パーソナルジムの売上は、1人あたり月にいくら払ってもらうか、何人担当しているか、何ヶ月続いているかという3つの掛け算でできています。3つとも掛け算の項なので、どれを1割動かしても売上への効き方は同じです。違うのは、動かすのにかかる費用と、うまくいかなかったときに元へ戻せるかどうかです。開業費用や年収の相場ではなく、いま担当を持っている人が来月どこを動かすかを決めるための計算の枠を、ここに置きます。

売上は3つの掛け算に分かれる

月商だけを見ていると、売上の3分の1しか見ていないことになります。今月の売上は、1人あたり月の売上に今月の在籍人数をかけた値です(単価×人数)。月謝制でもセッション単価制でも、単価は「1人が1ヶ月に払う額」に統一して数えます。月謝制はそのまま月額を使い、セッション単価制はセッション単価×月あたりの回数で置き換えれば、同じ形の数字になります。一方、1人が最後まで払う総額は、1人あたり月の売上にその人が続いた月数をかけた値です(単価×継続月数)。この2つは別々の式に見えますが、重ねると売上を決めているのは単価・人数・継続期間の3つだと分かります。

人数と継続期間は、まったく別の数字というわけでもありません。入退会がならされた状態では、在籍人数は毎月の新規契約数に平均継続月数をかけた値と一致します。たとえば毎月2人が新しく契約して、平均6ヶ月続くなら、在籍人数はいつもだいたい12人前後で安定します。この関係を使うと、今月の売上は「単価×毎月の新規数×平均継続月数」という3つの項の掛け算まで分解できます。継続期間は、単価や人数と並ぶ、売上を決める3つ目の項です。

まず、自分の3つの数字を出す

自分のジムの数字に置き換えると、次の3つを埋めるところから始まります。

いまの3つの数字(記入例の数値は例であって、業界の平均ではありません)
項目あなたの数字記入例
1人あたり月の売上(月謝、またはセッション単価 × 月の回数)60,000円
いま担当している人数12人
いま続いている平均の月数8ヶ月
今月の売上(単価 × 人数)720,000円
1人が続いた分の総額(単価 × 継続月数)480,000円

記入例はこの記事のための例であって、業界の平均でも目安でもありません。「あなたの数字」の列に自分の実績を入れてください

「いま続いている平均の月数」は、直近で契約が終わった数人の期間を平均する程度で足ります。分母・分子・期間を決めて厳密に数える方法は、この記事では扱いません。1人あたり月の売上と担当人数から今月の売上を出し、単価と継続月数から1人が続いた分の総額を出せば、記入枠は埋まります。この2つの掛け算のあいだに立っているのが、次の章で扱う「継続期間」という項です。

3つとも、同じ1割なら同じだけ効く

単価を1割上げても、担当人数を1割増やしても、続く期間が1割延びても、売上への効き方は同じです。掛け算の項である以上、順番も種類も関係ありません。記入例の数字を「単価×毎月の新規数×継続月数」の形に置き直すと、確かめられます。担当12人が平均8ヶ月続いているなら、毎月の新規数はおよそ12÷8で1.5人です。単価60,000円×新規1.5人×継続8ヶ月=720,000円で、記入枠①の今月の売上と一致します。

この3つの項を、それぞれ1割ずつ動かしてみます。

単価・人数・継続期間を1割ずつ動かした場合(記入例の数値による計算)
動かす項目変化のあと売上の変化
単価を1割上げる60,000円 → 66,000円66,000円 × 1.5人 × 8ヶ月 = 792,000円(+72,000円)
新規数(人数の元)を1割増やす1.5人/月 → 1.65人/月60,000円 × 1.65人 × 8ヶ月 = 792,000円(+72,000円)
継続期間を1割延ばす8ヶ月 → 8.8ヶ月60,000円 × 1.5人 × 8.8ヶ月 = 792,000円(+72,000円)

どの項を動かしても、720,000円から792,000円への同じ72,000円増になります。これは記入例の数値による計算であって、実際にこの通り動く保証ではありません

