ナローベンチプレスは、手幅を狭くしたベンチプレスで、分類上の主働筋が大胸筋から上腕三頭筋に入れ替わる種目です。整えるところは手幅そのものではなく、下ろしたときに肘が手の真下に来ているかの1点にあります。手幅を比べた研究で三頭の差が消えたのは、肩の外転角度をそろえた条件でした。この記事では、手順、手幅の決め方、公開データにもとづく重量の目安、三頭の他3種目との使い分けを順に整理します。
- 主に効く部位
- 上腕三頭筋分類上の主働筋。大胸筋は協働筋
- 器具
- バーベルラックとフラットベンチ
- 難易度
- 中級肘を体に寄せたまま押せること
- 重量の目安(1RM)
- 49〜93kg男性・初心者〜平均・バー込み(推定)
効く筋肉と構造|主働筋が入れ替わる
ベンチプレスと主働筋が交換される
| ベンチプレス | ナローベンチプレス | |
|---|---|---|
| 主働筋 | 大胸筋・胸骨部 | 上腕三頭筋 |
| 協働筋 | 大胸筋・鎖骨部/三角筋前部/上腕三頭筋/烏口腕筋 | 三角筋前部/大胸筋(胸骨部・鎖骨部)/烏口腕筋 |
| 手幅 | 広めの斜め順手 | 肩幅 |
| 肘 | 指定なし | 体に寄せる |
| 可動域の注意 | 広すぎると可動域が損なわれる | 狭すぎると可動域が減り、バーの安定性も下がる |
| 分類 | 複合・押す種目 | 複合・押す種目(同じ) |
※ 2ページの記載(2026-08-11取得)にもとづく
動作の形は同じで、役割だけが交換されています。だから胸の日に組み込んでも、腕の日に組み込んでも成立する種目です。
「大胸筋の内側」は測定でも解剖でも支えられていない
大胸筋の頭の分け方は、起始による鎖骨部と胸肋部です。停止は上腕骨の1か所(外側唇・結節間溝)にまとまっていて、内側・外側という区分ではありません。「内側」と呼ばれる胸骨寄りの部分と「外側」と呼ばれる上腕骨寄りの部分は、同じ線維の根本と先にあたります。
手幅を比べた測定でも、胸骨側(内側と呼ばれる部分に近い側)が狭い手幅で上がったという報告は見つかりません。
- Lehman(2005年): 狭くすると三頭の活動が上がり、大胸筋の胸鎖部の活動は下がった
- Saeterbakkenら(2021年): 大胸筋の胸骨部は3条件で差なし(%MVICの中央値でナロー100・中間97.9・ワイド96.1)
- Arseneaultら(2021年): 同じ傾斜の中では、狭い手幅と広い手幅で胸骨部に有意差なし
上がったという報告があるのは大胸筋の鎖骨部(上部)のほうです。Arseneaultらは、0度と+30度の傾斜でナローの回内グリップが、0度のワイド回内グリップより鎖骨部の活動が高かったと報告しています。鎖骨部は「内側」と呼ばれている部分とは別の場所です。「内側に効く」という言い方の元になった測定は確認できませんでした。
三頭の4種目をどう並べるか
| ナローベンチプレス | スカルクラッシャー | プレスダウン | ディップス | |
|---|---|---|---|---|
| 動く関節 | 肘+肩(複合) | 肘だけ(単関節) | 肘だけ(単関節) | 肘+肩(複合) |
| 負荷の載せ方 | バーベル+ラック | バー(バー重量込み) | ケーブル(スタック表示) | 自重+加重 |
| 重量の刻み | プレート単位。最も重い重量を扱える | プレート単位。刻みに対して重量が小さい | スタック1枚単位 | 自重が下限 |
| 向いている場面 | 三頭に重量で刺激を入れたい/ベンチプレスの補助 | 肩を上げて長頭を伸ばした位置から動かしたい | 数字を細かく刻んで積み上げたい | 自重で段階を作りたい |
※ 肩の角度による整理は各種目の記事で扱っている。ここでは負荷の載せ方で並べた(2026-08-11時点の編集判断)
どれか1つを選ぶ関係ではありません。重量で刺激を入れたいなら複合種目のナローベンチプレス、肩を上げて長頭を伸ばした位置から動かしたいならスカルクラッシャーのやり方、数字を細かく刻んで積み上げたいならプレスダウンのやり方、自重で段階を作りたいならディップスができない|段階の作り方とやり方という組み方になります。
