独立の準備には決まった型があります。働き方の形を決め、資金を用意し、届出を出し、価格を決め、集客を立ち上げる。この一覧が決めているのは、何人を、いくらで担当するかまでです。もう1つの変数、その人たちが何ヶ月続くかは、開業する前には決めようがないので一覧に入りません。ただし効き始めるのは独立した翌月からです。この記事が扱うのは、その3つ目だけです。

独立すると、担当が続くかどうかが、そのまま毎月の売上になる

独立すると、担当している1人が離れることが、そのまま今月の売上の穴になります。ジムや店舗に所属していたときや、業務委託という形で担当を割り振られていたときは、新しい担当を連れてくる役目も、空いた枠を埋める役目も、事業者側が持っている形もありました。集客の変数と、担当が続くかどうかの変数のあいだに、緩衝が挟まっていたことになります。

独立すると、この緩衝が無くなります。集客も、担当が続くかどうかも、そのまま自分の数字として跳ね返ってきます。1人が離れれば、その分の売上がそのまま消えます。所属先が新しい担当を回してくれることもなければ、離れた理由を代わりに調べてくれる人もいません。

これは「独立は厳しい」という話ではなく、効いてくる変数が変わるという話です。所属や業務委託のときは、集客の変数だけを見ていれば足りる場面もありました。独立すると、集客の変数に加えて、いま担当している人が続くかどうかという変数が、同じ重みで効いてくるようになります。どちらか一方だけを見ていると、もう一方の変数が動いたことに気づかないまま、月の売上だけが上下することになります。

独立の準備の一覧は、「何人」と「いくらで」までを決める

独立の準備を扱う記事を見ていくと、内容にはだいたい決まった型があります。店舗を借りるか、間借りするか、オンラインだけにするかという働き方の形を決める。開業に必要な資金を用意する。開業届などの手続きを済ませる。セッションの価格を決める。集客の手段を立ち上げる。ここまでが、準備の一覧が扱っている範囲です。

この一覧がしていることを整理すると、担当する人数と、1人あたりの単価を作ることに集約されます。売上は単価×人数×続いた期間の掛け算で決まりますが、準備の一覧が決めるのは単価と人数のところまでで、続いた期間は開業する前には決めようがないため、一覧の中には入ってきません。単価と人数を決める作業は開業前に済ませられますが、続いた期間のほうは、実際に担当が始まってからでないと動き出さない数字です。3つの掛け算のどれを動かすかを、自分の数字を入れて選ぶ計算は売上を単価・人数・継続期間に分けるの側にまとめてあります。

開業資金がいくら要るか、資格が要るかどうか、独立後の年収がどれくらいになるかは、この記事では扱いません。働き方の形によって桁が大きく変わるうえ、届出の手続きは制度そのものの案内に当たったほうが正確だからです。事業を新しく始める際の届出書類・提出方法は、国税庁の案内にまとまっています。

この記事が扱うのは、準備の一覧が決めない側、つまり担当している人が何ヶ月続くかのほうです。

独立してすぐの時期は、1人の重みがいちばん大きい

担当が5人のときに1人抜けるのと、30人のときに1人抜けるのとでは、意味が違います。5人のうち1人が抜けると、担当全体の2割がいちどに消えたことになります。30人のうち1人が抜けても、同じ1人でも占める重みはずっと小さくなります。独立してすぐの時期は、担当している人数がまだ少ないぶん、1人あたりの重みがいちばん大きい時期でもあります。

同時に、この時期は記録の置き場所と、「続いているか」の確認の仕方を決めるコストがいちばん低い時期でもあります。担当が数人しかいなければ、記録をどこに置くか、次回までの宿題をどう渡すかといった仕組みを、ゼロから決めて回してみることができます。担当が増えてから同じことをしようとすると、それまでに積み上がった履歴を新しい仕組みへ移す作業が追加でかかります。担当している人数が少ないうちに決めておくほうが、あとから同じ仕組みを作るより手間が少なく済みます。

何人までなら大丈夫という基準は、ここでは示せません。決めておけば必ず続く、という話でもありません。言えるのは、決めるコストがいちばん低いのが独立してすぐの時期だ、ということだけです。

担当が少ないうちは率で見ると数字が大きく動きます。継続率の数え方の側では、率だけでなく人数のまま見る話を扱っています。

集客が回っても、続かなければ同じ量を毎月やり直すことになる

独立の失敗としてよく語られるのは、集客がうまくいかないという形です。たしかにそれは大きな要因の1つですが、失敗の形はもう1つあります。集客そのものは回ったのに担当が続かず、翌月もまた同じ量の集客をやり直すことになる形です。

