継続率は、分母・分子・期間を決めて初めて数字になります。在籍している人を数えるのか、契約を完走した人を数えるのか、更新した人を数えるのかで、同じ現場でもまったく違う数字が出ます。だから、どこかで見た継続率の数字を自分のジムの目標に置いても、比べる相手として成立しません。この記事では、継続率という言葉が指している数え方の整理から、自分の数字での出し方、継続率だけでは間に合わない理由、そして先に何を見ておくかまでを順に書きます。

「継続率」という言葉が指しているもの

「継続率」という単語は、少なくとも3つの別の指標を指しています。どれが正しいということはなく、決めて固定することが先です。指標をつくるときに決めることは3つ、分母・分子・期間です。この3つのどれか1つでも変われば、同じ現場を数えていても違う数字が出ます。だからこそ、継続率が高いか低いかを議論する前に、何を継続率と呼んでいるのかをそろえる必要があります。

分母をどこに置くか

分母の置き方には3通りあります。期首に在籍していた人、その期間に新しく契約した人、これまでに契約したことがある人。分母が変われば、同じ現場が別の数字になります。 期首在籍者を分母にすると安定して長く通っている人の比率が出やすく、新規契約者を分母にすると入りたての人の離脱がそのまま数字に乗ります。累計契約者を分母にすると、過去に離脱した人まで含むので、数字はいちばん低く出やすくなります。どれを選ぶかによって、同じ実態からまったく違う印象の数字が出ます。

分子の「続いている」を何で判定するか

「続いている」の判定も3通りです。期末に在籍している、契約したプランを最後まで実施した、次の契約に更新した。1回のプランで完結する短期集中型と、月額で続く契約とでは、そもそも「続いている」の意味が違います。月額契約なら「期末に在籍しているか」が自然な判定になりますが、短期集中プランには期末という区切りが無いので、「最後まで実施したか」で判定するほうが実態に合います。プランの形に、判定方法のほうを合わせる必要があります。

期間をどう区切るか

期間の区切り方は、月次・年次・契約期間そのもの・入会月ごとに束ねて追う(コホート)の4通りです。月次は動きが早く見える一方で母数が小さくなりやすく、年次は安定しますが変化に気づくのが遅れます。契約期間そのもので区切ると、プランごとの完走・更新は見えますが、月をまたいだ比較がしづらくなります。どの区切り方にも一長一短があり、これも決めたら変えずに使い続けることになります。

3つの数え方と、それぞれが答える問い
数え方分母分子答えられる問い
在籍継続率期首に在籍していた人期末に在籍している人いま何人残っているか
完走率その期間に契約した人契約したプランを最後まで実施した人買ったものを使い切ったか
更新率プランが満了した人次の契約に更新した人もう一度選ばれたか

在籍継続率は、いま何人残っているかを表す数字で、教室やジムの規模感をつかみたいときに向いています。完走率は、契約したプランを最後までやり切ってもらえたかを表す数字で、短期集中プランの手応えに近い指標です。更新率は、プランが終わったあとにもう一度選ばれたかを表す数字で、関係が続いているかどうかを直接映します。同じ「継続率」という言葉でも、この3つは答えている問いがそれぞれ違います。

借りてきた数字が比べられない理由

業界平均として使える継続率の数字は見当たりません。比べる相手にできるのは、他所の数字ではなく自分の過去です。

どこかで見た「継続率◯%」という数字を自分のジムの目標として掲げても、その数字が何を分母に、何を分子に、どの期間で数えたものかが分からなければ目標として機能しません。届いているのか届いていないのかを判定できないからです。

理由の一つは、公的統計に継続率の項目が無いことです。経済産業省の特定サービス産業動態統計調査で、フィットネスクラブについて取られているのは売上高・利用者数・会員数(個人・法人・学校)・事業所数・従業者数・指導員数で、入会者数と退会者数の項目はありません。 会員数の増減は入会と退会の差し引きなので、この統計から継続率だけを取り出すことはできません。加えてこの調査は2024年12月調査をもって終了しています。つまり、フィットネス業界について国が定期的に公表している数字の中に、継続率を組み立てるための材料はもともと入っていません。

