる動き(屈曲)を、胸肋部の線維は水平内転・垂直内転・伸展・内旋を担います。

動員される筋の分類(2026-08-11 閲覧)
種目主働筋協働筋動的安定筋
座位チェストプレス大胸筋 胸肋部大胸筋 鎖骨部/三角筋前部/上腕三頭筋/烏口腕筋上腕二頭筋 短頭
仰臥位マシン大胸筋 胸肋部大胸筋 鎖骨部/三角筋前部/上腕三頭筋/烏口腕筋上腕二頭筋 短頭
バーベルベンチプレス大胸筋 胸肋部大胸筋 鎖骨部/三角筋前部/上腕三頭筋/烏口腕筋上腕二頭筋 短頭
インクラインチェストプレス大胸筋 鎖骨部大胸筋 胸肋部/三角筋前部/上腕三頭筋/烏口腕筋上腕二頭筋 短頭

座位チェストプレス・仰臥位マシン・バーベルベンチプレスの3種目は、主働筋・協働筋・動的安定筋のすべてが完全に一致する。インクラインだけ主働筋が鎖骨部に入れ替わる(2026-08-11時点の分類)

分類そのものは、チェストプレスとベンチプレスで差がありません。差が出るのは、実際に押しているときの筋活動を測ったときです。

ベンチプレスと何が違うのか

競技ボディビルダー10名を対象に、水平ベンチプレス・インクライン45度・デクライン−15度・チェストプレスマシンをそれぞれ80%1RMで比較した研究があります。大胸筋の胸肋部(主働筋にあたる部分)はベンチプレスとチェストプレスで同程度という結果でした。低かったのは、大胸筋の鎖骨部・上腕三頭筋・三角筋中部です。著者はこの理由を、フリーウェイト種目のほうが不安定性が大きいことに求めています。

別の研究では違う結果が出ています。トレーニング経験のある男性14名を対象に、大胸筋の筋活動をバーベルベンチプレス=100として9種目を比較したところ、チェストプレスマシンは79%で、ベンチプレスより有意に低いという結果でした。主観的なきつさ(RPE)も有意に低くなっています。

13研究・合計1016名を対象にしたメタ分析では、フリーウェイトとマシンを直接比べたとき、筋力(動的・等尺性とも)にもジャンプ力にも筋肥大にも差が出ていません。一方で、フリーウェイトで鍛えた人はフリーウェイトの測定で伸びやすく、マシンで鍛えた人はマシンの測定で伸びやすいという、測定した形式のほうが伸びる傾向がありました。チェストプレスで重量を伸ばしても、ベンチプレスの数字が同じだけ伸びるとは限りません。ただし、それは筋肥大に差が無いことと矛盾しません。

胸の種目全体をどう並べて使い分けるかは、ダンベルプレスとベンチプレスの違いにまとめています。

チェストプレスのやり方

まず自分のマシンがどれかを決める

「チェストプレス」という1つの名前の下には、複数の機構があります。座って押す座位レバー式、仰向けで押す仰臥位マシン、左右のアームの軌道が内側に寄るコンバージング式、そしてウェイトのかけ方でも、プレートを積むプレート積載式・ピンを差すウェイトスタック式・圧縮空気を使う空気圧式に分かれます。これらは動作の分類上も別々の種目として扱われています。まず自分が座っているマシンがどの組み合わせかを、大まかにでも把握してから調整に入ります。

  1. シートの高さを合わせる― グリップが胸の高さに来るところまでシートを上下させます。高すぎると肩の前側に、低すぎると肘に角度が集まります

  2. グリップの位置(前後・開始位置)を合わせる― 可動域を選べるレバーが付いている機種があります。動かせる場合は、押し切る手前で腕が伸びきらない位置を選びます

  3. 背中と腰をパッドにつけて座る― 肩甲骨が浮かないところまで背中を預けます

  4. フットレバーがあれば踏んでグリップを引き寄せる― 踏んだままグリップを握り、握ってからレバーを解除します

  5. 肘を体側の少し下、肩より下の高さで構える― グリップは広めの順手で握ります

  6. 腕が伸びるところまで押す― 肘をロックして反動をつけません

  7. 胸が軽く伸びるところまで戻す― ベンチプレスは「胸に当たる位置」が下ろす終点を決めますが、チェストプレスにはその終点がありません。自分の可動域が終点になります