新規のクライアントを1人増やすのと、いま担当している1人の契約が数ヶ月延びるのとでは、売上の上では同じことが起きています。どちらも、続いた月数ぶんの売上を積み増しているという意味で違いはありません。違うのは、そこにかかる手間と費用のほうです。新規1人を集めるには、投稿や広告、体験セッションといった手間と費用がかかります。いま担当している人が延びる分には、その手間と費用はかかりません。

集客が得意なトレーナーほど、この失敗形には気づきにくくなります。新規が途切れず入ってくるので、数字の上では毎月それなりの売上が立つからです。ただし、その中身が新しく集めた分ばかりで占められている場合、集客にかけている手間と費用の総量は、担当が続いている場合と比べて減っていきません。

集客の手法そのものの選び方や進め方は、ここでは扱いません。新規1人にかけている費用と時間を、いま担当している人が数ヶ月延びたときの売上と並べる計算は、新規と継続のどちらに時間を使うかの側にまとめてあります。

これは、続けてもらえれば集客が要らなくなるという話ではありません。担当の枠が空いているなら、新規は必要です。順番として、いま担当している人がどれだけ続いているかを先に見ておくと、集客にどれだけの手間と費用をかけるかの判断がしやすくなる、という話です。

いきなり独立するかどうかを、数字で1つ確かめる

いきなり独立していいかどうかを、ここで判定することはしません。代わりに、独立する前に確かめられる数字を1つ足すことはできます。いま自分が担当している人が、平均で何ヶ月続いているか、という数字です。独立後に効いてくる変数のうち、これだけは独立する前に、手元のデータで確かめられます。

所属している間に確かめられること

精密な数字である必要はありません。直近で契約が終わった数人分の期間を平均する程度で十分です。大事なのは正確さより、あとで同じ数え方を繰り返せることのほうです。独立する前に何度も測り直す必要はなく、1回、いまの時点で出しておくだけで足ります。同じ数え方で出した数字を独立の前後で並べれば、比べる基準になります。

その数字が手元にない場合

所属先が数字を持っていて、自分では見られないこともあります。その場合でも、自分が担当している分だけを、自分で決めた数え方で数えておくことはできます。分母・分子・期間をどう決めるかは、分母・分子・期間の決め方の側で扱っています。

独立した月から決めておく3つ

独立した月から、決めておくとよいことが3つあります。

① 記録をどこに置くか。 実施した種目・重量・回数・体組成のように、毎回のセッションで増えていく欄を、誰が入力するかを先に決めます。トレーナー自身が入力する形もあれば、クライアント本人がつけた記録がそのまま入ってくる形もあります。何を記載項目として置くかは、カルテの記載項目と、次回までの設計の側で扱っています。

② 宿題をどう渡して、実施をどう確認するか。 口頭やメモだけで宿題を渡すと、実施したかどうかを確認する手段がないまま、渡しっぱなしになりがちです。渡した側に、実施したかどうかが返ってくる形にしておくと、次のセッションを待たずに様子が分かります。

③ 何を見て「続いていない」と判断するか。 次の予約が入っているかどうかだけを見ていると、気づくのが遅れます。セッションとセッションの間にも、データとして残るものがあります。最後に記録が付いた日、送った予定が実施されたか、そして今日以降の予定が1件も入っていないかどうかです。liftlog Coachのクライアント一覧では、今日以降の予定が1件も無い人と、7日以上記録が途絶えている人が上段に出ます。次にどちらへ連絡するかを、記憶に頼らずに決められるようにする仕組みです。

3つとも、担当している人数が増えてから決めようとすると、その時点までの記録や運用を新しい形に合わせて移す作業が発生します。独立した月のうちに決めておけば、その作業は要りません。決め方を大きく変える必要が出てくるのは、担当の人数が変わったときではなく、記録の置き場所や確認の仕方そのものに無理が出てきたときです。

まとめ

  • 独立の準備の一覧で決まるのは「何人」と「いくらで」まで。「何ヶ月続くか」は開業してから動き始める
  • 独立すると、担当1人が離れることがそのまま今月の売上に効く
  • 担当が少ない時期ほど1人の重みは大きく、同時に記録と確認の仕組みを決めるコストはいちばん低い
  • 失敗として語られるのは集客だが、集客が回っても続かなければ同じ量を毎月やり直すことになる
  • いきなり独立するかどうかの是非は判定できないが、独立前に確かめられる数字が1つある(いま担当している人が平均で何ヶ月続いているか)

直近で契約が終わった数人の期間を平均してみることから始められます。そこで出た数字が、独立したあとに比べる最初の基準になります。

記録する・渡す・確認するの3つに分けた運用の全体像は、パーソナルトレーナーの顧客管理ガイドにまとめています。