担当クライアントを自分1人で持っていて、書くのも自分だけなら、顧客管理は表計算のままで足ります。足りなくなるのは人数が増えたときではなく、セッションの外で起きたことをシートに載せようとしたときです。ここから、そのまま写せる3枚の列構成と、次に手をかける相手が自動で上に出てくる確認用シート、そして表計算で足りなくなる3つの合図を順に書きます。

表計算で足りるのは、どこまでか

表計算に載せられる情報には、はっきりした性質があります。発生する頻度が週1〜2回程度で、書く人がトレーナー自身だけという条件です。連絡先、契約と残回数、入金、セッションごとの申し送り、次回予定はどれもこの条件に収まります。トレーナーがセッションの前後に、自分の手で書いているものだからです。

載せようとして止まるのは、セッションの外で起きることです。自主トレの実施、体重の推移、食事の内容は毎日発生し、原本はクライアントの手元にあります。トレーナー本人が書いたものではないので、シートに入れるには誰かが転記するしかありません。

ここで「担当人数が多いと限界が来る」という言い方はしません。限界を決めているのは人数ではなく、シートに載せようとしている情報がどちらの性質を持つかだからです。担当が1人だけでも、その1人の自主トレを毎日転記しようとすれば、同じところで止まります。

表計算に載るもの / 載せると止まるもの
表計算に載るもの載せると止まるもの
発生頻度週1〜2回。セッションの前後にまとめて書く毎日。自主トレ・体重・食事は日々発生する
書く人トレーナー自身クライアント本人
原本の場所トレーナーの手元(セッションで見聞きしたこと)クライアントの手元(本人のスマホや記憶の中)
具体例連絡先・契約と残回数・入金・セッションごとの申し送り・次回予定自主トレの実施記録・体重の推移・食事の内容

シートは3枚に割る

シートは1枚の万能表にせず、かといって1人1タブにもしません。台帳・セッション記録・確認用の3枚に分けます。

台帳は変わらない情報、セッション記録は増えていく情報です。性質が違うものを同じ表に混ぜると、行が増えるたびに連絡先を書き直すような無駄が発生します。台帳は1行1人のまま増えず、セッション記録だけが下に伸びていく形にしておきます。

1人1タブにしない理由が、この記事でいちばん効く設計判断です。 あとで確認用シートに使うMAXIFSもCOUNTIFSも、どちらも「1つの範囲+条件」で成り立つ関数です。クライアントごとにタブを分けると、この範囲がタブの数だけ分かれます。1人分は見やすくなりますが、全員を横断して見る式は、タブの数だけ書き直すことになります。

確認用シートには何も入力しません。全部を式にして、開いた瞬間に「次に手をかける相手」が上に来ている状態を作るための1枚です。

台帳シートの列(1行1人)

台帳が持つのは、セッションのたびに変わらない情報だけです。列は10個にします。

台帳シート(1行1人)
見出し入れるもの
AID短い記号。他の2枚はこれで引くC001
B氏名表記はここで固定する佐藤 太郎
C連絡先実際に使う手段を1つLINE: sato_t
D開始日初回セッションの日2026-04-12
E契約種別回数券 / 月額 / 都度回数券
F契約回数回数券のときだけ。月額は空16
G契約日回数券の購入日、月額の課金日2026-07-30
H目標本人の言葉のまま1行8月までに-5kg
I頻度の約束週何回で回す約束か週2
J状態継続中 / 休止 / 終了継続中

列の根拠のうち、本文で説明が必要なのは次の5つです。残りは表のとおりで足ります。

A列(ID) — 氏名で引くと、同姓、スペースの有無、旧姓で式が噛み合わなくなります。IDは変わらないので、他の2枚のシートはすべてこのIDで引きます。

B列(氏名) — 表記の正は台帳が持ちます。セッション記録シート側はIDだけを入力し、氏名は式で引く形にすると、入力の手数も減ります。

E〜G列(契約種別・契約回数・契約日) — 残回数は手で減算しません。契約回数と契約日さえ持っておけば、実施回数は確認用シート側の式で引けます。

I列(頻度の約束) — 経過日数を見るときの基準になります。週2の約束の人が10日空いているのと、週1の約束の人が10日空いているのとでは、意味がまったく違います。