腕の種目全体では、前側(カール系)と後ろ側(エクステンション系)で「肩をどこに置くか」という同じ軸が使えます。この軸はインクラインダンベルカールのやり方で扱っています。
ナローベンチプレスのやり方|手幅より先に肘の位置を決める
フラットベンチに仰向けになり、足を床につける
肩幅でバーを順手に握る― 肩幅よりわずかに狭くしてもよいですが、狭くしすぎません
ラックからバーを外し、腕を伸ばして構える
肘を体に寄せたままバーを胸に下ろす― 肘が外に開くと、この種目の前提から外れます
腕が伸び切るまでバーを押し上げる
戻し切った位置が次の1回の開始位置
呼吸については、厚生労働省のe-ヘルスネットが筋トレ全般の注意として、血圧の急激な上昇を抑えるために息をこらえないよう注意を促しています。
手幅は「肘が手の真下に来る幅」で決める
手幅を比べた研究のうち、肩の外転角度を統制した1本だけが、上腕三頭筋長頭の差を見つけられませんでした。Arseneaultら(2021年)は、13名を対象に傾斜と手幅と回内・回外を組み合わせた12条件で三頭の活動を比較し、長頭の活動が手幅によって変わらないという結果を報告しています。
この研究のPractical Applicationが、この記事の核になる説明です。肘が手の真下に置かれるなら、手幅がどうであれ三頭の動員はほぼ変わりません。手が肘から離れた位置にあれば、三頭の動員は増えます。 つまり手幅は、肘を体に寄せるための手段であって、狭さそのものが効き目を決めているわけではありません。
肩の外転角度をそろえていない研究では、結果が違います。Lehman(2005年)は、狭くすると三頭の活動が上がったと報告しています。Saeterbakkenら(2021年)でも、ワイドの三頭活動がミディアム・ナローより低いという結果でした。研究間で結論が割れている、というのがここでの正確な言い方になります。
実務への落とし込みは、cmを追いかけることではありません。下ろした位置で前腕が床と垂直になっているか、つまり肘が手の真下に来ているかを、横から確認することです。手幅は、肘をそこに置くための調整幅にすぎません。
狭くしすぎると起きること
手幅を狭くしすぎたときに起きることとして挙げられているのは、次の3つです。
- 可動域が減る
- 手首の関節を過度に内転させる傾向がある
- バーの安定性が不必要に下がる
いずれも動作の記述であって、手首を痛める・関節を守れるといった予測ではありません。ベンチプレス側にも対になる注意があります。広すぎると可動域が損なわれる、という記載です。狭い側でも広い側でも可動域が減るという構図なので、手幅は狭いほど良いわけではありません。
研究の「ナロー」と、記事でよく見る「ナロー」は幅が違う
研究で「ナロー」として扱われている幅は、肩峰間距離と同じ幅です。手が肩峰のほぼ真上に来る位置を指していて、これはArseneaultらの100%肩峰間距離という定義とも一致します。Saeterbakkenらの定義も、脇の間の距離(腋窩間距離)という、ほぼ同じ考え方です。バーの分類でも、手幅は肩幅と記載されています。
肩峰間距離の実寸をcmに換算した出典は見当たらないため、この記事ではcmへの換算はしません。日本語の解説記事でよく見かける60〜70cmや「普段より指1〜2本狭く」といった目安は、研究の「ナロー」とは別の基準に立っています。どちらが正しいということではなく、基準が違うと知ったうえで自分の握り位置を決めることが実際的です。
重量の目安|ベンチプレスの9割前後
トレーニング記録の投稿サイトStrength Levelは、ナローベンチプレスを独立した項目として集計しています。集計対象は446,921件のコミュニティ記録から89,173件の有効結果(2019年1月2日〜2026年3月5日)で、平均は男性93kg・女性50kg(いずれも1RM)です。