もう一つの理由は、公開されている調査どうしを比べても、数えているものが違うことです。ある調査は経験者のうち今も通っている人を数え、別の調査は経験者のうち最後まで続けた人を数えています。どちらも正しい数え方で、指しているものが違うだけです。この違いは、どちらかの調査が間違っているという話ではありません。同じ「継続率」という言葉を使いながら、測っているものが違うだけです。だからこそ、外から借りてきた数字どうしを並べて比較することにも意味がありません。

だからといって、継続率を測ること自体に意味が無いわけではありません。意味を持たせるには、比べる相手を自分の過去に絞ることです。同じ数え方で先月と今月、今年と去年を並べれば、動きに理由をつけられます。外から借りてきた数字を目標にする代わりに、自分が決めた数え方そのものを目標にする、という考え方に切り替えることになります。

新規を追う前に、いまの担当が続いているかを見ておくと、数字の意味が変わります。

自分の数字で数える

他所の数字を探すより、自分の数字を出したほうが早いです。手順は5段階で、1回決めれば、あとは同じ決め方で並べるだけです。

  1. 数える単位を決める― 人で数えるか、契約で数えるか

  2. 分母を決める― 期首在籍・新規契約・累計契約のどれに置くか

  3. 分子の「続いている」の判定を決める― 在籍・完走・更新のどれで判定するか

  4. 期間を決める― 月次・年次・契約期間・コホートのどれで区切るか

  5. 除外を決める― 目標達成での卒業・転居・休会を、辞めた側に数えるかどうか

5つのうち、実務でいちばん迷うのは分母と除外の決め方です。分母を新規契約者にするか期首在籍者にするかで数字の出方が変わりますし、目標を達成して卒業した人を「続いた」に数えるか「辞めた」に数えるかでも結果が変わります。迷ったときほど、あとから見返して分かるように決め方をメモに残しておくことが大事です。

5つが決まったら、実際に計算します。たとえば4月1日時点で担当していたのが12人、7月1日時点で続いていたのが9人なら、3か月の在籍継続率は75%です。

この12人・9人は手順を示すための例で、平均でも目安でもありません。あなたの数字を入れてください。

1回計算できれば、同じ手順を来月も再現できます。難しいのは計算そのものではなく、決めた数え方を変えずに守り続けることです。

入会月ごとに束ねて追う

全体をまとめた1つの数字は、新規契約が多い月に上がって見えます。新規契約が多い月は、まだ離脱するタイミングを迎えていない人の比率が高くなるので、母数全体で計算した継続率は実態より高く出やすくなります。契約した月ごとに束ねて(コホート)、「契約から3か月後に何人残ったか」を並べると、この歪みを避けたうえで、いつ抜けているかが見えてきます。

売上を単価×人数×継続期間に分けると、継続率がどこに効いているかが見えてきます。

継続率が答えてくれないこと

継続率が下がった月に分かるのは、もう辞めたという事実だけです。数え方をそろえても、気づくのが遅いことは変わりません。手を打てる時間は、辞める数週間前にあります。継続率が結果を映す数字だとすれば、必要なのは結果が出るより前に動く数字です。

先に動くサインは3つ

  • 記録が途絶えている― 最後に記録が付いた日からの日数
  • 送った予定が消化されていない― 配ったのに実施されていない
  • そもそも次の予定が入っていない― 送るものが無い状態が続いている

3つはそれぞれ別の角度からのサインです。記録の途絶は本人の行動そのもの、予定の未消化は渡したものが実際に使われているか、次の予定の有無は関係が続く前提が保たれているかを表します。どれか1つだけでなく、組み合わせて見ることで、辞める前の変化に気づきやすくなります。サインの拾い方の各論(どんな理由で記録が途絶えるか)は、ここでは扱いません。