  8. 終わったらフットレバーを掛け直してから手を離す― 始めるときと逆の手順です

グリップは幅と向きで何が変わるか

座位チェストプレスのニュートラルグリップ(手のひらが向かい合う向き)は、大胸筋鎖骨部の活動がベンチプレス(グリップ幅が肩峰間距離の150%)より有意に高いという結果が出ています。ただしこの研究の結論は、ベンチプレス150%・チェストプレスのプロネイトグリップ・チェストプレスのニュートラルグリップの3条件で筋活動が似ている、というものです。

グリップ幅を狭くすると上腕三頭筋の活動が増え、大胸筋胸肋部の活動は下がるという結果もあります。逆手に近づける(回外)と、上腕二頭筋と大胸筋鎖骨部の活動が増えます。ただし原著者自身が、この変化は小さく、グリップの選び方は競技で採用している姿勢に合わせればよいと結論しています。

グリップで狙って効き分けを作れる、という話ではありません。動かしやすい向きを選んで、変えたときは記録に残してください。

よくある詰まりどころ

  • 胸ではなく腕が先に疲れる ― グリップが広すぎるか、可動域を選べるレバーの開始位置が遠すぎる可能性があります
  • 肩の前側だけ張る ― 戻しすぎて肩が前に出る位置まで引いていないか確認します
  • グリップまで手が届かない ― フットレバーを使っていないか、シートの高さが合っていません

重量の目安と、ベンチプレスへ換算できない理由

記録投稿サイトの集計では、チェストプレスの平均は男性86kg・女性37kg(推定1RM)です。

チェストプレス平均重量の目安(kg・推定1RM
レベル男性女性
初心者3411
初級者5622
中級者8637
上級者12157
エリート16179

出典: Chest Press Standards (kg)Strength Level2026-08-11 確認)

海外ユーザーの自己申告にもとづく推定1RMです。有効結果206,408件(コミュニティ記録822,882件・男性180,929件/女性25,479件・2019年1月27日〜2026年3月5日)の集計。バーベル種目のページにある「表示重量はバーの重さを含む」に相当する定義文がこのページには無く、片アームか左右合計かは公開情報からは確認できません。ジムをまたいだ比較には使えません

記録サイトはチェストプレスを1項目にまとめている

同じ記録サイトの中でも、種目によって扱いが違います。レッグプレスは45度・水平・垂直・片脚の4項目に分かれて集計されていますが、チェストプレスはMachineカテゴリの中に1項目しかありません。「machine-chest-press」「seated-chest-press」「chest-press-machine」という別名のページも存在せず、いずれもこの1項目に着地します(2026-08-11確認)。座位も仰臥位もコンバージングも空気圧式も、全部この1つの数字に混ざっています。レッグプレスの機種別集計はレッグプレスの平均重量で扱っています。

ベンチプレスへの換算は成立しない

同じ集計サイトのベンチプレス側の数字と比を取ると、単一の係数が見えてきません。

チェストプレスとベンチプレスの平均重量の比(同一集計・当方計算・2026-08-11時点)
レベルチェストプレス(男性)ベンチプレス(男性)比(男性)チェストプレス(女性)ベンチプレス(女性)比(女性)
初心者34kg49kg0.6911kg19kg0.58
初級者56kg70kg0.8022kg33kg0.67
中級者86kg96kg0.9037kg51kg0.73
上級者121kg127kg0.9557kg72kg0.79
エリート161kg160kg1.0179kg97kg0.81

ベンチプレスの値はバー(通常20kg)込みの推定1RM。比は同じ集計サイトの公表値どうしの割り算(当方計算)。男性は0.69から1.01まで上がりエリートで逆転し、女性は0.58から0.81まで動く。別々の集団の別々の集計であることに変わりはなく、単一の係数として使うことはできない

男性は初心者で0.69倍、エリートでは1.01倍とチェストプレスのほうが上回ります。女性は0.58倍から0.81倍まで動きますが、逆転はしていません。比が一定の値に収まらない以上、「チェストプレス◯kg=ベンチプレス◯kg」という換算表は作れません。バー込みという定義があるベンチプレス側の数字についてはベンチプレスの平均重量にまとめています。

同じ50kgでも機種で別物になる

メーカーが公表している機械の仕様を見ると、差の理由がもう少し具体的に見えてきます。

チェストプレスマシンの仕様(メーカー公表値・2026-08-11 閲覧)
方式製品無負荷時の抵抗最大
ウェイトスタック式Hoist Fitness CL-3301記載なし(スタック300lbs/136kg)136kg
プレート積載・コンバージングAtlantis Strength P439Starting resistance 12kg245kg
プレート積載・コンバージング(片アーム)Atlantis Strength P443Starting Resistance(per arm) 9kg245kg
プレート積載・垂直Atlantis Strength PW737Starting resistance 8kg245kg
空気圧式Keiser A250/A300(Model 1321)0kg(1kg刻み)122kg