| レベル | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 初心者 | 49 | 21 |
| 初級者 | 69 | 34 |
| 中級者 | 93 | 50 |
| 上級者 | 122 | 70 |
| エリート | 152 | 92 |
出典: Close Grip Bench Press Standards (kg)/Strength Level(2026-08-11 確認)
※ 海外ユーザーの自己申告データにもとづく1RM(1回だけ挙げられる最大重量)の基準値です。日本人の平均ではなく、10回続けられる重量でもありません。数値にはバーの重量(同サイトの注記では通常20kg)が含まれます。体重を指定しない全体の分布であり、集計期間は2019年1月2日〜2026年3月5日です
ベンチプレスとの比
ナローとベンチプレスの重量を比べるときは、体重をそろえて比べることが必須です。体重を指定しない全体の表どうしを比べると、女性の初心者レベルで逆転が起きます(ナロー21kg÷ベンチプレス19kg=110.5%)。これは集計している集団が別で、投稿者の体重分布も違うために起きる見かけ上の逆転なので、この比較は使いません。
体重60〜80kgの男性で、体重をそろえて各レベルを当方で計算すると、ナローはベンチプレスの90〜98%程度でした。中級者以上ではおおむね91〜95%の帯に収まります。
同じ人に3条件をやらせた実測でも、近い数字が出ています。Saeterbakkenら(2021年・RT群15名/NT群13名)は、6RMでナローが中間・ワイドより6.6〜8.4%低いと報告しています。理由として著者らが挙げているのは、手幅が広いほうがバーの垂直移動距離が短くなることです。手幅を狭くすると、押し上げる距離そのものが長くなります。
この2つの数字には限界があります。Strength Level側の比較は、別々のページに投稿された別集団どうしの並列であり、同じ人が両方を測った比較ではありません。それでも、体重をそろえた公開データの比と、同一被験者の実測がほぼ同じ範囲に収まったことは、読み取れる材料になります。
記録に残すこと
この種目で数字の意味を変えるのは手幅です。同じ80kg×8回でも、肩幅で握った日と広めに握った日では別の運動になります。項目を増やすと続かないので、実際的なのは、握った位置(ローレットの内側・外側、または滑り止めの端から指何本かなど)をひとことだけ残すことです。
ベンチプレスと同じ種目名で記録すると、推移のグラフが1本に混ざって、どちらの数字も読めなくなります。 ベンチプレスの補助種目としての置き方や、同じ名前で別種目を混ぜないという考え方はベンチプレスが伸びない原因にまとめています。記録する項目の決め方は筋トレ記録のつけ方完全ガイドを参照してください。
1RM計算機重量と回数から最大挙上重量を推定できます。%1RM換算表つきなので、表の1RM基準値を実施重量に読み替えるのにも使えます(登録不要)頻度については、厚生労働省のe-ヘルスネットが成人および高齢者に、筋トレを週2〜3日実施することを推奨するとしています。
まとめ
- 分類上の主働筋は上腕三頭筋。ベンチプレスとは主働筋と協働筋が入れ替わる
- 整えるのは手幅のcmではなく、下ろしたときに肘が手の真下に来ているか
- 肘が手の真下なら手幅が違っても三頭の動員はほぼ変わらないという測定がある一方、肩の角度を統制していない研究では狭いほうが高い。結論は割れている
- 「大胸筋の内側に効く」を裏付ける測定は見つからなかった。狭くして上がったのは鎖骨側で、胸骨側は下がるか差なし
- 狭くしすぎると可動域が減り、バーの安定性が下がる。狭さは目的ではない
- 平均は男性93kg・女性50kg(1RM・バー20kg込み)
- 体重をそろえて並べると、ベンチプレスの9割前後。実測でも6RMで7%前後低い
- 記録はベンチプレスと分ける。握った位置を1行だけ足す