既往やけがの詳細を台帳に置くかどうかは、扱いのルールを決めてから判断してください。顧客の名簿は個人情報にあたるので、判断の拠り所は個人情報保護委員会の資料に沿います。

セッション記録シートの列(1行1セッション)

セッション記録は、セッションのたびに増えていく情報を持ちます。列は9個にします。

セッション記録シート(1行1セッション)
見出し入れるもの
A日付実施日2026-08-12
BID台帳のID。プルダウンにするC001
C区分実施 / 欠席 / 振替実施
Dメニュー概要その日やったことを1行下半身・スクワット中心
E体重測ったときだけ72.4
F宿題次回までに渡した内容。渡していなければ空火・木にスクワット2セット
G申し送り自分用。次回の入り方右膝の違和感、次回は可動域から
H次回予定日決まっていれば2026-08-19
I宿題を渡した日F列が埋まっている行だけ日付を返す式。=IF(F2="","",A2)2026-08-12

C列(区分)を作り、欠席の行も残します。 欠席を消してしまうと、残回数が合わなくなり、間隔が空いた理由もあとから分からなくなります。

F列(宿題)とG列(申し送り)は分けます。 宿題は相手に渡したもの、申し送りは自分用のメモです。混ぜてしまうと、「渡したかどうか」があとから判定できなくなります。F列が空のまま並ぶこと自体が、この記事でいちばん重要な情報になります(足りなくなる合図の2つ目で回収します)。

I列(式列) はF列が埋まっている行だけ日付を返します。これがあると、確認用シート側で「最後に宿題を渡した日」を1つの式で引けます。

D列(メニュー概要)は1行に収めます。種目・重量・回数を分解して列にはしません。分解した瞬間、1セッションが複数行になり、台帳との1対1の対応が崩れます。

各列に何を書くか(所見や宿題の中身)そのものは、カルテの記載項目の側で扱っています。この記事で決めるのは、器としての列と式です。

確認用シート — 次に手をかける相手を、上に出す

確認用シートには何も入力しません。台帳とセッション記録から式で引いてくるだけの、1行1人の表です。列は8個にします。

確認用シート(1行1人・入力しない)
出すもの式(2行目に入れて下へコピー)
AID台帳から貼る
B氏名台帳から引く
C最終セッション日=MAXIFS(セッション!$A:$A, セッション!$B:$B, $A2)
D経過日数=TODAY()-C2
E契約後の実施回数=COUNTIFS(セッション!$B:$B, $A2, セッション!$C:$C, "実施", セッション!$A:$A, ">="&契約日)
F残回数=契約回数-E2
G次回予定日=MAXIFS(セッション!$H:$H, セッション!$B:$B, $A2)
H宿題を渡した最後の日=MAXIFS(セッション!$I:$I, セッション!$B:$B, $A2)

関数の意味を1つずつ説明することはしません。ここで書くのは「なぜこの列を出すか」だけです。

C列(最終セッション日)とD列(経過日数)を並べておくと、いちばん間隔が空いている人が一目で分かります。E列(契約後の実施回数)とF列(残回数)は、契約回数と契約日さえ台帳にあれば式だけで出るので、手で数える作業がなくなります。H列(宿題を渡した最後の日)は、セッション記録のI列を人ごとに拾ってくるだけの列です。

D列には条件付き書式を1本入れておくと、開いた瞬間に目が行きやすくなります。パソコンなら「表示形式」→「条件付き書式」の順に開き、色を付ける基準を決めます。何日で色を付けるかは決め打ちしません。台帳のI列「頻度の約束」の倍の日数、という決め方を目安にすると、週2の約束の人と週1の約束の人で違う基準になります。

並べ替えはD列の降順にしておきます。これで、いちばん空いている人が一番上に来ます。

この3列(最終セッション日・経過日数・宿題を渡した最後の日)は、liftlog Coachのクライアント一覧で実装している指標を表計算に写したものです。Coach側は最終記録日・最新体重・今日の予定・直近30日の消化率を並べ、上段には「今日以降の予定が1件も無い人」「7日以上記録が途絶えている人」を先に出します。表計算でも、見る順番を決めるところまでは同じことができます。

足りなくなる3つの合図

合図が出るまでは、シートを作り替える必要はありません。

合図1 — クライアントごとにタブを分け始めたとき

次の質問に、YESが出るかどうかを確かめてください。

  • 台帳を開いて「今週まだ触れていない人」を挙げるのに、スクロールと記憶が必要か
  • 1人1タブにし始めていないか
  • 先週、全員分の行を実際に上から見たか