消化率も、分母・分子・期間で決まる

継続率と同じ型は、消化率にもそのまま当てはまります。配信した予定のうち、どれだけが実際にこなされたかを見れば、続けているかどうかを在籍の有無とは別の角度から確認できます。liftlog Coachでは、消化率を完了数÷配信総数(対象期間の予定件数全体。スキップも分母に入ります)で出し、クライアント一覧に表示するのは直近30日ぶんです。ここで示したいのは定義そのもので、実測値は書きません。

一覧の上段には、今日以降の予定が1件も無い人と、記録が7日以上途絶えている人が先に出ます。両方に当てはまる人は前者に1回だけ出します。同じ人が2行に出ると、件数が実人数とずれるからです。まだ1件も記録が無い人は、連携した日からの日数で数えます。予定が無い人を上に出すのは、その場で次の予定をつくるという打ち手にすぐつなげられるからです。

これで継続率が上がる、解約が減るとは言えません。言えるのは、気づくのが早くなるということだけです。

数え始めたあとにすること

数字が動いたら、まず何が動いたのかを切り分けます。

継続率が動いたときに疑う順番
動き方中身確かめ方
数え方を変えた(分母・除外の扱い)分母の置き方や除外ルールを月の途中で変えた先月と今月で数え方の定義が同じかを見直す
契約の形が変わった(短期プランの比率)短期集中プランの契約が増えると、分母の性質そのものが変わるその月に短期プランで契約した人の割合を確認する
母数が小さくて1人ぶんが効いた担当人数が少ないと、1人の増減が率を大きく動かす率だけでなく、動いた実人数を見る
実際に離脱が増えた数え方も契約構成も変わっていないのに率が下がった先に動くサイン(記録の途絶・予定の未消化)が離脱の前に出ていたかをさかのぼる

数え方を変えただけなら、それは離脱が増えたのではなく物差しを変えただけです。契約の形が変わったのであれば、短期集中プランが増えた結果として分母の性質そのものが変わったことになります。母数が小さいだけなら、慌てて手を打つ前に、実際に離脱した人数を確認すれば足ります。ここまでの3つを1つずつ消していって、それでも数字が動いているなら、実際に離脱が増えていると考えられます。

この4つの疑い方は、上から順に確かめるのが早道です。数え方と契約構成という「測り方」の側から先に消していき、それでも残るなら実際に離脱が増えていると判断します。逆の順番で見ると、測り方の変化を離脱の増加と取り違えて、必要のない対策に手を出すことになります。

サインが出た人に対してできることは、連絡する・次の予定を入れる・内容を見直す、の3つに絞れます。何を指導するかの中身は、ここでは扱いません。

セッションとセッションの間に何を渡すかは、カルテの側の話になります。

まとめ

  • 継続率は分母・分子・期間の3つを決めて初めて数字になる。決めたら途中で変えない
  • 借りてきた数字は比べられない。公的統計に項目が無く、公開されている調査どうしも数えているものが違う。比べる相手は自分の過去になる
  • 計算例はであって、平均でも目安でもない。あなたの数字を入れて計算し直す
  • 母数が小さいと率は暴れる。担当が少ない規模では、率だけでなく人数のまま見る場面も要る
  • 継続率は遅れて動く指標。気づいたときにはもう辞めている
  • 先に動くサインは記録の途絶・予定の未消化・予定が0件の3つ。組み合わせて見る

継続率は「上げ方」を探す前に、まず自分の数え方を決める指標です。今月の分母と分子を1回だけ数えて、決め方をメモに残してください。次に比べる相手はその数字です。

継続率の数え方は、クライアント管理全体の一部です。何を記録し、次のセッションまでに何を渡し、実施をどこで確認するかという全体像は、パーソナルトレーナーの顧客管理ガイドにまとめています。