どの項を動かしても、720,000円から792,000円まで、同じ72,000円だけ増えます。単価・人数・継続期間は、どれも掛け算の対等な項だからです。「継続期間を伸ばせば売上が上がります」と効果を約束しているわけではなく、あくまで3つの項が同じだけ掛け算に効くという構造の話です。

効き目が同じでも、やりやすさは同じではない

ここまでの計算は、3つの項を同じ1割だけ動かせたら、という前提のうえに立っています。実際に1割動かせるかどうか、動かすのにどれだけの費用と時間がかかるか、うまくいかなかったときに元へ戻せるかは、項によってまったく違います。効き目(算数)とやりやすさ(費用・リスク・上限)は別の話です。同じ72,000円の増分でも、告知だけで済むものと、広告費や時間を先に払わないと届かないものとでは、手元に残るものが変わります。ここから先は、3つの打ち手それぞれにかかるものを見ていきます。

動かすのにかかるものが、3つで違う

単価・人数・継続期間は、動かす手段もそれぞれ違います。単価を動かす打ち手は値上げ、人数を動かす打ち手は新規集客、継続期間を動かす打ち手はセッション外の接点を増やすことです。この3つは、かかる費用・元に戻せるか・効いたと分かるまでの時間・上限の有無が、すべて違います。

単価・人数・継続期間、それぞれの打ち手の違い
動かすところ打ち手かかるもの元に戻せるか効いたと分かるまで上限
単価値上げ費用はかからない。告知と合意の手間一度上げると下げ戻しにくい早い(次の請求から)構造的な天井は無い
人数新規集客費用と時間がかかる使った費用は戻らない数週間から数ヶ月枠の上限で頭打ちになる
継続期間セッション外の接点を増やす追加の集客費用は要らない。手をかける時間やめても損失は出にくい遅い(結果が出てから数字になる)構造的な上限は無い。ただし、どこまで延びるかは分からない

費用がかかるかどうか、元に戻せるかどうかの差は、数値を伴わない事業の性質の話です。値上げは告知と合意さえ済めば次の請求からすぐに反映されますが、一度上げた単価を下げるのは心理的にも運用的にも簡単ではありません。新規集客は広告費や時間という形で費用が先に出ていき、契約に至らなければその費用は戻ってきません。セッション外の接点を増やす打ち手は、追加の集客費用こそかかりませんが、効いたと分かるまでに時間がかかり、しかもどこまで延びるかは事前には分かりません。上限の有無だけは、算数で確かめられる違いです。

この3つは、どれか1つだけを選ぶ話ではありません。同時に動かせる場面もあれば、いまの状態によってはどれかが選べない場面もあります。次の3つの節では、それぞれの打ち手について「どこまでなら数字で読めるか」を1つずつ見ていきます。

単価 — 何人まで減っても大丈夫かは計算できる

値上げで何人が離れるかは、事前には分かりません。分かるのは、何人まで減っても売上が下がらないかのほうです。単価をx割上げたとき、売上が下がらない離脱の上限は「上げ幅÷(1+上げ幅)」で計算できます。上げたあとの単価×残った人数が、値上げ前の売上を下回らない離脱率の境目を求める式です。

値上げの上げ幅と、許容できる離脱の上限
上げ幅何%まで減っても売上が下がらないか担当12人(記入例)だと何人分か
5%4.8%0.5人
1割9.1%約1人
2割16.7%2人
3割23.1%約2.7人

これは「何人まで減っても大丈夫か」の上限であって、「何人減るか」の予測ではありません。減る人数は自分の現場でしか分かりません

担当が少ないほど、1人の離脱が売上に占める割合は大きくなります。記入例の担当12人で1割値上げする場合、単価は66,000円になります。1人辞めて11人になっても66,000円×11人=726,000円で、値上げ前の720,000円を上回ります。しかし2人辞めて10人になると66,000円×10人=660,000円まで下がり、値上げ前を下回ります。担当12人で1割の値上げなら、1人辞けるまでは売上が増え、2人辞ければ元を割る、という境目になります。担当人数が増えれば、同じ1割の値上げでも1人が占める割合は下がり、境目までの余裕は広がります。逆に担当が少ない時期ほど、この境目は近くなります。