確認用シートの式は、1つの範囲を前提に組んであります。タブに分けると、この範囲が人数分に割れるので、横断して見る式を人数分書き直すことになります。人数が増えて壊れるのではなく、タブに分けた時点で壊れます。「担当◯名を超えたら」という人数の線引きは、ここでは使いません。

合図2 — セッションの外のことを書こうとして、転記が始まったとき

次の質問に答えてみてください。

  • シートの最終更新が、直近のセッション日より後になっているか(セッション外の出来事が1行でも入っているか)
  • LINEを遡って転記する時間が、週の作業に入っているか
  • 「前回から今日までに何をしたか」を、シートだけで答えられるか

確認用シートのH列(宿題を渡した最後の日)は、これが起きると全員分ずっと止まったままになります。渡していないのではなく、渡したあと実施されたかどうかが返ってこないので、次に何を渡すかの判断ができなくなります。

セッション外の情報は毎日発生し、原本はクライアントの手元にあります。転記は誰かが手で埋める作業なので、忙しい週から順に落ちます。これは表計算の限界というより、入力の主体がトレーナーではなくなった、ということです。

合図3 — 自分以外の人がそのファイルを開くとき

次の質問に答えてみてください。

  • クライアント本人に見せたくなったとき、そのファイルに他の人の行が入っていないか
  • 他のトレーナーや店舗と共有する予定があるか
  • 見る場所が、パソコンからスマートフォンに移っていないか

Googleドライブの共有は、権限(閲覧者・閲覧者(コメント可)・編集者・オーナー)ごとに、ダウンロード・印刷・コピー・共有・権限変更の可否が変わります。シートや範囲の保護を使えば、編集できる相手を「自分のみ」や「カスタム(選択したユーザーだけが編集できる)」に絞ることもできます。Excelで複数人が同時に編集するには、OneDrive・OneDrive for Business・SharePoint Onlineのいずれかへの保存と、対応するファイル形式(.xlsx・.xlsm・.xlsb)、Microsoft 365のサインインが要ります。

集計機能にも制約があります。ピボットテーブルはスマートフォンのアプリでは扱えず、公式ヘルプは「ピボット テーブルを使用するには、パソコンで sheets.google.com にアクセスしてください。」と案内しています。ジムでスマートフォンから開いて確認する、という運用には向きません。

合図が出たあと、何を移して何を残すか

合図が出たからといって、全部を乗り換える必要はありません。残すものと移すものは、合図の中身で決まっています。

残す(表計算のほうが素直なもの) — 契約・入金・回数券の残り、自分用の申し送り、自分で決めた指標の列です。列を自分で決められるのは、表計算の強みです。

移す(表計算では埋まらないもの) — セッション外の記録と、送った内容が実施されたかどうかの確認です。原本がクライアント側にあるものは、転記ではなく共有で解決するしかありません。

移す先の道具を選ぶ段になったら、顧客管理アプリの選び方で比べる軸を先に決めておくと、機能の数に引っぱられずに済みます。

liftlog Coachは、この構造で作っています。クライアントは自分のために使っている無料の記録アプリ(iOS・Android で公開済み)をそのまま使い、トレーナーはその同じ記録を見て、同じアプリに予定を返します。トレーナー側は閲覧のみで、書き込めるのはトレーニング予定だけです。連携は本人の明示同意で結び、解除すればその時点で見えなくなります。

まとめ

  • 表計算に載るのは、発生が週1〜2回で書く人が自分だけの情報。セッション外の記録は載せると止まる
  • シートは1枚にも1人1タブにもせず、台帳(1行1人)・セッション記録(1行1セッション)・確認用(式だけ)の3枚に割る
  • 台帳は10列、セッション記録は9列。増えるのはセッション記録だけで、台帳は増えない
  • 確認用シートは何も入力しない。MAXIFS・COUNTIFS・TODAYで、次に手をかける相手を上に出す
  • 足りなくなる合図は「タブが増えた」「転記が始まった」「自分以外が開く」の3つ
  • 合図が出るまでは、シートを作り替える必要はない
  • 合図が出たあとも、残せるものと移すものは分けて考える