P443は仕様欄に「per arm(片アームあたり)」と明記している。プレート積載式は無負荷の時点で8〜12kgの抵抗がすでにかかっており、空気圧式は0kgから始まる。刻み幅も1kg刻み・5lb刻みなど製品で異なる

事実として言えることが3つあります。1つ目は、プレートを1枚も付けていない時点で8kgから12kgの抵抗がすでにかかっている機種があることです。2つ目は、「片アームあたり」と明記している製品があることです。左右合計で数えるか片側だけで数えるかで、同じマシンでも表示が2倍変わります。3つ目は、可動域を機構側で選べる製品があることです。これがステップ2の「開始位置レバー」の正体です。ケーブルマシンの滑車比も、表示重量と実際の負荷がずれる別の例です。詳しくはケーブルクロスオーバーのやり方にまとめています。

日本のデータは60.6kg。ただし前提が3つ付く

日本語の記事でよく見かける「チェストプレスの平均は60.6kg」という数字の原典は、大学の体育実技を履修した男子学生368名(19.4±1.2歳)を対象にした報告です。チェストプレスの1RMは初回60.6±14.8kgで、10週間のトレーニング後は67.8±16.1kgまで有意に増加しています。

この数字には前提が3つ付きます。1つ目は、カイザー社製の空気圧を負荷とするマシンで測定していることです。2つ目は、対象が大学の授業を履修した男子学生で、大多数がトレーニング初心者にあたることです。3つ目は、1回を直接挙げて測ったのではなく、間接法(反復できた回数と重量から換算する方法)による推定値であることです。この3つの前提が付く数字であり、他の機種・他の集団の数字とそのまま比べられるものではありません。

表の値は1RMなので、実際に組む重量に読み替えるには回数からの逆算が必要です。

1RM計算機重量と回数から最大挙上重量を推定できます。Epley式・Brzycki式の両方と%1RM換算表つき(登録不要)

記録に残す項目

重量・回数に加えて、どのマシンかシートの段数・グリップの向きを記録に残します。この2つが無いと、「先月より重くなった」のか「マシンが変わっただけ」なのかを判断できません。「4段目・ニュートラル・2号機」程度の短い書き方で足ります。

厚生労働省のe-ヘルスネットは、筋トレの負荷について「日常生活レベル以上の負荷を繰り返しかけ、慣れてきたら少しずつ負荷を高めていく(=漸進性過負荷の原則)ことが重要です」と説明しています。マシンをまたいだ比較ができない以上、上げ幅を判断する材料は自分の記録しかありません。記録する項目の考え方は筋トレ記録のつけ方完全ガイド、伸びているかどうかを推移で見る方法は筋トレの成果を見える化する方法にまとめています。機種ごとに完全に分けて追いたい場合は、カスタム種目を使う方法があります(LiftLogの使い方)。重量を上げるタイミングの考え方は重量を上げるタイミングの見極め方を参考にしてください。

まとめ

  • チェストプレスは、シートの高さ(グリップが胸の高さ)→グリップの位置→(あれば)フットレバーの順で調整してから使う
  • 動員される筋の分類は座位チェストプレス・仰臥位マシン・バーベルベンチプレスで完全に同じ。インクラインだけ主働筋が鎖骨部に入れ替わる
  • ベンチプレスとの測定では、大胸筋の主要な部分は同程度、低いのは大胸筋の一部・上腕三頭筋・三角筋中部という結果と、全体的に有意に低いという結果の2本があり、結論は割れている
  • 13研究のメタ分析では筋肥大に差が出ていない。伸びるのは測定した形式のほう
  • 平均は男性86kg・女性37kg。ただし表示重量の定義が無く、複数の機種が1項目に混ざっている
  • ベンチプレスへの換算は成立しない。比は男性0.69〜1.01・女性0.58〜0.81まで動く
  • 無負荷の時点で8〜12kgの抵抗がかかっている機種と、0kgから始まる空気圧式が両方存在する
  • 日本のデータ60.6kgは、空気圧マシン・初心者中心の大学生・間接法推定という3つの前提付き
  • 記録には重量・回数に加えて、マシンとシートの段数・グリップの向きを残す

次にジムへ行ったら、グリップが胸の高さに来るシートの段数を1回確認して、その段数を記録に一緒に残すところから始めてください。