ここでの「5%」「1割」「2割」「3割」は、計算のしかたを示すための仮の倍率であり、実際に何%上げるべきかを勧めるものではありません。値上げの具体額や、値上げすべきかどうかの判断は、この記事の範囲の外に置きます。

人数 — ここだけ上限がある

3つの打ち手のうち、人数だけに物理的な上限があります。受け持てる人数の上限は、1日に取れるセッション本数×月の稼働日数÷1人あたり月のセッション回数で計算できます。1日に取れる本数と稼働日数から、月に対応できるセッションの総本数が決まり、それを1人あたりの月のセッション回数で割ると、受け持てる人数の上限になります。

受け持てる人数の上限(記入例の数値は例であって、業界の平均ではありません)
項目あなたの数字記入例
1日に取れるセッション本数6本
月の稼働日数22日
1人あたり月のセッション回数8回(週2回)
受け持てる人数の上限(本数 × 日数 ÷ 回数)16人
いまの担当人数との差(=空いている枠)4人分

予約の埋まり方・移動時間・キャンセルを含まない、理論上の上限です。実際に埋められる数はこれより少なくなります

記入例では、1日6本×月22日で月132本のセッション枠があり、1人あたり月8回(週2回)で割ると16.5人分、切り捨てて16人が上限になります。いまの担当が12人なら、空いている枠は4人分です。この上限は固定の数字ではなく、1日に取れる本数や、1人あたりのセッション回数を変えれば動きます。ただし、それぞれに現実的な範囲があるため、上限自体を大きく動かすのは簡単ではありません。この枠が埋まっているかどうかで、人数を動かす打ち手が選べるかどうかが決まります。枠が埋まっていれば、この打ち手はもう選べません。新規1人にいくらと何時間をかけているかを出し、いまの担当が延びた分と比べる手順は、集客記事の担当になります。

継続期間 — 必要な新規の数が変わる

継続期間が延びると、いまの人数を保つのに毎月必要な新規の数が減ります。必要な新規数は、担当人数÷平均継続月数で計算できます。これは、売上は3つの掛け算に分かれるの章で見た「在籍人数=新規数×継続月数」の関係を、新規数について解き直した形です。

継続期間が延びたときの、必要な新規数の変化(記入例の数値は例であって、業界の平均ではありません)
項目あなたの数字記入例
いまの担当人数12人
いま続いている平均の月数8ヶ月
いまの人数を保つのに毎月必要な新規(人数 ÷ 月数)1.5人/月(年18人)
平均が2ヶ月延びたら1.2人/月(年14.4人)
年間で要らなくなる新規の数3.6人分

出入りがならされた状態での関係です。月ごとにぴったり合う式ではありません

記入例では、担当12人を保つのに毎月1.5人(年18人)の新規が必要ですが、平均継続月数が8ヶ月から10ヶ月に延びると、必要な新規は毎月1.2人(年14.4人)まで下がり、年間で3.6人分の新規が要らなくなる計算になります。担当人数を変えずに済ませたいなら、平均継続月数を延ばすことと、毎月の新規数を増やすことは、同じ在籍人数を保つための両輪です。どちらか一方だけを動かす必要はなく、両方を少しずつ動かした結果として在籍人数が保たれる、という考え方もできます。

ここで出しているのは「いまの人数を保つのに毎月何人の新規が要るか」という問いです。いま担当している人が延びた分を新規何人分の売上にあたるかとして、費用と時間で比べる話は、集客記事が扱っている別の問いになります。「継続期間は延ばせます」と約束しているわけではなく、書けるのは延びた場合に何が変わるかというところまでです。

どれから動かすかは、枠が空いているかで決まる

3つのうちどれを選ぶかに、一般解はありません。単価・人数・継続期間のどれが「いちばん効く」かという問いには、そもそも答えがありません。3つは同じだけ効くからです。答えがあるのは、いまどれを動かせるか、という問いのほうです。決めるのは、受け持てる人数の枠がどれだけ空いているかと、いまの3つの数字です。

  1. 3つの数字を出す― 1人あたり月の売上・いまの担当人数・いま続いている平均の月数を出します

  2. 枠の上限と、いまの空きを出す― 受け持てる人数の上限から、いまの担当人数を引きます

  3. 枠が空いているかどうかで、動かせるものが変わる― 空いているなら人数を増やす打ち手が使えます。埋まっているなら人数はもう動かせないので、単価か継続期間になります

  4. 単価と継続期間を比べる― 単価は許容離脱の上限で、継続期間は必要な新規の減り方で、どちらが自分の現場で現実的かを比べます

業界の平均を目標に置かない

続いている月数を数字にするには、分母・分子・期間を先に決める必要があります。その数え方までは、この記事では扱いません。

3つの数字はどれも、他所の数字と比べる意味が薄いです。単価にも、人数にも、継続月数にも、比べられる形の業界平均は見当たりません。比べる相手は他所の数字ではなく、同じ数え方でそろえた自分の過去になります。

参考にできるものとして、独立行政法人 中小企業基盤整備機構(J-Net21)が公開している業種別開業ガイドでも、パーソナルトレーナーの収入は「1セッションあたりの料金×総セッション数」という月次の式で試算されています。開業する時点での収入を出すための式なので、そこに続いた期間は入っていません。開業ガイドという性質上、月次の式で完結しているのは自然なことで、この記事が式に継続期間という項を足しているのは、すでに担当を持っている人が来月の判断をするための切り口が違うためです。

継続期間を動かすときに、何が要るか

継続期間は、セッションの時間の外側でしか動かせません。だから、外側に手が届く形を先に作ることになります。トレーナーとクライアントの接点は、週1〜2回の対面セッションに限られがちです。残りの数日間は、クライアント本人からの自己申告以外に、様子を知る手段がほとんどありません。単価や新規集客のように、セッションの中だけで完結する打ち手とは、動かす場所そのものが違います。

新規集客には、SNS運用の代行や広告の運用代行など、外注できる道具が数多く揃っています。一方で、いま契約している人に続けてもらう側の道具は、まだ多くありません。この道具の非対称が、継続期間という項を動かしにくくしている一因です。

liftlog Coachが置いているのは、日付・種目・セットを付けた予定をクライアントへ送ると、その実施が消化率(完了数÷配信数)として返ってくるという形です。セッションの外で何が起きているかを、記憶に頼らずに数字で確認できます。この記事で書く自社機能の範囲はここまでです。送ったものが実施されたかどうかが数字で返ってくる、というところまでで、「継続率が上がる」「解約が減る」とは書きません。

まとめ

  • 売上は単価・人数・継続期間の3つの掛け算に分かれます。月商だけを見ると、そのうち2つしか見ていないことになります
  • 3つとも同じだけ効きます。違うのは、かかる費用と、元に戻せるかどうかと、上限の有無です
  • 単価は「何人まで減っても大丈夫か」が計算できます。ただし「何人減るか」は計算できません
  • 人数にだけ物理的な上限があります。枠が埋まっていれば、この打ち手は選べません
  • 継続期間が延びると、いまの人数を保つのに毎月必要な新規の数が減ります

まず、記入枠①と③を1回だけ埋めてみてください。かかる時間は数分です。埋めた3つの数字と枠の空きが、来月どこを動かすかを決める判断材料になります。数字は月によって動くので、埋めっぱなしにせず、状況が変わったタイミングで見直す前提で使ってください。

売上のどこを動かすかを決めたあとは、その打ち手を日々の運用のどこに置くかという話になります。何を記録し、次のセッションまでに何を渡し、実施をどこで確認するかという全体像はパーソナルトレーナーの顧客管理ガイドにまとめています。